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第二十二話 パンダ、運命の真実を明かす

俺は仲間たちの顔を順に見回した。

ガルム、ユリア、ミロ——昨日から共に行動している三人が、心配そうに俺を見つめている。


「パンダ先生、本当に大丈夫ですか?倒れてる間、すごく苦しそうなお顔でしたけど……」


ユリアが眉を寄せて言う。


「ああ、大丈夫だ。それより……みんなに話したいことがある」


俺は胸に手を当てた。火種が、今朝よりもずっと強く、安定して燃えている。


「重要な話だ。座ってくれ」


三人が木の根元に腰を下ろす。ココも俺の膝の上で、じっと耳を立てていた。


「まず、森の奥へ入った後、何が起きたかから話そう」


俺は、エンリュウとの出会いから始めて、古代パンダ族の歴史、千年前の悲劇、そしてアダマスの真の正体について詳しく説明した。


「千年前……古代パンダ族は人間と魔獣の架け橋だった。俺たちには『エンパシースキル』という、相手の心を理解する力が備わっていたんだ」


「エンパシースキル……」ユリアが息を呑む。


「でも、人間の中に魔獣の力を独占しようとする者たちが現れた。魔石の力に目がくらんで、魔獣たちを狩り始めたんだ」


俺の声が少し重くなる。


「古代パンダ族は仲裁を試みたが……裏切られた。『魔獣の手先』と呼ばれ、皆殺しにされた」


「そんな……」ユリアの目に涙が浮かぶ。


「深淵の王——アダマスは、最愛の仲間を失い、守るべき森も焼かれて、絶望の淵に突き落とされた。怒りと悲しみに支配されて、人間への復讐を誓ったんだ」


ガルムが拳を握りしめる。


「それで封印されたのか……」


「ああ。古代パンダ族の最後の長老——リンファが、自らの命を賭けて封印した。ただし、それは永続的なものじゃなかった」


俺は深く息を吸った。次が一番重要な部分だ。


「そして……俺は、そのリンファの生まれ変わりなんだ」


静寂が森を支配した。


「生まれ変わり……?」ミロが震え声で呟く。


「胸にある火種がその証だ。リンファの意志の残滓で、アダマスとの絆の証でもある」


俺は手を胸に当てる。


「昨日、エンリュウから真のエンパシースキルを覚醒させてもらった。今なら、アダマスと対話できる」


「それは……」ガルムが立ち上がる。「危険すぎるんじゃないか?千年の怒りに支配された相手だぞ」


「だからこそ、俺がやらなきゃならない。アダマスとリンファは親友だった。俺なら、彼の心に届けられるかもしれない」


俺は立ち上がり、三人を見回した。


「実演してみせよう。今の俺の力を」


俺は目を閉じ、エンパシースキルを発動させた。仲間たちの感情が、波のように流れ込んでくる。


ガルムの不安と、それでも俺を信じようとする意志。


ユリアの知的好奇心と、古代の悲劇への深い同情。


ミロの技術者としての興奮と、友への変わらぬ信頼。


「ガルム、お前は俺のことを心配してる。でも、『あいつならやれるかもしれない』とも思ってる」


ガルムが目を見開く。


「ユリア、お前は古代パンダ族の悲劇に涙してる。そして、その悲劇を終わらせることができるなら、どんな困難でも乗り越えたいと思ってる」


「え……本当に、心が読めるの?」


「ミロ、お前は古代技術への純粋な興味と、俺への友情の両方を感じてる。『ハクジンさまのためなら、どんな魔道具でも作ってみせる』って」


「す、すげぇ……本当にエンパシースキルだ……」


三人が驚愕の表情を浮かべる中、俺は続けた。


「でも、これは俺一人の力じゃない。みんなの想いが俺を支えてくれてる。だから、一緒に来てほしいんだ」


「当然だ」ガルムが即答する。「危険な任務に、お前一人で行かせるわけにはいかん」


「私も行きます!」ユリアが立ち上がる。「古代魔獣の専門家として、絶対に力になってみせます!」


「僕も!共鳴石の改良や、現地での技術サポートが必要でしょう」


俺は三人の決意に満ちた顔を見て、胸が熱くなった。


「ありがとう。でも、これは俺たちだけの問題じゃない。王都に戻って、姫や合同調査隊のみんなにも報告しなきゃな」



***



王都に戻ると、すぐに緊急会議が招集された。

