第四話:パンダ、姫にモフられる
ある晴れた昼下がり。
俺は、木陰で昼寝を決め込んでいた。
村の生活にもすっかり慣れてきた。
朝はリオナの「おはようございます、パンダさま!」という元気な声で目を覚まし、昼間は畑の見回りや荷物運びで一働き。夕方には、村人と一緒にお茶を啜るのが日課。
実にのどかな毎日だ。
人間だった頃に味わえなかった、穏やかな時間。――これは、まぎれもなく“幸せ”と呼べるものだった。
「キュー」
俺の隣では、カワウソが木の根元にぺたりと座って、小さな前足でお腹をぽりぽり掻いている。こいつもすっかり村に馴染んで、今では子どもたちの人気者だ。しゃべれないけど、愛嬌がある。なぜか俺の肩の上が定位置らしく、気づくと乗ってる。
「パンダさま、今日もカッコいいー!」
「ほら、見てパンダさまがあくびしたー! ふわぁ〜って、すごい口開くんだよ!」
「やっぱり神様だー!」
子どもたちの黄色い声援を背に受けながら、俺は木陰のベストポジションでゴロンと横になる。
村の大人たちも最初は俺を警戒していたが、いまや「神様」だの「神獣様」だのと、なぜか敬意すら払ってくる始末。どこでどう間違ったかはともかく、俺としてはこのまま平穏にモフモフパンダライフを満喫していたいのだが――
「……おい、急げ! 姫様を見失うな!」
――その日、その平穏は静かに破られた。
遠く、森の方から人の声がした。緊張を含んだ男たちの叫びが、風に乗って村に届く。俺は半開きだった目をすっと開け、耳をそばだてた。カワウソも「キュ?」と鳴いて、小さな体を起こす。
「誰か……森のほうから来る……!」
子どもたちがざわめき始め、大人たちも不安げな表情でざわつく。俺はのそりと立ち上がると、背後にいたリオナに目配せをした。彼女はすぐに察し、俺の横にぴたりと並ぶ。
「パンダさま、森へ行くの? わたしも一緒に行く!」
……うん、こうなると思った。
まあ、止めてもついてくるだろうしな。
俺たちは森の奥へ向かって歩き出した。といっても、こっちはパンダの脚力だ。のし、のし、と歩くだけでも迫力がある。リオナはいつの間にか、俺の背中によじ登っていた。ちゃっかり者め。
ほどなくして、森の中に白い姿が見えた。
それは、絵本から抜け出してきたような、幻想的な光景だった。
白いワンピースが木漏れ日に透けて、長い金色の髪がさらさらと風に揺れている。花の髪飾りをつけた少女――否、どこか気品をまとったその人は、ゆっくりとこちらを振り返った。
「……まぁ。なんて、ふわふわ……!」
彼女は俺を見て、まっすぐに目を輝かせた。リオナが背中の上で小声で囁く。
「パンダさま……この人、ただ者じゃないです……」
それは俺も思っていた。いや、むしろ“ただ者じゃなさすぎて”危うい感じがする。あまりに純粋で、あまりに無垢。それなのに、どこか“悲しみ”を抱えているような、そんな空気をまとっていた。
「あなたは……?」
俺が静かに声をかけると、彼女はにこりと微笑んで、まるで花が咲くように言った。
「私はフィルメリア。王都の……ええと、まぁ、王家の娘ですの。でも今は逃げてきたの。ちょっとした家出みたいなものですわ」
お、おう……。
王家の娘がそんなノリで“家出”していいのか? と、俺が心の中でツッコむ前に、フィルメリアはさらに言葉を重ねた。
「もう、退屈で退屈で。お見合い話ばかりで、頭がぐるぐるしてしまって……」
どうやらこれは、わがままなお姫様の気まぐれではなく、ちょっと人生に疲れたお嬢様の“逃避行”らしい。
「でもね……ここに来てよかったですわ。だって、あなたの毛並み……とってもモフモフしてて、なんだか、すごく心惹かれますの。ウフフ」
……あ。
これは、ヤバいやつだ。
背中越しで心なしか小さくむすっとしているリオナをおろし、俺は少しだけ遠い目になる。
いやいや、ちょっと待て。俺は何もしてない。立ってるだけだ。
