17話 犯人とご対面です
陽が落ちて夜も更けたうえに夕方からまた雪が降り始めたためか、ルファーレ王宮の廊下は今夜もよく冷えている。
ゆっくりと開いた扉の隙間からキンと冷たい空気が宰相執務室へ入り込むと同時に、黒い影もそろりと室内へ侵入してきた。
「確かこの辺りだと……」
黒い影がぼそぼそと独り言を漏らすと、その影が手にしているランタンの仄明るい光も闇の中でゆらりと蠢く。ゆっくりと移動した灯りが小さなデスクの前でぴたりと止まると、ゴトンと鈍い音がしてデスクの上にランタンが落ち着いた。
「……あった」
自身が持ち込んだ灯りを頼りにデスクを物色していた影が、再び独り言を呟く。
その様子を暗闇からじぃーっと見つめていたイリスは、相手がインクの入った小瓶を掴む様子をしっかり見届けると、ブルーノの机の下から這い出て用意していた自身のランタンにそっと光を灯した。
「やはり貴方だったのですね。カーティス=レティード公爵閣下」
「っ……!?」
イリスのランタンが眩い光を放つと同時に、相手の名を呼んで声をかける。まさか室内に他の誰かがいるとは思っていなかったらしい影が――カーティス=レティード公爵の肩が、驚きでびくぅっと飛び上がった。
「イリス=クロムウェル嬢……!」
ガバッとこちらに振り返ったカーティスは、部屋の奥に長い黒髪の女性が立っていたことに相当驚いたらしい。だがその相手がイリスだとすぐに気がついたらしく、存在を認めるとほっと息をつき、にやりと口角を上げられる。
こうして見ると、やせ型で高身長の体格やダークブロンドの髪色、鈍くくすんだグレーの瞳は、息子であるミハエル=レティード公爵長男によく似ている。否、正確には彼の方がカーティスに似ているのだろう。格下の女性を見下ろして口元を歪める仕草なんて、血は争えないほどそっくりだと思うイリスだ。
「こんな夜更けに、宰相閣下の執務室で何をしているのかな?」
「それはこちらの台詞です、レティード公爵閣下」
まるでイリスが悪いことをしているような声音で問いかけられるが、その質問をしたいのはイリスの方だ。
確かに夜も遅い時間なので、いつもなら日中に数時間しか王宮に滞在していないイリスがここにいるのは、おかしいのかもしれない。しかしこの宰相執務室は、イリスの仕事場でもある。イリスはこの部屋への入室許可をもらっている身なので、夜の時間帯ということを除けば、ここにいること自体はさほど不思議ではない。
だがカーティスは違う。彼は貴族院の中央政務室に在籍し王宮にもしばしば顔を出している『レティード公爵家』の当主だが、宰相執務室に立ち入る許可は与えられていない。イリスと違って、カーティスはれっきとした不法侵入である。
「ちなみに私は、貴方を待っていました」
そしてイリスには、こんな夜更けに宰相執務室にいる明確な理由があった。
イリスはずっと、カーティスがここにやってくる瞬間を待っていたのだ。
「私を待っていてくれたのか……?」
イリスがこくりと頷くと、カーティスが左の口角をニィ、と吊り上げてゆっくりと目を細めた。
愉悦に浸るような表情を見せるカーティスに、強い嫌悪感を抱いてしまう。だがここで怯んではいけない。背筋の悪寒を振り払うように胸を張ると、カーティスの手元をじっと見つめる。
「ええ。貴方がその『万年筆』を使ってインクを抜き取る瞬間を、この目で確認するために」
「!」
イリスの指摘を受けたカーティスが、びくりと肩を震わせ、慌てて左手を後ろへ隠す。
だが今さら遅い。どんなに上手く隠したつもりでも、すべての証拠を揃え終わっているイリスには言い訳なんて通用しない。
「……何のことかな?」
それでもカーティスはまだ諦めていないらしい。上手に隠して適当に言い訳をすれば逃げ切れる、どうにでも誤魔化せる、と思っていることが、態度から窺える。
けれどそれは無駄な足掻きだ。イリスが『すべてを知っている』と理解すれば、彼も自身の罪を認めるはず。……そう信じて一つずつ丁寧に、自身の考えを言語化していく。
