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転生したらパンダだったけど、何故か前世よりモテてます  作者: ふくまる


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第二十七話 パンダ、帰る場所を想う(最終話)

『人間と魔獣の共存条約』が締結されてから十年が経った。


私、リオナは今日も小さな教室で子どもたちに授業をしている。


「はい、みんな。今日は『深淵の和解』について勉強しましょう」


手を上げる子どもたちの顔を見回しながら、私は黒板に絵を描き始める。大きなパンダと巨大なドラゴン、そしてその間に立つ小さなカワウソ。


「リオナ先生、その大きなパンダが『調停者』のハクジンさまですか?」


「そうよ。ハクジンさまは人間と魔獣の心を繋ぐ、とても大切なお仕事をしていらっしゃるの」


子どもたちの目がキラキラと輝く。彼らにとって、人間と魔獣が仲良くしているのは当たり前の光景だ。でも、それがどれほど奇跡的なことか、私はちゃんと伝えなければならない。


「昔々、人間と魔獣は敵同士でした。でも、ハクジンさまとアダマスさまが、千年の悲しみを乗り越えて、みんなが仲良く暮らせる世界を作ってくださったんです」


窓の外を見ると、森ウサギの魔獣が庭の花壇で遊んでいるのが見える。子どもたちも当然のようにその姿を受け入れている。


平和な光景だった。


授業が終わって子どもたちを見送った後、私は職員室で一人、報告書を書いていた。


「共存教育プログラム月次報告書……今月も順調に進んでいます」


ペンを持つ手を止めて、私は窓の外を眺めた。


最近、よくハクジンさまのことを考える。


私の成人式の時、久しぶりにお会いできたけれど、なんだか照れくさくて、昔みたいに甘えることができなかった。


大人になった私を見て、ハクジンさまも少し戸惑っていらっしゃるようだった。


「あの時、もっとお話しすればよかったな…」


気がつくと、独り言を呟いていた。


「リオナ、どうした?考え事か?」


振り返ると、おじいちゃんが湯呑みを二つ持って立っていた。村長を引退してからも、相変わらず村のみんなに慕われている。


「おじいちゃん…ハクジンさま、今頃どうしてるかなって考えてただけ」


「あの方達なら元気でやっとるだろう。きっと、いろんなところで人からも魔獣からも慕われて、モフモフされてるんじゃないかのう」


おじいちゃんが渡してくれたお茶を一口飲む。温かくて、ほっとする味だった。


「ふふふ。そうだね。きっと、どこにいってもモテモテだろうね」


「心配しなくても大丈夫じゃよ。あの方はちゃんと約束を覚えてくださっているはずじゃ」


「約束?」


「『必ず帰ってくる』って、約束してくださったじゃろう?」


そうだった。十年前、まだ小さかった私にそう約束してくださった。


でも、あれからもう十年も経ってしまった。


「時々、風の噂で聞くのよ。東の海で船乗りさんと海の魔獣の仲裁をしたとか、北の山で雪男と村人の問題を解決したとか」


「立派なお仕事をされているのう」


「でも…」


私は正直な気持ちを口にした。


「寂しいよ。もっとお話ししたいことがたくさんあるのに」


おじいちゃんが優しく笑った。


「リオナも大人になったのう。昔は『パンダさまの背中に乗りたい』とか『もふもふしたい』とか言っておったのに」


「も、もう子どもじゃないもん!」


慌てて顔を赤くする私を見て、おじいちゃんがくすくす笑う。


「じゃが、今でもハクジンさまのことが好きなのは変わらないじゃろう?」


「それは…」


言葉に詰まる。確かに、子どもの頃とは違う感情も芽生えている。でも、それをどう表現していいかわからない。


「リオナ、ワシから見ると、あの方はいつも誰かのために尽くしてばかりじゃった。今もきっと、そうしてくださっているのじゃろう」


「うん」


「だったら、たまには誰かがあの方のために何かをしてもいいんじゃないかのう?」


おじいちゃんの言葉に、はっとした。


そうだ。いつもハクジンさまは私たちのために何かをしてくださっていた。でも、私はハクジンさまのために何をしただろう?


