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第一章:目は口ほどに物を言う⑥

「シュレン、そっち行ったよ!」

 時折り現れるモンスターと交戦を重ねながら、ルイネとシュレンはヴォルテックスへの復路を進んでいた。草むらからにゅっと姿を現した巨大なカマキリのようなモンスター――キラーマンティスがカミソリのように薄く鋭い鎌とこちらを見定めるような一対の複眼が二人に向けられる。

 六本の鎌による猛攻をルイネはわざと避けるように潜り抜けると、「やれる?」と背後のシュレンへ向けて声を張る。

「う、うん」

 迫りくる三体のキラーマンティスにシュレンは頬を引き攣らせながらも、腰のベルトから吊るした赤い液体の入った試験管を引き抜く。蓋を外すと、彼は襲い掛かろうとしてくるキラーマンティスたちへと向かって試験管を放り投げた。じゅどーんという爆発音と共にキラーマンティスたちが炎に包まれる。爆発に巻き込まれないように、シュレンは目を閉じてへっぴり腰でそろそろと後退する。

 ルイネは燃え上がったキラーマンティスたちを全力でメイスで叩き壊す。青臭い体液の匂いを漂わせて完全にキラーマンティスが動きを止めたのを確認すると、ルイネは巨大なカマキリを模したモンスターのぐちゃぐちゃになった屍からメイスを引っこ抜く。

「シュレン、朝より動きが良くなってきたんじゃない? あたしの合図ありきだけど、何をどうしたらいいかちゃんと考えて動けてる」

「そ、そうかな……?」

「欲を言えば敵が完全に死んだかどうかまで確認して欲しいけど。じゃないと、不意を突かれてこっちが殺される可能性だってあるし」

「そ、そうだね……」

 今朝、コバールを出てから、シュレンはルイネに彼でもできる戦い方を教わっていた。ルイネの言う通り、朝よりはだいぶ体が動くようになり、後方からの援護のタイミングも掴めるようになってきていたが、どうしてもモンスターが怖くて咄嗟に目を閉じてしまう。厳密にはルイネが作り出すモンスターのぐちゃぐちゃの撲殺死体が怖い。あまりにグロテスクで、今夜あたり夢に出てきそうだ。

「さて、それはそうと、そろそろ問題の倒木の場所だね。街道から外れるから、はぐれないようについてきてね」

 そう言って草原の方に足を踏み入れようとすると、ルイネは何かに足を取られてつんのめった。ブラウンのムートンブーツの足元を確認すると木の根らしきものが巻き付いていた。

「っ……! トレント……!」

「ルイネ!」

 ぎちぎちと体を締め上げられていくルイネへ向かってシュレンは叫ぶ。ルイネは万力のような力に全身の骨を折られそうになりながらも、トレントの魔手から逃れようともがく。

「ルイネ、今助けるから!」

 シュレンは腰のベルトから淡黄色の液体が入った試験管を抜いて、トレントの根を目掛けて投げつける。シュウウウウと音を立てる煙と酸っぱい匂いがルイネの嗅覚をついた。なんだこれは。粘膜という粘膜に染みるひどい匂いに顔を顰めながら、緩んだトレントの拘束からルイネは抜け出した。

「シュレン、ありがとう……おかげで助かったは助かったんだけど、これは一体何をやったの?」

 鼻と口元を手で覆いながらルイネがそう問うと、シュレンは酢だよと笑った。

「酢?」

 訝しげにルイネは聞き返した。先ほどの液体が目に染みたのか、彼女の赤い目は更に赤さを増している。

「そう、酢。料理に使うやつ。あれをめちゃくちゃ濃くなるように煮詰めて、即効性を増すために砕いた流星の欠片をひと匙混ぜたんだ。そうすると少し触れただけで皮膚の深部まで溶けて爛れる強酸性の薬品ができる。危ないからルイネは触らないでね」

「う、うん……」

 先ほどまでルイネに巻き付いていたトレントの根は煙を上げながらどろどろと地面に溶け、茶色い水たまりを作っていた。シュレンのコントロールがあと少しでもずれていたら自分がこうなっていたのかと思うとぞっとした。