「インクの瓶は、私に与えられたそちらの机の上に、ずっと置いたままになっておりました。そこから大きく移動したり、紛失したわけではなかったので、中身だけ持ち出されたのでしょう」
イリスの推理にカーティスがごくりと息を呑む。否定しないということは、イリスの推理が当たっている、ということだ。
「インクを別の瓶に移し替えるためにはコツが必要ですし、万が一失敗したときは痕跡を残してしまう可能性が高い。ですが複数枚に及ぶ熱烈な『偽りのラブレター』を書ききるためには、従来の『つけペン』や『羽根ペン』に含ませただけでは、インクの量が圧倒的に足りなかったのです」
ペン先にインクをつけて字を書くタイプの筆記具は、手入れが簡単で扱いやすい反面、一度に吸い上げられるインクの量が少なく、書字の際はペン先に何度もインクを含ませる必要がある。よって通常はインク瓶を紙のすぐ傍へ置き、その都度インクを染み込ませながら少しずつ文字を記すのが一般的だ。
しかしインク瓶を完全に持ち去ってしまうと、ジェラルドへ手紙を書いた相手がイリスだと装えなくなってしまう。インク瓶が丸ごと紛失したとなれば、イリス以外の者でも手紙が書けることになってしまうからだ。
とはいえ、中身を別の瓶に上手に移し替えるのも難しい。万が一手元が狂って中身が零れれば、インクの残量が極端に減りすぎたりイリスの机を汚したりと、盗難の痕跡を残してしまう可能性がある。
「ですからレティード公爵閣下は、ここ数年でルファーレ王国でも普及が進んできた『万年筆』と呼ばれるペンを使ったのですね」
万年筆はペン軸内にインクを吸い上げて保持し、中のインクを少しずつ利用することで文字が書ける筆記具である。まだまだ新しく庶民には手が出せない高価な代物だが、この『万年筆』を使えばインク瓶から一定量のインクを抜き去ることが可能だ。
カーティスはこの仕組みを利用し、瓶そのものを盗むことなく少量のインクのみを万年筆の中へ入れて持ち去り、偽のラブレターを書く方法を思いついたのだろう。
だがこの『万年筆』には、意外な弱点があった。
「万年筆はインクの補充回数を大幅に減らし、インク瓶を持ち歩かなくても字が書けるという画期的な筆記具です。しかし万年筆とそちらのインク、実は非常に相性が悪いのです」
「相性が悪い、だと……?」
カーティスの問いかけにこくりと顎を引きながら、彼が左手に握っている筆記具をちらりと一瞥する。
「レティード公爵閣下が使われていた万年筆、字が書けなくなってしまったのでは?」
「なっ……なぜそれを……!?」
イリスの指摘にレティードが驚きの声を発する。その反応から、やはり彼は何も知らなかったのだと理解する。
しかし知らなくて当然だ。インクの持ち主であるイリスも知らなかった。あんなに毎日インク瓶を眺めていたにも関わらず、今回の事件に巻き込まれてあれこれと検証するまで、イリスもこの『特性』に気づいていなかったのだ。
「ブルーノさまに頂いたそちらのインクは、珍しい色彩であると同時に、書いた文字に美しい金の粒子が混ざる『特別なインク』です。ですが実はその金の粒子、時間の経過とともに万年筆の中で成分が沈殿してしまい、ペン先を詰まらせてしまう原因になるのです」
「!?」
イリスの説明を聞いたカーティスが、自身が握る万年筆を驚愕の表情で見下ろす。彼も予想だにしていなかったのだろう。
そう、実はブルーノからもらったインクに含まれる金の粒子は、長時間インクを軸芯に入れたままにする万年筆の先端を〝目詰まり〟させる原因となりやすい。つけペンや羽根ペンはペンの先が太い上に、含ませられるインクの量も少なく書字のたびに使い切ってしまうので問題は生じにくいが、ペン先が細い万年筆の場合はそうもいかない。
ラブレターがジェラルドの元に届いてから、すでに一週間以上が経過している。インクがそれよりも前に抜き取られていたのならば、今頃はもうカチコチに固まって、使い物にならなくなっているはず。
否、実際に彼の万年筆が使えなくなっていることは、すでに確認済みだ。