だが、姫君はもう俺の目の前に来ていて、その両手をそっと俺の毛並みに触れさせていた。
「……もふもふ……っ。……あぁ、癒やされる……」
目をうるうるさせながら、フィルメリアはまるで猫を抱くように、俺の腕に顔をうずめる。
そして十分に腕のもふもふを堪能した後、今度は背中側にまわってそっと抱きついてきた。
……うん。
この姫、世間知らずにもほどがある。
だが、それがまた妙に憎めないのだった。
しばらく俺のもふもふを堪能したお姫さま――フィルメリアは、まるで何事もなかったかのように、俺の隣にちょこんと腰を下ろした。
その姿はどこか、世間知らずなお嬢様というよりは、“世界の重みに少しだけ疲れた少女”のようでもあり……。
「あなたのような方に、森で出会えるなんて。……きっと、これは運命ですわね」
「キュー」
――いやいや、運命は言い過ぎだ。
俺はただのパンダ。見た目はモフモフしてるけど、中身はアフラフィフの元おっさんだぞ?
「パンダさま、この人ほんとにお姫さまなのかなぁ……?」
隣でリオナがつぶやいた。
その声に、姫――フィルメリアがくすくすと笑った。
「ほんとですよ? でも、私は王城より、こういう森の方がずっと好き。風が自由で、鳥の声もきれいで、なんだか、何者でもいられる気がして……」
ふむ、言ってることはわかる。昇進こそしてないものの、俺も前世じゃ立場や責任に押しつぶされてた。
でも今は、のんびり生きるゆるゆるライフ。気ままに笹でも囓っていたい(いや、笹よりはスープとかパンのがいいけど)。
「……ところでフィルメリア様、さっき“逃げてきた”って言ってましたけど、どこから?」
「王都ですの。馬車を抜け出して、ここまで来ちゃいました」
あっけらかんと、笑顔で言ってのけた。
こりゃまた、ずいぶん大胆な家出だ。まるでハトが飛び立つような軽さで言うもんだから、こっちが心配になる。
――と、その時だった。
「姫様ああああああああ!!!」
「どこだああああ! 姫様ーーーッ!!!」
森の奥から、怒号とともに重たい鎧のきしむ音が響いてきた。リオナがびくっと肩を跳ねさせ、カワウソが「キュッ!?」と変な声を出す。
「……まずいですわね。追っ手ですわ」
姫、あくまでマイペース。
いや、ほんとに大丈夫なのかこの人。
「急がなきゃ。捕まったら、また政略結婚の話をされてしまいますもの」
その言葉に、リオナが小さく首をかしげた。
「せいりゃくけっこん、ってなあに?」
「んーと、簡単に言いますと……好きでもない相手と結婚させられる、ってことですわ」
「それって、すっごくイヤですね!」
うん、俺もリオナに同意だ。誰かの都合で決められる結婚なんて、いいもんじゃない。
そんな話をしている間にも、声はどんどん近づいてくる。
「姫様ーーッ、返事をーーーッ!!」
……と、ついに。
目の前の茂みをがさりと揺らして、銀色の鎧を纏った男が現れた。顔つきは真面目で精悍、短髪で日焼けした肌に汗が光っている。
「……見つけた……姫様……!」
息を切らしながら、その男――エドガーは、俺たちを睨みつけーーようとしたが、
「あれ?あなたはクロヤナギ村のパンダ殿!?」
「ん?俺のこと知ってるのか?」
「あ、自分、先日の魔獣討伐の際同行してた、銀の騎士団”氷刃隊”で副長をしているエドガーです」
「ああ、この前の」
「ところで、なぜパンダ殿が姫様と…?」訝しげにエドガーが尋ねる。
「この方は、私を助けてくださったのですわ! 」
俺を庇うように立ちふさがったフィルメリアが、両手を広げて間に立つ。
エドガーは難しい顔で、俺とフィルメリアを交互に見ていたが、やがて深いため息をついた。
「……ったく。姫様ってば、いつもこうなんだから……」
「いつもこう、とは?」
「姫さま、まさかとは思いますが、パンダ殿に気がありますよね?」
「えっ!? えっ!? そ、そんな……わたくし、会ったばかりの方にそんな…」
