鈴木さんはどうなっちゃうの?
「狩野さんは、あの町に保護対象者だと言って住み着いた危険人物かもしれない。でも本当に保護対象者かもしれないし……難しいね」
おじさんにも分からないんだね……
「あ……私のご近所さんの『鈴木さん夫妻』を、母方の祖父母だって鈴木さんが言っていたけど……」
「え? あの猫のモモちゃんの?」
「鈴木さんのおじいさんとおばあさんも危険人物かもしれないの?」
「鈴木夫妻か……うーん。あ……そういう事か……」
「何か分かったの?」
「鈴木夫妻の息子さんはピックアップされた人なんだよ」
「え? そうだったの?」
「うん。確か娘さんもそうだったはずだよ。二人一緒に薬を使われたらしい。二十年くらい前……拐われた探偵の帰りを待つ間に、君のママが鈴木夫妻と話をしたんだ。あの探偵事務所周辺には保護対象者が数人暮らしているんだけどね、探偵が君のママを救出した事を知った人達が藁にもすがる思いで引っ越して来たんだよ。あの時引っ越して来た人に保護対象者だと嘘をつく『見張る者』はいなかったんだけど……狩野さんが引っ越して来たのはそれよりずっと後だったから調べていないんだ」
「その娘さんって鈴木さんのお母さん……だよね?」
「そうだろうね。引っ越して来たのは夫妻だけで娘さんは結婚して別に住んでいたらしい。息子さんは既に保護されていてね」
「拐われたんじゃなくて『保護』って言うんだね」
「うーん……息子さんのいる施設なら『保護』でいいと思うんだ。君のママもね」
「……穏やかに暮らせているから?」
「そうだね……その事は鈴木夫妻には話してあるよ」
「そう……」
「娘さんは覚醒しなかったらしくてね。普通に暮らしていたって聞いたけど……」
「覚醒する人としない人の違いは何なのかな?」
「それはおじさんには分からないよ。たぶんこの件を進めている偉い人にも分からないんじゃないかな? だからピックアップして色々データを集めているんだと思うよ?」
「そっか……」
「鈴木夫妻の娘さんはピックアップされても覚醒しなかった。息子さんは突然いなくなって……今度はその娘さんの子供達に薬を使われた。鈴木夫妻は辛いだろうね」
「うん……」
「……覚醒に失敗すると……暴走するらしい」
「暴走?」
「……脳が腐る? みたいな……自分が自分でなくなるらしいんだよ」
「まさか……鈴木さんからしていた匂いは……」
「暴走すると……命尽きるまで暴れるらしい」
「暴れる?」
「あの女の子に大勢の見張りがいたのは……もしかしたら覚醒が失敗したからいつ暴れてもいいように……」
「……まさか鈴木さんを消すの?」
「可能性は高いはずだよ。考えられないくらいの数の見張りが……しまった……」
「……え?」
「あれだけの数の人達に君を見られた……」
「おじさん?」
「あ……いや……とにかく家に帰るんだ。今の話を忘れずに探偵にするんだよ? 明日から君の見張りを増やしてもらおう。今の一日一人体制から数人に増やしてもらうんだ。おじさんが全員をきちんと紹介するからそれ以外の人は敵だと思うんだよ?」
「……? どうして?」
「あの女の子はわざと公園で君と話したんだ。自分を見張っている人達に君の存在を見せる為にね」
「……鈴木さんは……悪い人なの?」
「元々は違ったのかもしれない。覚醒に失敗すると……周りの不幸を望むようになるんだ」
「たぶんだけど……君が皆から守られて幸せそうに暮らしている姿に嫉妬して、不幸にしたい苦しめたいとこんな事を……」
「そんな……」
「もうあの女の子に会ったらダメだよ? あの子は痛みすら感じない身体になりつつある」
痛みすら感じない身体……?