「おじいちゃん、私、お手紙を書いてみる」


「それは良い考えじゃ。心を込めて、今思ってることを書いてごらん」



その夜、私は机に向かって便箋を広げた。

でも、いざペンを持つと、何を書いていいかわからない。


「ハクジンさまへ」


まずはそう書いてみた。


「お元気でいらっしゃいますか。私は今、各地の学校で子どもたちに『共存教育』を教えています」


筆が進まない。もっと伝えたいことがあるのに。


「あの時、ハクジンさまが教えてくださったことを、今度は私が子どもたちに教えています。『相手の心を理解すること』『一緒に歩くことの大切さ』…」


少しずつ、思いが文字になっていく。


「ハクジンさまのおかげで、私の『先生になりたい』という夢が叶いました。子どもたちの笑顔を見ていると、とても幸せです」


そこまで書いて、ふと手を止めた。


本当に伝えたいことは、それじゃない。


「でも、時々とても寂しくなります。ハクジンさまと一緒に過ごした日々を思い出して、もう一度お話ししたくなります」


正直な気持ちを書いた。


「私、大人になりました。でも、ハクジンさまの前では、きっとまた子どもの頃のリオナに戻ってしまうと思います。それでも構いませんか?」


「またクロヤナギ村に帰ってきてください。みんな、お待ちしています。私も、お待ちしています」


手紙を書き終えて、窓の外を見上げた。星空がきれいだった。

十年前も、こんな星空を見上げながら、ハクジンさまとお話ししたっけ。


「ハクジンさま…会いたいな」




翌朝、手紙を投函しようとした時、村の入り口から騒がしい声が聞こえてきた。


「あれ?何かしら?」

急いで駆けつけると、村人たちが大騒ぎしていた。


「リオナちゃん、大変よ!」

「どうしたの?」


村の人が空を指差す。


見上げると、空に大きな影が見えた。翼を広げた巨大なドラゴンが、ゆっくりとこちらに向かってくる。

その背中には、見覚えのある黒白の大きな影と、小さな影が乗っていた。


「まさか…」


心臓が早鐘を打った。


ドラゴンが村の広場に降り立つと、その背中から懐かしい声が聞こえてきた。


「ただいま、みんな」


「ハクジンさま!」


気がついた時には、私は走り出していた。

十年間で身についた大人らしさなんて、どこかに吹き飛んでしまった。


「ハクジンさま、お帰りなさい!」


ハクジンさまがアダマスの背中から降りて、私の前に立った。相変わらず大きくて、温かそうで、安心できる存在だった。


「久しぶりだな、リオナ。大きくなったな」


「はい!もう立派な大人です!」


そう言いながらも、涙が止まらなかった。


「キューキュー!」


ココが私の肩に飛び移って、頬をぺろりと舐めた。


「ココも元気だったのね」


ハクジンさまが優しく笑った。


「お前の手紙、受け取ったよ」


「え?でも、まだ出してません…」


「ああ、実際の手紙じゃない。お前の気持ちが、風に乗って届いたんだ」


そんなことってあるの?でも、なんだか信じられた。


「ハクジンさま、今度はいつまでいてくださるの?」


「しばらくは村にいるつもりだ。疲れたからな」


「本当ですか?」


「ああ。それに…」


ハクジンさまが少し照れたような顔をした。


「お前の授業、見学させてもらいたいんだ。どんな風に子どもたちに教えているのか」


私の顔が真っ赤になった。


「が、頑張ります!」


村人たちがわいわいと集まってきて、久しぶりの再会を祝う宴会が始まった。


夜になって、みんなが帰った後、私とハクジンさまは二人で縁側に座っていた。


「リオナ」


「はい」


「お前が先生になったって聞いて、とても嬉しかった」


「ありがとうございます」


「俺が教えられることは、もうあまりないかもしれないな」


「そんなことありません!」

私は慌てて首を振った。


「ハクジンさまから学びたいことは、まだまだたくさんあります」


「そうか」


星空を見上げながら、ハクジンさまが言った。