 それにしても、とルイネはシュレンによって溶かされた根の断面を見やる。断面から樹液と一緒に急速に流れ出したトレントの魔力の匂いが辺り一面を濃く覆っている。

 ルイネは魔力を持たないが、エルフとして生まれた以上、魔力の匂いには敏感だ。麝香と酒精(アルコール)の混ざり合ったような独特の香りに彼女は居住まいを正し、自分の得物を構える。

 一般的にモンスターはその身に魔力を宿し、また魔力に引きつけられる習性をもつ。強ければ強いほどモンスターが持つ魔力は多い――往路で遭遇したスライムに比べ、目の前のトレントの方が強いということは、垂れ流された魔力に反応してこの付近のモンスターが今すぐにでも集まってきてしまう危険性があった。モンスターの集団に囲まれたくなければ、早急にここを立ち去る必要があった。

(……いや、もう遅いか)

 遠くで地響きがした。めきめき、めきめきという音を伴いながら、街道沿いの街路樹の根が地面から抜けていく。まるで目や鼻、口を模したかのような空洞が二人を嘲笑うかのように歪められる。

「えっ……」

 目の前の恐ろしい光景にシュレンは呆然と立ち尽くした。唐突に蠢き出した木々――トレントは見たところざっと二十体は超えている。うねうねと動く太い根は、往来を遮られて困惑する旅人たちを絡め取っていく。

 街道を行く旅人たちは皆が皆、武勇に長けているわけではない。ルイネたちのような冒険者ではなく、一般人の往来も多い。やるしかない、とルイネは腹を括るとシュレンへと目配せを送る。

「――シュレン、やるよ。このままじゃヴォルテックスに帰れないし、何よりたくさんの人が巻き込まれて大惨事になっちゃう」

「やるったって、こんな数、無理だよ……」

 シュレンの口から弱音がこぼれ落ちる。しかし、無理じゃないよ、とルイネはきっぱりとした口調でそれを断じた。

「どのみち、このくらいどうにかできないとこの先冒険者としてやってけないし。それに、単なる倒木の片付けなら勝手にあたしたちが手出しすることはできないけど、モンスター退治となれば話は別だよ。モンスター退治ははあたしたち冒険者が率先してやるべき仕事だもん」

 名を上げるチャンスだよ、とルイネは血赤の眸を片方閉じてみせた。強がってみせてはいても、この量のモンスターはルイネだって怖い。それに森を出てからも戦うのは小型のモンスターばかりで、トレント相手に立ち回った経験などない。それでも、大丈夫、とルイネは無理矢理口の端を吊り上げる。

「シュレン、広範囲に攻撃できるような薬品って持ってない?」

「う、うん……それならいくつか……。毒の炎を発生させるやつとか、触れた部分を砂に変えるやつとか……」

 よし、と頷くとルイネは怯えの色が濃いシュレンの茶の双眸を覗き込んだ。

「あたしは捕まった人たちを解放しながら、ボスを探して奥まで行ってみる。シュレンは後方からモブモンスターの数を削っていって。あたしや他の人たちに攻撃を当てないように気をつけてね」

「でも……そんなの、ルイネばっかり危険じゃ……」

「適材適所ってやつだよ。これはシュレンにしか頼めないことだよ」

 頼まれてくれるよね、とルイネが畳み掛けるとシュレンは躊躇いがちに首を縦に振った。そして、彼は血液のような赤色の液体の入った試験管を腰のベルトから取ると、ルイネへと渡した。

「ルイネ、これよかったら。数分だけだけど、ルイネの能力を全体的に底上げするための薬。気休め程度だけどよかったら使って」

 ありがと、とルイネはそれを受け取ると口をつける。鉄錆のような味のする液体が喉の奥を通り抜けていく。ルイネは軽く口元を拭うと、

「それじゃあ行ってくるね。無事に帰れたら、今夜はヴォルテックスで祝杯を上げよう。この分なら報酬は期待できそうだしね」

 軽口を叩きながら、ルイネはシュレンの肩をぽんと気安い調子で叩くと、一気にモンスターたちとの間合いを詰めた。

 ルイネの接近に気づいたトレントたちは、彼女めがけて木の実を礫のように浴びせかけてきた。

(あ……シュレンのおかげで、いつもより体が軽い。攻撃が全部見える……!)