「姫さま、正直に言ってください」
「私はただ、あの背中が……その……もふもふで……!」
姫があたふたと顔を赤らめ、エドガーが頭を抱えた。リオナがにやりと笑う。
「ふふ、パンダさまって、なんでこんなにモテちゃうんだろうね!」
うん。俺も知りたい。
「ごほん。お騒がせしました。
え〜……ひとまず、姫様を無事に保護できてよかったです」
森の木陰に腰を下ろしたエドガーは、重たい銀の鎧を鳴らしながら、ホッと息をついた。
周囲には、彼とともに来た騎士団の面々。みな礼儀正しく、初対面でもパンダである俺を見て騒ぎ立てる騎士はいない。どうやら、既に村での活躍がそれなりに広まっているらしい。
「ご無事でなによりです、姫様」
「まったく、姫様がいなくなったと聞いた時は、国中が大騒ぎでしたぞ……!」
部下たちが口々に安堵の声を上げる中、当の本人はというと――
「この方のもふもふが、あまりにもふわふわで、素晴らしくて……つい、長居してしまいましたの」
またそれか。俺のもふもふは高級布団じゃないんだが。
「姫様……」
エドガーがこめかみを押さえた。
どうやら彼は、王家の“天然マイペースお姫様”のお守りに、日々振り回されているらしい。
「でもまあ、今回はパンダ殿がいてくれて助かりました」
「……いや、俺はたまたま居合わせただけだよ」
お姫さまが勝手にもふもふで癒されてただけとは言えず、少しだけ渋めに返しておく。
するとエドガーが、ふと真面目な顔になる。
「パンダ殿。……いや、兄貴」
「兄貴?」
「はい。……自分、決めました。あなたを“兄貴”と呼ばせていただきます」
お、おう。何があった。
「前回の魔獣討伐での見事な闘いっぷり。
そして今回の、姫様を命の危険も顧みず守るその姿。……まさしく騎士の鑑。いや、男の中の男ッス!」
「いや、俺そんな大層なことはしてな――」
「背中で語るその生き様。しびれましたッ!」
熱っぽい眼差しで語るエドガー。完全に目がハートだ。
いや、どちらかというと“漢”としての憧れっぽいが……何をどう見てそうなった?
「昔から、自分は“背中で語る男”に憧れてたんス。でも、なかなかそんな人に出会えなくて……。ところが、今! 目の前にいるッスよ! この、どっしりと包容力のある背中がッ!!」
「キュー……」
(カワウソも若干引いてる)
「兄貴! いや、パンダ兄貴! 今後とも、ぜひ自分の師として……!」
「いや、俺は師とかじゃないってば……」
俺はただ、草の上で寝っ転がってただけ。
なのに、いつの間にか姫に懐かれ、騎士には“兄貴”扱いされるという謎の展開。前世では考えられなかったモテ方だ。
「……っていうか、エドガーさん。姫様をお城に連れ戻すんじゃなかったのか?」
「本来はそうなんスけど……」
と、エドガーはちらりと姫の方を見やった。
そのフィルメリアは、俺の腹毛をそっと撫でながら――うっとりしている。
(気持ちよさそうだが、そろそろやめてくれ)
「姫様、今回はよっぽど嫌だったみたいッス。だから……ひとまず、近くの村で静養ということで……上には話を通すつもりです」
「王都から逃げ出してきたのに、大丈夫なのか?」
「ええ、うちの団長が姫様の“ご乱心”には慣れてるので……。むしろ“またか”ってリアクションでしょうな」
……どんだけ逃げてるんだ、姫。
「とりあえず、自分と部下は姫様の護衛という名目で村に滞在します。パンダ兄貴のことは、上にも伝えておきますので!」
「……ありがとな」
「あと兄貴、今度ぜひ、自分にも“背中で語る極意”を教えてください!」
そんな極意はない。そもそも語る気もない。
でもまあ……悪いやつじゃなさそうだ。
「……好きに呼べばいいさ。肩の力を抜け、”エドガー”」
「兄貴……!!」
俺の一言に、エドガーは深く感動していた。
いや、だから俺はただのパンダなんだけどな。
どこでどう間違えたら、こんな展開になるんだろう。
