おじさんの話は今まで聞いていたのとは少し違うみたい?
「おじさん。隣に座ろうよ。あ……偉い人に怒られちゃう?」
埼玉から家に帰る電車に乗ると、隣を歩く『奴ら』の一人のおじさんに話しかける。
「はは。怒られないから大丈夫だよ。おじさん達の中にはまるで家族のように『保護対象者』と暮らす人もいるからね。一緒に座ろうか。君の隣にずっといられるなんて嬉しいよ」
ガラガラの車内のボックス席で隣に座ると、おじさんが嬉しそうにニコニコ笑っている。
「保護対象者? それっておじさんから見たら私?」
「そうだね」
「こちら側の人間は自分達を『切り札』って言っているみたいだけど……」
「うーん……おじさんも雇われているだけだからよくは分からないんだよ」
「そっか……」
「……君は……おじさんの話を全部信じちゃうんだね」
「え……? だっておじさんは嘘を言っていないでしょ?」
「……うーん。君は……もっと他人を疑わないとダメだよ」
「……嘘を言っているの?」
「おじさんは嘘を話していないよ。でも……話していない事はあるよ」
「じゃあ嘘を言っていないよ?」
「うーん……世の中には嘘つきが大勢いるんだよ。おじさんは君が心配なんだ。身体に害が及びそうになれば助けられるけど……さっきみたいに少し離れていて声が聞こえてこない状況だと助けられないんだよ。心を傷つけられる君を見たくないんだ」
「おじさん……」
「さっきの女の子も……もしかしたら嘘を言っているかもしれないよ?」
「……おじさんは、さっきの……女の子の名前とか……知っているの?」
もう色々調べていたりするのかな?
「あの女の子の名前? うーん……表札には『鈴木』って書いてあったね。知っているのはそれだけかな? あ、あとは一か月くらい前に探偵事務所に来たよね。ちょうどあの日はおじさんが君を守っていたんだよ」
「そうだったんだね……」
「……でも……あの女の子……」
「……え?」
「うーん……あの女の子を見守るおじさん達の仲間……っていうか……まぁ、会った事がないから知り合いじゃないけど……」
「……? 私達が『奴ら』とか『彼ら』とか言っている人達?」
「……うーん。『彼ら』とか『奴ら』にも色々あるんだけど……尋常じゃないくらいの数がいたっていうか……」
「……え?」
「ほら、君もすごく重要な保護対象者だけど……おじさんが見る限り、ずっと君を見守っているのはおじさんともう一人の相棒だけなんだ」
「そうなの?」
「うーん……君を一日おきに見守っている相棒とおじさんは君のママと繋がっている。でもおじさん達以外の君を見守っている人達は、君のママとは関係ないんだ。上手く言えないけど、君を拐いたい人達もいるんだよ」
「私を拐ってママを自分達の所に連れていこうとしているの?」
「そこまで知っていたんだね」
「……おじさんはママから頼まれて私を守っているの?」
「うーん……おじさんを雇っているのは君のママじゃないんだよ。君のママを保護している施設っていうのかな……そこの偉い人がおじさんを雇ったんだ」
「……そうなんだね」
「だからおじさんと相棒は何があっても君を守る。……でも他の施設っていうか団体っていうか……そういう人達は……君を傷つける可能性が高い」
「……だからおじさんは私を守っているの?」
「そうだね……おじさんは……君が生まれる前から……君を守っていたんだよ」
「……? 生まれる前から?」
「おじさんは君のママが……うーん……君はどこまで知っているのかな……」
「……叔父さんが……ママを助け出した事は知っているよ?」
「え……? 知っているの? 探偵が話してくれたの?」
「ううん……」
「あぁ……さっきの女の子か……」
「……おじさん?」
さっきまでは申し訳なさそうにしていたのに表情が険しくなった?
「……もうあの女の子に関わったらダメだよ。あの子は危険だ」
「え?」
「……君には知らせたくなかった事ばかり話したのかな?」
「私には知らせたくない事?」
「他にも何か言われたの?」
「……鈴木さんを消したりしない?」
私が話したせいで鈴木さんに何かあったら嫌だよ。