 ルイネは自分の方へと飛んできた全ての木の実をメイスで叩き割り、地面へと落とした。すべての動きを見切っているからこそ、できることだった。

 トレントの根がうねり、ルイネを捕らえようと伸びてくる。ルイネは次々と伸びてくる根に殴撃を見舞い、トレントたちをいなしていく。

「あ……!」

 ルイネはトレントの根によって絞め上げられ、苦悶の声を上げている三人組の旅人姿を認め、声を漏らした。ルイネは渾身の力を込めて、根にメイスを振り下ろす。防御力に優れた木肌を何度も殴打を繰り返すうち、だんだんとトレントの拘束が緩んでいく。ガン、という音を立ててトレントの根が砕けた。拘束力を失ったトレントの根の中から、旅人三人の体が放り出された。

「逃げて! 早く!」

 呆然としている旅人たちへと鋭い語気で言葉を放ち、ルイネは彼らを追い立てる。「お、おう……?」何が何だかよくわからないといったふうながらも、旅人たちはヴォルテックスの方角へと這々の体で逃げ出した。

 ルイネの背後でぱらぱらと音がした。ちらりと背後を確認すると、彼女の背後にいたトレント数体が砂となって地面に散り積もっていくところだった。

(シュレンも頑張ってくれてる。あたしも頑張らないと)

 ルイネは自分めがけて襲いかかってくるトレントの枝や根をメイスで捌きながら、先へと進んで行った。トレントに絞め上げられ、捕らわれた旅人を見つけては、彼女は解放し、街の方へ逃げるように促していく。

 群れの中央奥に一体の一風変わったトレントがルイネを待ち構えていた。他のトレントと違い、幹に大きな琥珀が埋まっていた。おそらくはこれがこの群れのボスだとルイネは直感する。

 トレントの群れの左右から、紫色の炎が燃え広がってきていた。シュレンが錬金術(アルケミー)で生み出した毒の炎だった。

 放っておけば、モブモンスターたちは毒が回るか炎が延焼するかで勝手に死んでくれる。抵抗するモブモンスターたちから物理的に飛び火してこない限り、ルイネは目の前のボスとその両脇を固めるモブ二匹だけに集中できる。

(ボスの琥珀から濃厚な魔力の匂いがする……とりあえず、あれを壊せれば……!)

 ルイネはボスの琥珀に狙いを定め、最上段からメイスを振り下ろそうとした。が、脇にいたモブの枝がメイスに絡みつき、拮抗状態になる。

「ちっ……」

 ルイネは行儀悪く舌打ちをすると、モブのトレントの幹を全力で蹴る。勢いを殺すことなく、メイスを引き戻すと、ぶちぶちと枝がちぎれる音がした。

(トレントは所詮、木。なら、洞の部分が脆くなってるはず。ボスはともかく、モブは弱点(そこ)を突けば……)

 ひとまず邪魔者を先に片付けてしまおう。そうでなければ、あのボスに自分の攻撃は届かない。そう判断すると、ルイネは先ほどまで拮抗状態にあったトレントへと攻撃を繰り出す。彼女を捕えようとしてくる根や枝を掻い潜って、顔状になっている樹洞へとメイスの先端を叩き込む。ばきっと音を立ててトレントの顔面に亀裂が走り、そこを境に木の上部がゆっくりと傾き始める。

 目の前のトレントの倒壊に巻き込まれないようにルイネは地面を蹴って避けると、そのままもう一体のモブへと思いっきりメイスを薙ぐ。

 攻撃を横っ腹に叩き込まれ、トレントの戦意がルイネへと向けられる。目と思しき黒々とした空洞を細めると、細い針状の葉をトレントは彼女へ降らせてきた。

 いくらシュレンの薬のおかげで一時的に身体能力が向上しているとはいえ、これらをすべて見切ることは難しい。避けきれないと判断したルイネは深紅のケープの裾を広げ、鋭い葉の雨を受け止める。受け止めきれなかった葉が彼女の体を傷つけていく。

 細かなダメージがルイネの体に蓄積していく。流れ出る血が体の力を奪っていく。

(……っ、だめだめ。まだあいつを倒せてない……!)