……まあいいか。モテ期というものは、得てして理不尽なものなのかもしれない。
***
「うふふ……パンダさまって、本当にあったかいんですのね」
村に戻って数日後。
涼しい夕暮れの風が吹くなか、俺はいつものように木陰でのんびりしていた――のだが。
その腕には、白いワンピースの姫様が、当然のように抱きついている。
「ちょっと、暑くないか……?」
「暑くても、もふもふは別ですわ。もふもふに気温は関係ありませんの」
まるで哲学者みたいなことを言う。
「パンダさまって、何を考えているのか分からないけど、でも……そばにいるだけで安心できて……。まるで、大きな木の下にいるみたいな気分になりますの」
「キュー」
(カワウソも横でうんうん頷いているが、お前は俺の通訳か?)
俺としては、ただ静かに過ごしたいだけなのに……。
「パンダさまって、お名前はないんですの?」
「いや、あるけど……呼ばれてないだけだ」
この世界に来てからはずっと「パンダさま」呼びだからな。たまに“兄貴”って呼ばれるけど。
「……では、あなたのお名前、教えていただけませんか?」
「……名前?」
「ええ。私、助けてもらったのに、ずっと“あなた”とか”パンダさま”なんて呼んでて。失礼ですわよね」
名前、か。
そういえば、ちゃんと名乗ったことなかったな。
「……“ハクジン”だ」
「ハクジン……ふふ。なんだか、白い風のような響きですわね。とっても素敵です」
柔らかに笑う姫を見て、リオナがぴょこんと跳ねる。
「えー!? パンダさまに名前あったの!? 初耳だよっ!」
「今ので初公開だ」
「姫さま、ずるいよ〜! リオナも知りたかったのに〜!」
「キュ〜……」
いや、カワウソ、お前までしょんぼりするな。
姫は、胸元で手を組みながら、優しく言った。
「じゃあ、私は“ハクジンさま”と呼ばせていただきますね。これは……私だけの呼び方、ということで」
……まいったな。
なんでこう、どいつもこいつも、特別感を持とうとするんだ。
でも、まあ。
誰かの“特別”になるってのも、少しだけ、悪くない…がな。
「それにしても……」
と、フィルメリアはぽつりと呟く。
「こんなに穏やかな気持ちで誰かの隣にいられるなんて、初めてですわ」
その言葉には、ふわりとした笑顔に似合わない寂しさがにじんでいた。
「王都では、いつも誰かの期待に応えるばかりで。
『姫らしく』『慎み深く』『強くあれ』って……」
「……」
「だから、こうして誰にもなにも求められずに、ただ隣にいられるって、すごく贅沢なんですのよ?」
言葉の端々から滲む、静かな孤独。
その気持ち、なんとなくわかる。
俺も前世じゃ、責任や立場に追われて、自分が自分でいられる時間なんてほとんどなかった。
今は――ただのパンダ。それだけでいい。だから、俺はこの世界が好きなのかもしれない。
「……なあ、姫。王都には戻らないのか?」
「そのつもりでした。でも……もう少しだけ、ここにいてもいいでかしら?」
「……まあ、しばらくなら」
「ふふっ。ありがとうございます、“ハクジンさま”」
名前で呼ぶなとは言ってないけど、それはそれでくすぐったい。
「なあ〜んか、ズルいなあ。お姫さまばっかり」
「ふふ、リオナちゃんもいらっしゃいな」
そう言って、姫がぽんぽんと俺の左腕を叩くと、リオナが嬉しそうにぴょんっと乗ってきた。
そして――右腕には姫、左腕にはリオナ。腹の上にはカワウソ。
……これはこれで、動けない。
「キューッ(=ぎゅうぎゅうだよー)」
「幸せって、こういうことなんですのね……」
いや、俺にとっては狭いし暑いだけなんだが…。
でも、ふと思う。
こうして誰かの癒しになれてるのなら、悪くないのかもしれない――なんて。
それにしても、騎士に慕われ、姫に甘えられ、村人に好かれて……
俺のパンダライフ、なんかどんどん“ゆるふわハーレム”みたいになってないか?
