おじさんは悪い人ではなさそうだ
「うーん……君のママに頼まれた……おじさん達の仲間……って言えばいいのかな?」
おじさんが最後の一本のうどんをすすりながら教えてくれたけど……
「ママが? でもママは囚われているんだよね?」
「囚われている……か。うーん。保護されている……とも言えるかな?」
「保護?」
おじさんがキムチ鍋に焼き肉おにぎりを入れながら話を続ける。
「君のママは色んな所が欲しがる存在らしくてね」
「それって?」
「うーん。おじさんは下っ端だから詳しくは知らないんだよ」
「……そうなんだね」
「でも……おじさんは強いから何があろうと君を守るよ。なんて……体力には自信がなくてね……さっきは恥ずかしい姿を見せちゃったよ」
「……おじさん?」
「うん? 何かな?」
「……私を守る為に……死なないでね?」
「……え?」
「……ううん。なんでもない……」
「……おじさんはね……君が赤ちゃんの頃から知っているんだよ」
「……え?」
「だから……君が優しい子な事も知っているんだ」
「……おじさん」
「これだけは覚えておくんだよ? 誰の事も信じたらダメだ」
「……皆そう言うんだね」
「でも……信じてもらえたら……嬉しいよね。おじさんも今……君に信じてもらえて嬉しいから」
「おじさん……」
「信じたら……裏切られた時に辛いから……でも……君は……君には……ずっとずっといつまでもそんな風に真っ直ぐ生きて欲しいな」
「真っ直ぐ……?」
「おじさんは君のママに二日に一度会って、君の成長を話しているんだよ」
「ママに?」
「君のママは君にすごく会いたがっているよ……でもそれを我慢しているんだ。それだけは分かってあげてね?」
「……! おじさん……」
「さぁ、食べよう? 次の電車で帰るんだ。明るいうちに帰ろうね」
「……うん」
キムチ鍋が辛くて涙が止まらない……
おじさんが心配そうに私を見つめてオロオロしている。
「大丈夫? トイレに行ってトイレットペーパーを持ってこようか? お金がなくてティッシュを買えないから……ごめんね……」
「えへへ……キムチ鍋が辛いだけだよ……」
「辛い時は……泣いて欲しいな……君はずっとずっと泣かなかったよね? ずっとずっと泣くのを我慢していた。君のパパがいなくなってからずっと……あの時何もできなかった自分を責めていたのかな?」
「……!」
どうしてそれを……
「我慢は身体に悪いから……おじさんと一緒に泣こう」
「……え? 一緒に?」
「……辛いキムチ鍋だね。涙が止まらないよ」
「……おじさん」
汗ビショのおじさんが泣きながらキムチ鍋を食べている。
私の為に泣いているの?
こんな優しいおじさんが誘拐犯の仲間?
叔父さんも鈴木さんも他人を信じるなって言っていたけど……
おじさんが嘘をついているようには思えない。
はぁ……
誰の言う事が真実で誰の言う事が嘘なんだろう?
何も分からなくなっちゃったよ。
「あ……ごめんね。帰りの電車代……借りてもいい?」
このおじさん……
絶対悪い人じゃないよね。