謁見の間には、フィルメリア、エドガー、カイル、国王陛下、そして隣国のグランツ卿が集まっていた。


「皆様に、重要な報告があります」

俺は立ち上がり、古代の真実について詳しく説明した。


エンリュウとの出会い、古代パンダ族の歴史、アダマスの正体、そして自分がリンファの生まれ変わりであることまで、すべてを包み隠さず話した。


「……つまり、深淵の王は討伐すべき敵ではない。救うべき古い友なんです」


会議室に重い沈黙が落ちた。


最初に口を開いたのは、フィルメリアだった。

「千年前の悲劇……それが現在の魔獣問題の根本原因だったということですね」


「そうです。アダマスの怒りが、世界中の魔獣たちに影響を与えている。だから組織的な行動を取るようになった」


国王が深いため息をついた。

「人間の愚行が招いた悲劇か……我々の祖先の罪は重い」


「でも、今なら償える機会があります」

フィルメリアが前に出る。


「ハクジンさまのエンパシースキルがあれば、アダマスとの対話が可能です。千年前の悲劇を繰り返さないためにも、今度こそ真の解決を目指しましょう」


エドガーが立ち上がった。

「兄貴の力になれるなら、『白刃隊』の全戦力を投入します!」


「我々氷刃隊も全面協力いたします」

カイルも頷く。


グランツ卿が重々しく言った。

「我が国としても、この問題の解決に全力で取り組みます。古代魔導技術の資料も、必要に応じて提供しましょう」


「ありがとうございます」

俺は深くお辞儀をした。


「では、改めて合同調査隊を編成し直すとしよう」

国王が宣言する。

「目的は『深淵の王討伐』から『アダマス救済』に変更。ハクジン殿を中心とした国際協力体制で臨む。規模は50名程度。あまり大勢では誤解を招くからな」


フィルメリアが資料を取り出した。

「我が国からは、古代魔導技術の専門家チームと、魔導師団の精鋭を派遣します。

私も同行させていただきます」


「俺からは、ガルム、ユリア、ミロの三人を推薦します。それぞれの専門性が不可欠です」


「承認する」

国王が頷く。


「エドガー、カイル、お前たちの騎士団も選抜メンバーを編成せよ」


「はっ!」

二人が敬礼する。


「出発はいつ頃を予定していますか?」

グランツ卿が尋ねる。


「準備が整い次第、すぐにでも」

俺が答える。


「封印は日に日に弱くなっている。一刻も早く行動を起こさないと、取り返しのつかないことになる」


「わかりました。48時間以内に全ての準備を整えましょう」


国王が決断を下す。

「各部署、最優先で準備に当たれ。これは両国の、いや世界の運命がかかった任務だ」


会議が終わった後、フィルメリアが俺のところにやってきた。


「ハクジンさま、大変な使命を背負われることになりましたね」

「ああ。でも、やらなきゃならないことだ」

「私にできることがあれば、何でも言ってください。我が国の魔導技術の粋を集めて、サポートいたします」

フィルメリアの瞳に、強い決意が宿っていた。


「ありがとう。頼りにしてる」


エドガーも近づいてきた。

「兄貴、俺たちも絶対に力になります。この世界を救うために、みんなで協力しましょう」


「ああ、よろしく頼む」


カイルが最後に言った。

「ハクジン殿の判断を信じます。我々は、あなたの決断に従います」


俺は仲間たちの顔を見回した。みんな、それぞれの立場で、それぞれの想いを抱えながら、同じ目標に向かって歩もうとしている。


「キュー」

ココが俺の肩で小さく鳴いた。まるで「大丈夫、みんながいるから」と言っているように。


胸の火種が、温かく燃えている。もう俺だけの夢じゃない。リンファの想い、仲間たちの願い、そしてこの世界の未来を背負っている。


「48時間後、深淵の谷に向けて出発する」

俺は静かに宣言した。


「千年の悲劇を終わらせ、人間と魔獣の真の共存を実現するために」


夕日が王宮の窓を染めていた。


新たな戦いは、もうすぐ始まる。だが今度は、俺一人じゃない。信頼できる仲間たちと、国を超えた協力体制がある。


きっと、今度こそ——アダマスを救うことができる。


その確信を胸に、俺は明日への準備を始めた。

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