商店街の福引きで二等を当てるぞ! (1)
「(おじいちゃん見て見て。モモちゃんがこたつで寝ているよ)」
「(本当だ。かわいいなぁ。ほら、真理ちゃんも覗いてごらん)」
「(猫はこたつで丸くなるって言うけど身体を伸ばして寝るんだな。どこまで身体が伸びるんだ。こたつからはみ出しそうだ)」
偽おじいさんとおばあさんが飼っていた猫のモモちゃんを、おじいちゃんの家に連れて来たんだけど……
知らない家に来て嫌がるかと思ったらかなりくつろいでいるんだよね。
「……おい。真葵、親父、真理。こたつ布団をまくるな。熱が逃げるだろ」
叔父さん……
最初は『こたつが狭くなるから迷惑だ』なんて言っていたけど……
猫好きだったのかな?
猫が熱狂するあのおやつを買ってきては、あげているんだよね。
真顔でだけど……
「もう! 叔父さんはずっとゴロゴロしているよね。モモちゃんにそっくりだよ」
「……真葵はずっと饅頭とみかんに手が伸びてるようだな」
「ふふふ……撮影が無事に終わったから自由に食べられるんだよっ! しかもページ数を増やしてもらえたから収入アップだし。うーん! みかんが甘いよっ! ほら、叔父さんも食べなよ」
「……皮とスジを取って口に入れてくれ」
「……は? 叔父さんは億万長者なの? 私は召使いじゃないんだから自分で剥きなよ」
「……じゃあいらない。面倒だからな」
「もう……仕方ないな」
口にみかんを入れると……
モグモグ食べているね。
赤ちゃんなの?
「酸っぱ! 全然甘くないぞ! 騙したな!?」
……本当に小さい子みたいだよ。
「ははは。一真は大きい赤ちゃんだ!」
おじいちゃんが嬉しそうに笑っている。
「俺も真葵にみかんを剥いてほしい!」
真理ちゃんもかなりの甘えん坊だよね……
口に入れてあげると酸っぱそうに食べている。
……真理ちゃんは味が分かるみたいだね。
覚醒に失敗した時に何も感じなくなったって言っていたけど……
「まったく……叔父さんは自分じゃみかんも剥かないくせに、モモちゃんにはおやつをあげるんだね」
「モモは、かわいいからな。誰かと違って倦怠期の妻みたいな事を言わないだろ?」
「……それって私の事!?」
「モモが起きるだろ? 大声を出すな」
「……叔父さんが猫好きだなんて知らなかったよ」
「今まではアパートだったしな。それにいつ何があるか分からないから生き物は飼えなかった」
「それもそうだね。ねぇ、叔父さん。今日商店街の福引きがあるの。二等はなんとお米十キロとご飯のお供セットなんだよ!」
「……お前……また太るぞ。……一等は何だ?」
「大丈夫。毎日お兄ちゃんと走っているから。一等は群馬の温泉の宿泊券だよ。ねぇねぇ、一緒に福引きに行こうよ」
「……普通は米より温泉がいいだろ。福引きか……外は寒いから嫌だ」
「まだ十一月だよ?」
「寒いものは寒い。モモとこたつにいるから皆で行ってこい」
「……もう。施設から私を守っているお金をもらっているんだよね? いつか返せって言われても知らないよ?」
「大丈夫だ。ほら、うるさいから早く行け。帰りにビールも頼む」
「は? 嫌だよ。あ、そういえばモモちゃんのおやつも買ってこないと」
「……それは俺が買いに行く。気に入ったやつがあるんだ。それ以外は見向きもしない」
「叔父さんが甘やかし過ぎるからだよ。真理ちゃんの家から持ってきたカリカリなんて、二日目から食べなくなっちゃったし。『ビールを買いに行ったら猫缶と猫じゃらしがあった』なんて言っていたけどどんな酒屋に行ったの?」
「……いつもの酒屋だ」
「……酒屋に猫じゃらしがあるわけないでしょ。はぁ……モモちゃんはいいなぁ。毎日高級な缶詰を食べてこたつでゴロゴロか。私も猫になりたい……」
「お前は巨大だからモモみたいに、こたつには入れないぞ」
「は!? 本当に猫になれるはずないでしょ!? ……そういえば叔父さんも毎日ビールを飲んでこたつでゴロゴロしているよね。モモちゃんみたいだよ。でも叔父さんが猫だったらかなりひねくれ曲がった性格の斜に構えた……ぷっ! あはは!」
「いいから、さっさと行ってこい。……ビールを頼む。真葵のおごりで」
「は!?」
「俺は斜に構えた猫だから、こたつから出られないんだ」
これが私のお父さん……
私にもこの血が流れているのか……