 ルイネは今朝、コバールの宿屋でシュレンからもらった回復薬(ポーシヨン)を取り出した。効果のほどは未知数だが、あともう少し踏みとどまるためにはこれに頼るしかない。

 ルイネは試験管の蓋を外すと、中の緑色の液体を一気に飲み干した。とろりとした蜂蜜のような甘みが彼女の体に活力を与えてくれる。

(よし、大丈夫。やれる)

 ルイネは指で口元を拭うと、不敵な笑みを浮かべた。一筋走っていたはずの頬の傷も、回復薬(ポーシヨン)の効果によるものか、いつの間にか出血が止まっている。

 ルイネはメイスを握り直した。戦い続けて汗ばんだ手に愛用のそれはしっくりと馴染んだ。

 目の前の巨木に埋まった琥珀をルイネは見据えた。あの中に満ちている魔力が目の前の個体を他のモブに比べて強くしている。

 狙うべき場所を見定めると、ルイネは再び駆け出した。シュレンにもらった赤い薬の効果が薄れてきているのか、体に先ほどまでのような軽快さはない。

 ボスのトレントの動きはモブたちのものよりも早い。近づこうとするルイネの動きを枝や根で巧みに塞いでくる。

 ウオオオオ。不意にトレントが唸り声を上げた。ルイネは自分の背が粟立つのを感じた。体が動かない。今、彼女を支配しているのは恐怖という感情だった。

 動きを止めたルイネの体をトレントの枝が嬲る。傷口にぴりっとした痛みを感じる。迫ってくる枝に視線をやると、魔力がまとわりついているのが見えた。あれは魔力の毒だ。

 傷口から入り込んだ毒がじわじわと体を蝕んでいくのを感じる。まずい、と思いながらルイネはのろのろと万能薬(エリクサー)回復薬(ポーシヨン)を取り出そうとする。

(だめだ……指が、動かない……)

「――ルイネ!」

 錬金術(アルケミー)の残焔の中を走り抜け、シュレンがルイネへと駆け寄ってきた。しかし、シュレンは足首をトレントの根に締め付けられ、あと一歩というところで転倒する。

「くっ……」

 痛みで顔を顰めながらも、シュレンは自分の腰に下げた青と緑の薬に手を伸ばす。シュレンは足をトレントに取られたまま、ルイネへと這い寄ると、試験管の蓋を外す。

「ルイネ、口、開けて……!」

 そう言うとシュレンはルイネの唇へと試験管の口を押し当てる。ルイネは口の中に入り込んできた液体を舌で舐めとると、喉の奥へと嚥下する。

 とくんとくんという心臓の鼓動と共に、薬の成分が全身の血管へと運ばれていく。

 毒で麻痺していた体が楽になるのをルイネは感じた。すっと心が落ち着いていき、先ほどまでのトレントへの異様な恐怖が消えている。

「ありがと、シュレン」

 そう言うと、ルイネは立ち上がった。「これでおあいこね」彼女は礼代わりに、シュレンの足首を縛めているトレントの根を渾身の力を込めて砕いた。

 かたかた、とシュレンが震えていた。昨日はスライムにすら怯えていた彼だ。ルイネを助けるためにこの場に飛び込んでくることはとても勇気がいったことだろう。

「シュレン、あいつに埋まってる琥珀を壊したいんだ。あれにはあいつの魔力が詰まってる。あれさえ壊せれば、あいつを弱体化させられる」

「わかった、手伝うよ」

 シュレンは服についた土を払いながら、立ち上がる。トレントに巻き付かれていた足首がずきりと痛んだ。骨は折れていなさそうだが、捻挫くらいはしているかもしれない。

 シュレンは外套のポケットから赤いガラス玉のようなものを取り出した。「ルイネ、危ないから下がってて」シュレンは手を震わせながらも、目の前のトレントと対峙し、手の中のものを投擲した。