カーティスは困ったことだろう。ペン先からインクが出なければ、次の手紙を書くことができない。イリスからの不義の誘いを装えない。
だからカーティスは、こうして再び宰相執務室にやってきた。――前回と同様の手口で、また『イリスのインク』を入手しようと考えたのだろう。
イリスとカーティスが対峙していると、それまで二つのランタンの灯りしか光源のなかった薄暗い部屋が、急にぱっと明るくなった。
「ジェラルド殿下にイリスからラブレターが届いた件は、すぐに緘口令を敷いて、それ以上噂が拡散しないよう対処させて頂きました」
「っ!? マスグレイヴ……宰相、閣下……!?」
部屋が明るくなると同時に声を掛けられ、カーティスの肩が激しく飛び上がる。目を見開いてガバッと振り返った彼の視線の先――宰相執務室の入り口に、冷めた目をしたブルーノが佇んでいた。
カーティスの目にはブルーノが突然出現しように見え、相当驚いたことだろう。だが彼が気づいていなかっただけで、実はブルーノも最初からこの執務室内に待機していた。イリス同様、仮に部屋の灯りを灯されてもすぐには存在を悟られない物陰に、じっと身を潜めていただけだ。
今の今までブルーノが姿を現さなかったのは、相手がイリス一人であれば、油断して不要なことまでペラペラと話してくれるだろうと考えていたからだ。けれどもう、証拠となる反応は十分に得られた。
「宰相執務室に無断で侵入するという危険まで侵したのに、ジェラルド殿下や俺の周囲には、思ったほどの波風が立たなかった。だから貴方は焦ったのでしょう」
ブルーノがフッと笑みを浮かべると、カーティスがぎりりと奥歯を噛み締める。事実をずばり言い当てられて、言葉も出ないのだろう。
今回の問題が発生してすぐに、ブルーノは王太子・ジェラルドや王太子妃・アリシアに『ラブレターの件は知らぬ存ぜぬで通してほしい』と願い出た。前夜の時点でイリスの父・ハロルドの耳に入るまでに噂が拡散していたので、どこまでの効果が得られるかはわからなかったが、幸いそれほど大きな騒ぎにはならなかった。王族の面々が揃って素知らぬふりをしたことが功を奏したのかもしれない。
大問題に発展するだろうと期待していたカーティスは、さぞ歯がゆい思いをしたはずだ。
「再び偽のラブレターを書こうと考えたが、インクを抜き取った肝心の万年筆が、なぜか使えない。だから貴方は一度侵した危険なら二度目も同じだと高を括って、こうしてここにやってきた。――俺とイリスが待ち構えている、という可能性には考えも及ばずに」
「くっ……!」
ブルーノの手の上で転がされていたことを知ったカーティスが、悔しさに地団駄を踏む。憤怒で顔を真っ赤に染め、割り折らんばかりに黒い万年筆を強く握りしめる。
「なぜ、私だと気づいた……?」
怒りに震えるカーティスがようやく絞り出した疑問は、二人が真実に辿り着いた理由だった。
ルファーレ王宮には、政治に関わる上流階級の貴族から庶民階級の掃除係に至るまで、実に多くの人々が勤めている。職種によって自由に行き来できる区画は限られているが、同様の方法で偽のラブレターを書くことはカーティス以外の者でも可能であった。
むろん宰相執務室の鍵を不正に拝借し、部屋の周辺をうろついていてもさほど不自然ではなく、近衛騎士にも呼び止められない身分の者と考えると、王宮に勤める政務職の者が犯人だろうという予測はできる。だがそれが自分だと特定されるとは、思ってもいなかったのだろう。
「過去の書類に記載されたレティード公爵閣下の文字と、手紙の文字を見比べたからです」
その質問にはイリスが答える。しかし回答を聞いたカーティスは、はん、と鼻で笑うだけだ。
「馬鹿を言うな、そんなはずがない。あえて普段とは違う筆跡で書いたのに、文字を見ただけで見抜いたとでも?」
「いいえ、私たちが注目したのは『筆跡』ではありません。見比べたのは、『文字の太さ』です」
「……なんだと?」
小馬鹿にしたように笑うカーティスの動きが、イリスの指摘でピタリと止まる。理解ができない、といった様子で眉を顰めるので、彼にもわかりやすいように話を砕いて説明する。
