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第十五話 パンダ、仲間と再会する

朝の光に照らされた王都の城門が、俺の前に堂々とそびえ立っていた。


「やっと着いたな」

「キュー……」

ココが肩の上で疲れたように鳴く。確かに、二日間の道のりは長かった。


「お疲れさまでした、ハクジン殿」

馬上とはいえ、隣を歩いていたルーカスも、さすがに疲労の色を隠せない。


「まずは王宮へご案内いたします。陛下がお待ちです」


王都は相変わらず賑やかだった。石畳の道を行き交う人々、馬車、商人の呼び声。

村の静けさに慣れた身には、少し騒がしく感じる。


「やっぱり都会喧騒は少し苦手だな」

「キュー……」


ココも同じ気持ちらしい。




王宮に着くと、前回泊めてもらった時と同じ客室に案内された。

旅の汚れを落とし、食事としばしの休憩の後、王様との謁見が行われるようだ。


謁見の間は、相変わらず豪華絢爛だった。

高い天井、立派な柱、そして玉座に座る国王アルバート三世。


「久しいの、ハクジン殿。よく来てくれた」

国王の声は威厳があるが、どこか疲れも感じられた。


「陛下、お呼び出しに従い参上いたしました」

俺は軽く頭を下げる。パンダが正式なお辞儀をするのは難しいが、気持ちは伝わるだろう。


「着いて早々ですまんが、単刀直入に言おう。『深淵の王』の件、どう思う?」


「正直に申し上げれば、初耳の名前です。

ですが、各地の魔獣の異常については気になるところがあります」


「ほう」


俺は先日森で出会ったウサギ型魔獣のことを話した。

逃げるように怯えていた様子、普段とは違う行動パターン。


「なるほど……やはり何かが起きているということか」


国王は深刻な顔で頷いた。


「調査には時間がかかるだろう。王宮に滞在されてはどうか?」

「ありがたいお申し出ですが、街の宿の方が気楽でして」

「ほう?」


「王宮では、どうも堅苦しくて落ち着かないんです。それに、街にいた方が情報も集めやすいかと」

「そうか……では、街の宿で構わん。費用は王室で負担しよう」

「恐縮です」

「何か必要なものがあれば、遠慮なく申し出てくれ。この問題、一刻も早く解決したいのでな」


国王の表情から、事態の深刻さが伝わってきた。




王宮を出て、商人街にある「金麦の宿」に向かった。

ルーカスの推薦で選んだ宿だが、なかなか雰囲気の良い場所だ。


「しばらく泊まりたいんだが、部屋は空いてるか?」

「いらっしゃいませ……って、うわあああああ!」


宿の主人が俺を見た瞬間、目を丸くして後ずさった。


「パ、パンダが……しゃべった……?しかも、二足歩行!?」

「ああ、喋る。慣れてくれ」

「本物のパンダが泊まるなんて!こりゃあ、宿の歴史に残る出来事だ!」


主人は興奮しながら、最上階の一番いい部屋を用意してくれた。

部屋に荷物を置いて一息ついていると、外から騒がしい声が聞こえてきた。


「パンダ兄貴!王都に来てるって聞いて!」


聞き覚えのある暑苦しい声。


「エドガーか」


窓から下を見ると、銀の鎧を着たエドガーが、部下らしき騎士たちと一緒に立っていた。


「上がってこい」

「はいっ!」



しばらくすると、部屋のドアが勢いよく開いて、エドガーが飛び込んできた。


「パンダ兄貴!」


相変わらずの暑苦しさだが、以前より落ち着いた雰囲気も感じられる。


「久しぶりだな、エドガー」

「はい!兄貴に会えて嬉しいです!」


後から入ってきた部下たちが、俺を見て目を輝かせている。


「これがパンダ兄貴か!」

「本当に喋るんですね!」

「想像より大きいなあ」


「キュー……」

ココが肩の上で少し困ったように鳴く。人数が多すぎるらしい。


「お前ら、騒ぎすぎだ。少し下がれ」

「はっ!」


エドガーの一喝で、部下たちがきちんと整列する。


「さすがだな、エドガー。部下の統制が取れてる」

「ありがとうございます!『白刃隊』のみんな、優秀なんです」


エドガーが胸を張る。


「白刃隊?」

「はい!兄貴から教わった『背中で語る極意』を胸に結成した、魔獣討伐部隊です!」

「……俺、そんなこと教えたっけ?」

「もちろんです!『言葉より行動で示せ』『困ってる人を見つけたら黙って助けろ』『仲間を信じて背中を預けろ』……」


エドガーが熱っぽく語る内容は、確かに俺が言ったような言ってないような…。

だが、こんなに立派な教えだっただろうか。


「まあ、お前たちが頑張ってるなら何よりだ」

「はい!各地で魔獣被害の予防指導もしてるんです!」


部下の一人が報告書を差し出してくれる。


「北の山岳地帯では魔獣の群れを無事に撃退」

「東の森では迷子になった商人を保護」

「西の村では魔獣被害の予防指導を実施」


なかなか立派な活動をしているようだ。


「すごいじゃないか」

「全部、兄貴の教えのおかげです!」


エドガーの目がキラキラしている。


「それで、兄貴は何で王都に?まさか、例の『深淵の王』の件ですか?」

「よく知ってるな」

「はい、我々にも情報が回ってきてます。各地の魔獣が同じタイミングで異常行動を起こしてるって」

「そうか。お前たちも気をつけろよ」

「もちろんです!でも、兄貴が力を貸してくれるなら心強いっす!」

「お、おう」

「俺たちで役に立てることがあれば、いつでも声かけて下さい!」

「ありがとよ」



エドガーたちが帰った後、ようやく静かになった部屋で夕食を取った。

宿の料理は素朴だが美味い。リオナの手料理が恋しくなる。


「リオナたちは元気でやってるだろうか」

「キュウ」


ココが俺の膝の上で丸くなる。

窓から見える王都の夜景は美しいが、やっぱり村の星空の方が落ち着く。


そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「どなたです?」

「氷刃隊のカイルです」


カイル隊長?こんな時間に?