モテ期、恐るべし。
***
数日後。
姫さまが村を離れる日がやってきた。
「……なんだか名残惜しいですわね」
柔らかなワンピースが風に揺れる。
その表情はいつもの微笑みだったけれど、目元だけが、ほんの少し寂しそうだった。
「お姫さま、ほんとに帰っちゃうの?」
リオナがしゅんとした顔で聞くと、フィルメリアはその金色の髪をやさしく撫でながら微笑んだ。
「ええ。あまり勝手をしてばかりでは、心配をかけてしまいますもの。……でも」
その視線が、俺へと向けられる。
「ここに来られて、本当によかった。あなたに会えて……本当に、よかったですわ、“ハクジンさま”」
「……そうか」
妙に胸に響く呼び方だ。
リオナや村の皆には「パンダさま」で通ってるが、姫だけは――“ハクジンさま”。
名で呼んでくれる、たったひとりの存在。
「騎士団の人たちも、きっとホッとしますわ。エドガーなんて、途中から私よりパンダさまに夢中で仕事してるんだかしてないんだか」
「……確かに。あの副長、最後まで『ハクジン殿の背中は最強の防御だ……』とか訳の分からんこと言ってたな」
「ふふふっ、ちょっと嫉妬しちゃいましたのよ?」
茶目っ気たっぷりに笑う姫。
その笑顔はどこか、大人びていて、少しだけ少女のままだった。
「なあ、王都に戻ったら、また誰かの期待に応える“姫様”に戻るんだよな?」
「そうですわね。でも――」
フィルメリアはそっと手を伸ばし、俺の額に軽く触れる。
その手はあたたかく、そして不思議なほど、確かな温度を持っていた。
「今のわたくしは、もう“ただのわたし”になれる場所を知っていますわ。もし心が疲れたら……また、ここに戻ってもいいかしら?」
「……まあ、そのときはまた、俺のもふもふ貸してやるよ」
「ふふっ。ありがとうございます、“ハクジンさま”」
そう言って、彼女は小さくお辞儀をした。
それはまるで、何かの契約のようでもあり――ほんの少し、恋のはじまりのようでもあった。
「姫さま、気をつけて帰ってね!」
「リオナちゃん、あなたも元気でいてね。カワウソさんも、ありがとう」
「キューッ(=またねー!)」
見送りの人々に手を振りながら、馬車に乗り込む姫。
馬車がゆっくりと走り出すと、窓から身を乗り出すように、最後の声が届いた。
「ハクジンさま! 今度は――あなたが、会いに来てくださいませね!」
風に乗って、白いリボンが揺れた。
その姿が小さくなっていくのを、俺はしばらく黙って見送っていた。
「……パンダさま、もしかしてちょっと照れてる?」
「……照れてない」
「ふふーん、怪しい〜」
「キューキュー(=絶対照れてる〜)」
なんだこのコンビ、妙に息が合ってる。
でもまあ。
会いに行きたくなる人がいるってのも、悪くないかもしれない。
俺はのんびりと空を見上げた。
夕陽が茜色に染める空の下、風がふわりと白い毛を撫でていく。
モフモフなパンダライフは、まだまだ続く――。