「筆跡は意図して誤魔化そうとすると真っ先に変えられる部分なので、あまり参考にはしていません。ですが使用する筆やペンの太さには好みがあります。それにどんなに普段と異なる書き方を意識しても、文字の太さや筆圧は、意外とその方の特徴が出やすい部分なのです」
ブルーノ専用の資料庫には、過去に提出された報告書や申請書、手書きの資料など、彼がこれまで蓄積してきた数多くの情報が保管されている。その中から現在ルファーレ王宮に勤めている者が記した『文字』を拾い集め、ジェラルドに届いた手紙の字と比較して、文字の太さや筆圧が近しい者を探し出した。
「その文字の太さや筆圧が近い方の中に『使えなくなった万年筆』を所持されている方がいないかどうか、『すべて』調べさせて頂きました」
「!」
その後は地道な徹底的確認作業だ。
といっても、高価な代物でまだ普及が進んでいない万年筆を所持している者は少数派で、ルファーレ王宮に勤める貴族や政務官、文官の中にも数はそう多くない。ブルーノやギルバートが業務で各政務室を訪れた際に使用している筆記具や机の上の備品をさり気なく確認すれば、この段階で人数はかなり絞られる。
のちほど改めて所持品の確認と話を聞きに行ったが、ブルーノの業務後となると『どうしても』誰もいない時間となるので、『仕方がなく』事後報告で確認させてもらうことにしたのだ。――その万年筆の中に入っている、インクの色と特徴については。
「文字を書いて光に当てれば、中に入っているインクが『イリスのインク』であることは一目瞭然だからな」
「もし固まってインクが出てこなくても、万年筆をゆっくりと振ればペン軸の中で金の粒子が動くので、やはり一目瞭然です」
「まさか『盗んだインク』が入ったままで万年筆を捨てる輩もいないだろう」
「ぐ、ぐぬぅ……!」
ブルーノとイリスに丁寧な説明を重ねられ、カーティスがくぐもった声を漏らす。
ブルーノは自身で持ち込んだ紙にその場で文字や線を試し書きするだけで、万年筆自体は一切外へ持ち出していない。また宰相たるブルーノ=マスグレイヴにはすべての執務室に入室する権限があるので、どこへ立ち入っても問題にはならない。仮に誰かと鉢合わせても、目的は調査のためなので堂々とした説明ができる。ブルーノは、やましいことは何もしていないのだ。
カーティスが万年筆を握りしめたまま憎々しげに唇を噛む。
「最初にあんなものを発見しなければ……こんなことには……」
「……あんなもの?」
「ああ、なるほどな。……カーティス公爵が、私文書やメモにしか使っていない『イリスのインク』の存在をどうして知っていたのか、疑問だったんだが」
カーティスがぼそぼそと呟いた言葉に反応して首を傾げる。イリスには意味がわからなかったが、ブルーノは彼の独り言の意味をすぐに理解したらしい。
「俺の欠点を探るためにこの部屋に忍び込んだ際に、机の『二番目の引き出し』に入れてある『箱』の中身を見たのか」
「ああ、そうだとも!」
ブルーノの確認の台詞を耳にしたカーティスが、突然声を荒げて怒鳴り始める。
びっくりするイリスの目の前で、カーティスがブルーノを指差した。
「堅物と噂の宰相閣下がそんなにも女々しいとは思ってもいなかったから、それはもう驚いたがな!」
「二番目の引き出し? ……箱?」
「……イリスは気にしなくていい」
カーティスの指摘は、ブルーノにとっては暴露にも等しい内容だったのだろう。いつもと同じ無表情なのでわかりにくくはあるが、ブルーノがほんの少しだけ動揺する気配が伝わってくる。
イリスには聞き覚えのない単語ばかりだったので小さな疑問を抱いたが、ブルーノにはさらりとかわされてしまう。
頭の中に疑問符を浮かべていると、カーティスが突然、イリスの方へ振り返って怒りの感情をぶつけてきた。
「だいたい! 君が悪いんじゃないか、イリス=クロムウェル嬢!」
「えぇっ……!?」
急に名指しで怒られたので、驚いて数歩後ずさってしまう。
(やはり私なのですね……!?)
