おじさんは焼き肉が好きなんだね
駅前にある高級焼き肉の個室___
見るからに高そうな一枚板のテーブルに黒い椅子。
油で汚れていない綺麗な壁には難しい文字の入った額が飾られている。
時々叔父さんの機嫌が良い時に連れていってくれる、メニューもテーブルも窓ガラスも油でベタベタの焼き肉屋とは全然違うね。
床も滑らないし油臭くもないしエアコンも埃まみれじゃない。
どこを見てもピカピカだ。
でも落ち着かない……
貧乏性なのかな?
「おい。ツクツク駿河は扉側の端に座れ」
叔父さんが怒りながらお兄ちゃんに話しているけど……
「もう! 叔父さんは意地悪しないの!」
「真葵は反対側の端に座れ」
「え? なんで?」
「これから二人は二メートル以内に近づくな」
「無理でしょ。お兄ちゃんは私を見守っているんだよ?」
叔父さんは突然どうしちゃったの?
「ははは! 娘を持つ父親は大変だな」
おじいちゃんが面白そうに笑っている?
「小田、肉はまだか?」
「一番高い酒はどれだ?」
「店にある肉を全部頼むか」
「最近は胃がもたれるから赤身がいいな」
好き放題言っているのは『初めからある施設の長』三人と、覚醒者を傷つける人を制圧する『暗殺部隊を率いる繋ぐ者』らしいけど……
五十代後半くらいから七十代前半くらいの男性が四人。
真理ちゃんのお兄さんを保護している施設長は来ていないって言っていたよね。
一人だけ身体が大きいけど、あの人が繋ぐ者かな?
「……お前達はどうしてここにいるんだ」
おじいちゃんがかなり嫌そうに話している。
仲がいいわけじゃないのかな?
「葵様の護衛だ。それに、こんな事でもないと皆で集まらないだろ。お嬢ちゃん。正解だ。俺が繋ぐ者だ。ちなみに皆仲良しだぞ! ははは!」
……私が考えている事を聞いたの?
しかもそれを口に出して普通に話している……
隠すつもりはないんだね。
ママの護衛……か。
そういえばママが『今回は施設長達がいるから特別に外出できた』みたいな事を話していたよね。
ママは叔父さんの隣で珍しそうに焼き肉の網を見ているけど、ずっとニコニコ笑って幸せそうだ。
「何が護衛だ。好き勝手飲み食いして……お前の分は別会計だ」
おじいちゃんは本当に嫌みたいだね。
「俺は財布を持って来なかった。ははは! お嬢ちゃん、暇なら肉をどんどん焼いてくれ! 他人の財布で食う焼き肉は旨いな!」
おじいちゃんと狩野さんも暗殺部隊を率いる繋ぐ者だけど……
この繋ぐ者は豪快で自由で、二人とは雰囲気が全然違うよ。
「お前……帰れ。真葵ちゃん……こいつらはバカだから気にしなくていい。アイスを頼もうか?」
アイス!?
一個八百四十円の!?
いつも食べている一個六十円のアイスの十四倍だよ!?
「ははは! 小田は孫に甘いな! 俺もアイスを頼んでくれ!」
「……」
呆れ果てたおじいちゃんが黙っちゃった。
本当に仲良しなのかな?
「うわあぁ! このカルビ……すごい……油が甘いっ! ぴよたんも食べて! 米をおかわりしちゃおっと!」
斜め前に座るおじさんが汗をかきながらご飯を頬張っている。
何杯おかわりしたんだろう……
今日から叔父さんが上司になったから、これ以上太ったらクビにされちゃうよ。
「おじさん……一人で牛一頭食べちゃいそうだね」
「こんな高級焼き肉なんてなかなか食べられないからねっ! ほらほら、ぴよたんのカルビも焼いたから食べて!」
って言いながら、たっぷりタレを絡ませたカルビでご飯を巻いて自分の口に入れている……
「駿河……それ以上太ったらクビだ」
叔父さんが呆れながらおじさんに話しかけた。
本当にクビにしたりしないよね?
「ええ!? 嫌だよぉ! 一真ぁ……一真の事が大好きだからこれからも一緒にいたいよぉ」
「上目遣いするな!」
「ふふ。カズちゃんは楽しそうね」
叔父さんの隣に座るママが笑っている。
「葵……駿河は甘やかすとどんどん太るんだ」
「あらあら。そうなの? ふふ」
ママはずっと笑っている。
施設にいる時もこんな風に笑っているのかな?
それとも家族が一緒にいるから?