「俺も、お前から学びたいことがある」


「私から?」


「ああ。お前が子どもたちに教えている『希望』について」


「希望?」


「この十年間、俺は各地を回って、いろんな問題を解決してきた。でも、本当に大切なのは、未来への希望を育てることなんだと気づいたんだ」


ハクジンさまが私を見つめた。


「お前がやっていることは、俺よりもずっと重要な仕事かもしれない」


「ハクジンさま…」


「これからも、頼むな。子どもたちに、人と魔獣が仲良く暮らせる未来を教えてくれ」


「はい」


私は力強く頷いた。


「でも、時々は一緒にお仕事させてください。私も、ハクジンさまのお役に立ちたいんです」


「ああ、もちろんだ」


風が吹いて、ココが「キュー」と小さく鳴いた。


十年ぶりに、心から安らかな夜だった。




翌朝、私の授業にハクジンさまが見学に来た。


「はい、みんな。今日は特別なお客様が来てくださっています」


子どもたちの目がキラキラ輝いた。


「本物のハクジンさまだ!」


「すげー!」


「もふもふしてもいい?」


「順番だぞ」

ハクジンさまが苦笑いしながら言った。



その日の授業は、いつも以上に活発だった。子どもたちが次々と質問をして、ハクジンさまが丁寧に答えてくださった。


「ハクジンさま、魔獣さんと話すコツはなんですか?」


「心を開いて、相手の気持ちになって考えることだな」


「難しそう…」


「最初は難しく感じるかもしれない。でも、リオナ先生が教えてくれることを覚えていれば大丈夫だ」


私の方を見て、ハクジンさまが微笑んだ。




授業が終わった後、私たちは村の丘を歩いた。


「素晴らしい授業だった」


「ありがとうございます」


「お前が育てている子どもたちが、きっと新しい世界を作っていくんだろうな」


「はい。みんな優しい子たちです」


丘の上から村を見下ろすと、人間と魔獣が一緒に暮らしている平和な光景が広がっていた。


「この景色を守るために、俺たちは頑張ってきたんだな」


「はい。そして、これからも守り続けます」


私は改めて決意を固めた。


「ハクジンさま、今度は私も一緒に旅をさせてください。まだまだ学びたいことがたくさんあります」


「そうだな。たまには一緒に旅をするのもいいかもな」


「本当ですか?」


「何を遠慮してるんだ?昔は勝手に俺の背中によじ登って”出発しんこー”なんて言ってたのに」


「もう!いつの頃の話ですか!?私はもう立派な大人なんですよ!」


「ああ、そうだったな」


「そうですよ。でも…懐かしいです。村の人から、ハクジン様は”私のナイト”だって言われてました」


「そうだったな。リオナが毎朝起こしてくれて、朝飯作ってくれて、その後一緒に散歩に出かけてたな」


「はい。私、あの時間が大好きでした」


「ああ。俺も好きだった」


私たちはしばらく黙って、穏やかな村の風景を眺めていた。夕日が村を黄金色に染めていた。


私の夢は叶った。でも、新しい夢も生まれている。

ハクジンさまと一緒に、もっとたくさんの人に希望を届けること。


「ハクジンさま」

「ん?」

「お帰りなさい」

「ああ、ただいま、リオナ」


村の明かりがポツポツと灯り始めた。この小さな光が、長い旅路をゆくハクジンさまにとって、いつでも帰るべき道標でありますように。


新しい夢の扉は、まだ開いたばかりなのだから。



【完】



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

皆様のリアクションを励みに、なんとか最後まで書き上げることができました。


初めて評価をいただけた時は、本当に嬉しかったです!!

ありがとうございました!!!


パンダはここまでで終わりですが、『農家の娘、異世界で国家改革始めます―糸で国を変えた少女―』は間もなく第1幕終了です!

是非こちらも読んでいただけると嬉しいです!!!


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