ドアを開けると、いつもの冷静な表情のカイルが立っていた。


「お疲れのところ夜分に失礼します。少しお話しできればと思いまして」

「ああ、上がってくれ」


カイルは相変わらず礼儀正しく、きちんとお辞儀をしてから部屋に入った。


「エドガーから聞きました。王都にいらしたと」

「ああ、国王陛下に呼ばれてな」

「深淵の王の件ですね。実は、我々も調査を進めているのですが……」


カイルが取り出したのは、各地からの報告書だった。


「魔獣の異常行動、確かに増えているようです。しかも、パターンが似ています」


報告書を見ると、確かに共通点があった。


「普段は夜行性の魔獣が昼間に現れる」

「単独行動の魔獣が群れで移動する」

「攻撃的でない種類の魔獣が突然凶暴化する」


「なるほど……これは確かに異常だな」

「ええ。そして、これらの報告が『深淵の王』という名前と一緒に語られることが多いんです」


「深淵の王について、何かわかったことは?」

「古い文献を調べましたが、断片的な情報しか……明日、王立図書館をご案内します。

ハクジン殿の目で見ていただければ」

「助かる」


カイルは立ち上がると、再びお辞儀をした。


「それでは、明日の朝、迎えに参ります」




翌朝、カイルの案内で王立図書館に向かった。

石造りの重厚な建物で、中には膨大な数の本が収められている。


「古代魔獣に関する資料は、こちらの棚に」


案内された場所には、古そうな本がずらりと並んでいる。


「これ全部読むのか……」

「一人では大変でしょうね」


その時、図書館の入り口から賑やかな声が聞こえてきた。


「兄貴、いましたー!」


エドガーが部下たちを連れてやってきた。


「どうした?」


「手伝いに来ました!みんなで手分けして調べれば早いでしょう?」


「……お前、字読めるのか?」

「失礼な!一応騎士ですよ!」


エドガーが膨れる。


「では、皆で手分けして調べましょう」

カイルの提案で、図書館は急に賑やかになった。


「この本、『古代魔獣大全』って書いてあります!」

「こっちは『幻獣と魔獣の違いについて』だ!」

「あ、『深淵』って単語が出てきました!」


みんなが熱心に本を読んでいる。


俺も一冊手に取ったが、古い文字で書かれていて読みにくい。


「キュー……」

ココも俺の肩で、困ったように鳴いている。


「あの……少しお静かに……」

図書館の司書から控えめな注意が入る。


「すみません」

カイルが謝罪を口にし、ついでといった感じで司書に尋ねた。

「魔獣についての資料はここにあるもので全てでしょうか?」


「地下の特別資料室に古代魔獣の詳しい資料がありますよ」


「差し支えなければ、そちらを閲覧しても?」

カイルが身分証を提示し、案内を頼んだ。


「わかりました。どうぞ、こちらです」


エドガー達をその場に残し、自分たちは司書の後に続く。

地下の特別資料室は、地上とは雰囲気が違った薄暗い場所だった。

ひんやりとした空気の中に、さらに古い本や巻物が保管されている。


「ここなら静かに調べられそうだな」


司書の案内で、古代魔獣に関する貴重な資料を見せてもらった。