ブルーノは『巻き込んだのは俺の方だ』と言ってくれていたが、やはり原因はイリスにあるらしい。
そもそもイリスは政治のことはよくわからないし、父・ハロルドも伯爵位をもつ貴族でありながら権力や派閥抗争にさほど執着がない。そんな政治絡みの問題に巻き込まれる要素が少ないイリスなのに、急に正妃がいる王太子にラブレターを送った人物に仕立て上げられたのだ。ならば今回も不名誉な愛人の噂絡みで、身に覚えのない問題に巻き込まれたのだと予想はしていた。
自分のせいでまたもブルーノに迷惑をかけてしまった、と落胆しかけていたイリスだったので、次のカーティスの言葉には素直に驚いてしまう。
「君を一目見たときから、私は妻よりも君を愛していたのに……!」
「……え」
衝撃的な暴露に、イリスの表情が強張る。
ブルーノも瞠目して固まっている。
理解不能が、度を越していた。
「君との出会いは、ミハエルの弁論大会を聴講するために王立中央貴族学院へ足を運んだときだった」
「ちょ……あの……」
勝手に語り始めた。なぜ。
「君は大講堂のエントランスで、聴講希望者の受付係をしていた」
「……」
そういえば、そんなこともあった気がする。
イリスは学院生のときから丁寧な字を書くよう心がけ、文字の練習にも励んでいた。その字を見た教師にお願いされ、学院で開かれる催しものの際に受付係や記名係を担当することも多かった。正確な時期や時間はもう覚えていないが、おそらくその中の一つに、カーティスの言う『弁論大会』も含まれていたのだろう。
イリスはこれまで、カーティス=レティード公爵と個人的な対面をしたことがなかった。社交の場で父に紹介されて挨拶をしたことはあるが、一言二言交わしただけで、それ以上の接点はないと思っていた。その認識はもちろん今も変わっておらず、貴族学院時代に受付で会った、というのも、数に含めていいのかどうか微妙なところだと思っている。
だがイリスの認識と異なり、カーティスにとってはそれが『出会い』だという。はじめて会ったときから、イリスを特別に思っていた、というのだ。
「人形のように愛らしく美しい君を手に入れるのは、私のはずだった……!」
「あ、あの……?」
「なのに次から次へと、他の男とばかり関係を持ちおって……!!」
「いいえ、私は誰とも関係など持っておりません。レティード公爵閣下の勘違いです」
聞き捨てならない勘違いをされているようなので、きっぱりと否定する。だがカーティスはまったく聞く耳を持ってくれない。
「ミハエルとさえ恋仲になったというのに、なぜ私には一度も声をかけてこないんだ!」
「ミハエル=レティードさまとお付き合いしたこともございません!」
冗談はやめてほしい、と切に思う。交際どころか、イリスはミハエルが大の苦手だ。できれば今後も関わりたくないと思っているのに、カーティスはイリスが自身の息子とも関係を持ったと認識しているらしい。その規格外の妄想は、一体どこから生まれてくるのだろうか。