 じゅどーん、と辺りに轟音が響き、閃光が弾けた。琥珀が埋まっていた部分を中心にトレントに大穴が空いている。

 瀕死の状態でそれでもなお攻撃を続けようとするトレントに向かって、ルイネは咄嗟に駆け出した。手の中のメイスで、完全に動きを止めるまで、彼女はトレントを何度も何度も執拗に打ち据えた。

 トレントのボスがただの木屑と成り果て、完全に動かなくなるとルイネは警戒を解き、メイスを収めた。

「シュレン、おかげで助かったよ。ところでさっきのあれは何をしたの?」

「魔力に反応して爆発する爆薬を投げたんだ。あれに魔力が詰まってるってルイネが言ったから、それならあれが使えるかもって思って。魔力の伝導効率の調整途中の試作品だったからちょっと心配だったんだけど、役に立ったみたいでよかった」

 そう言うとシュレンはへなへなと地面に座り込んだ。膝ががくがくと震えている。

「大丈夫?」

 うん、とシュレンは弱々しく頷くが、どう見ても大丈夫じゃない。

 先ほどの爆発で辺りに満ちていたトレントたちの魔力の多くが使われてしまったのか、魔力の匂いは薄い。モブのトレントたちを燃やしていた炎はいつの間にか焚き火程度まで弱まっていたが、この分なら雑魚モンスターが寄ってくることもないだろう。ひとまず、ここは安全だと判断し、ルイネはシュレンの横に腰を下ろした。

「ねえ、シュレン。今朝の茶葉占いの結果、覚えてる?」

「なんだっけ……『困難が待ち受けているけれど、それを乗り越えることができる』、だっけ?」

 シュレンは自分の言葉にはっとしたように、あ、と声を漏らした。ふふ、とルイネは小さく笑うと、

「まだ駆け出しの――本登録さえまだの銅級(ブロンズ)冒険者だけど、あたしたち、やったんだよ。これであたしたちを侮ってたジャレットさんの鼻を明かすことができる。これだけの成果を出したんだもん、シュレンは立派に戦える冒険者なんだって証明できる」

 ルイネの言葉に、シュレンはそうだね、とはにかむように淡い笑みを返した。

 これからのことだけどさ、とルイネは街路樹がすっかりなくなってしまって広くなった空を眺めながら口を開く。

「とりあえずちょっと休んだら、ヴォルテックスに帰ろう。それと、昨日も言ったけど、シュレンが嫌じゃなかったら、明日からもソロ同士、あたしと組んで仕事しようよ。あたしもしばらくはヴォルテックスを足場に仕事しようと思ってるし、シュレンがリンシュ大陸に渡る資金を稼げるまでの間、どうかな?」

「いいの? 迷惑じゃない? 僕が一緒じゃ、ルイネの足を引っ張るかもしれないよ」

「それはさっきも言った通り、適材適所ってやつでしょ。それに、シュレンが援護してくれたり、さっき駆けつけてくれなかったら、今ごろあたし死んでたかもしれないよ?」

 だから自信持ちなよ。ルイネはシュレンの背中をぽんと叩く。シュレンは眩しいものを見るような目でルイネを見た。

「それじゃあルイネ、これからもよろしく」

 シュレンはルイネへと右手を差し出した。ルイネは差し出された手をぎゅっと握り返した。

「それにしても疲れたあ。っていうかお腹空かない?」

「確かに」

 ルイネはそっと手を離すと、背嚢を下ろす。彼女は口を縛っていた紐を解いて、中から燻製肉とチーズのバケットサンドを二つ取り出すと、片方をシュレンへと渡した。

 ルイネとシュレンが倒木もとい、トレントの群れを一掃したことで、ヴォルテックスとコバールを繋ぐ街道の旅人たちの往来が再開していた。二人は街道を行き交う徒歩の旅人たちや馬車を眺めながら、バケットサンドにかぶりついた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

ルイネとシュレンの最初の大冒険も佳境ということで、本日分は非常に文字数が多くなっております。

申し訳ございませんが、今後もお付き合いいただけますと幸いです。

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