その中に、気になる記述を見つけた。


『深淵の王……古の時代、森の奥深くに住まいし強大なる魔獣。

他の獣たちを統率する力を持つと言われる……』


「これだ」


「見つかりましたか?」

カイルが覗き込んでくる。


「ああ、だが詳しいことは書いてない。もう少し調べてみよう」

いくつかの資料を手分けして読み、必要な情報を拾い上げていく。

エドガー達がまとめてくれた情報と合わせ、午後の会議のため整理をすることになった。




午後。緊急対策会議の場。

国王を始め、重臣たちが一堂に会する中、俺も「魔獣問題の専門家」として席に着いた。


「先ほど、隣国から外交便が到着しました。それによると、隣国でも同様に魔獣の異常が報告されており、学者達の間では「深淵の王」復活が危惧されているとのことでした。そのため、情報共有と対策について協議が必要との判断が下され、近く使節団が我が国に派遣されるようです」


「隣国でも同じような問題が……」

「国際的な規模の問題ということですね」


カイルが深刻な顔で言った。


「キュー……」

ココも不安そうに鳴く。


どうやら想像以上に大きな問題になりそうだ。



隣国からの使節団到着前に、まずは国内での情報や意見を早急にまとめることで意見が一致した。


「現状をまとめると、王国内外で魔獣の異常行動が多発している」

「その原因として『深淵の王』の復活が疑われている」

「一刻も早い対応が必要」


重臣たちの話を聞きながら、俺は考えていた。

確かに事態は深刻だが、まだわからないことが多すぎる。


「ハクジン殿、何かお考えは?」


国王に問われて、俺は率直に答えた。


「まだ情報が足りません。被害状況や発生場所など、過去の事例との比較も含め、もう少し詳しく調べる必要があります」

「うむ。では、調査チームを編成しよう」

「ありがとうございます」


会議が終わった後、エドガーとカイルが俺のところにやってきた。


「兄貴、俺たちも調査に参加させてください」

「我々の力も使ってください」

「頼りにしてる」


こうして、王都での調査体制が整った。

隣国の使節団からもたらされる情報も合わせれば、今以上に敵の輪郭もはっきりしてくるだろう。


「隣国か…姫は元気にしているだろうか?

あの姫のことだから、魔獣調査に一人で突っ走ってなけりゃいいが…」


情報収集がひと段落したら、今度は現地調査に入ることになるんだろうな。

それまでに、使える武器や道具なんかも把握しとかなきゃな。

もっとも、俺に使えるかどうかはわからんが……。


「忙しい王都生活になりそうだな」

「キュー」


ココが俺の膝の上で丸くなる。


深淵の王の謎を解くため、俺たちの調査は始まったばかりだ。

さて、明日はどんな一日になることやら…




新しい旅は始まった。


胸にしまった火種はまだ変わらずそこにある。

この旅の中で、俺はこの火を灯すことができるのだろうか。


不安と、期待、そしてココの温かい体温を胸に感じながら、慌ただしい1日が終わりを告げた。

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