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プロローグ:禍いの祝福

 ロスラエナ王国の北方には、中心に霊樹ユグドラシルを頂く木々の生い茂った森がある。只人が迷い込まないように魔力の結界で覆われたその森は、名をシウィスーヤといった。

 外界と隔絶されたシウィスーヤの森には、古くから魔法の扱いに長けた長い時を生きる人々――エルフが暮らしていた。

 今から百五十年ほど前、ルイネはシウィスーヤの森で生を受けた。この森に住まうエルフたちは、皆、白銀の髪に緑の瞳という容貌をしていたが、彼女はターコイズのような鮮やかな水色に血液と同じ赤色の双眸をしていた。

 彼女の容貌に、森のエルフたちは呪われた子だと噂した。しかし、それでも彼女の両親は我が子の見た目が他者とは違えど、彼女に対してわずかな期待を抱いていた。それは、彼女の姉であるネージュが、千年に一度と言われるまでの類稀な魔法の才を持っていたからだ。

 しかし、ルイネの両親の期待は斜め下の方向へと裏切られた。ルイネはエルフの子でありながら、全く魔力を持っていなかった。

 魔法の初歩の初歩とすら言われる小さな炎を呼び出す魔(ファイアボール)法すら扱うことが能わない我が子に、ルイネの両親は早々に彼女のことを見放した。食事や衣服など、生きるのに必要な最低限のものこそ与えはしたが、ルイネを空気のように扱い、積極的に関わろうとはしなかった。

 物心ついたころから、ルイネは森を出て独り立ちするために棍術や体術の訓練を独学で繰り返してきた。筋力がつきづらいエルフの体であっても、辛抱強く何十年も稽古を続けるうち、ルイネは近接戦闘の腕を上げていった。

 そんなルイネのことを同じ森のエルフたちは蔑むような目で見ていた。エルフなのに品性の欠片もなく野蛮だと陰口を叩かれたことだって枚挙にいとまがない。

 百五十歳の誕生日を迎えた日の朝、ルイネは生まれ育ったシウィスーヤの森を出ることにした。森の外に出るまでの間、何人ものエルフたちにルイネは遭遇したが、誰にも何も言われることはなかった。しかし、エルフの恥さらしがようやく森を出ていってせいせいするとでも言いたげな視線を出会う皆が餞別の言葉の代わりに向けてきた。

 冬の野ウサギの毛皮を剥いで作った白の耳当て帽子をかぶると、ルイネはきらきらとした魔力の結界で覆われたシウィスーヤの森の外へと一歩を踏み出した。

 鬱蒼とした森の中に反して、空の下は明るく、太陽が眩しかった。頬を撫でる風も青臭くじっとりと湿ったものではなく、からりとしている。

 今日から自分はシウィスーヤの森のエルフ、ルイネ・フェリシタルではない。この耳――エルフの耳は長く尖った特徴的な形状をしている――を隠し、これから自分は普通の人間の冒険者として生きていくのだ。

 交易のためにたまに森の外に出る一部のエルフたちが話していたのを小耳に挟んだ限りでは、街道を何日か南下したところに自由都市ヴォルテックスと呼ばれる街があるらしい。ルイネはヴォルテックスの冒険者ギルドを訪れ、新しい人生の一歩を踏み出すつもりでいた。

 これから先、どんなことが自分を待っているのだろう。この森を離れて、一人できちんとやっていけるのだろうか。期待と不安で高鳴る鼓動がルイネの胸を打つ。

 大丈夫。自分を鼓舞するようにそう言い聞かせると、ルイネは歩き始めた。彼女は生まれ育った背後の森を振り返ることはなかった。

 初夏の冷涼な風がさわさわと森の木々を揺らしている。彼女が向かう先の空を太陽が照らし始めていた。

久々の投稿です!

毛色は全く異なりますが、「きみとキミの境界線〜僕による僕のための物語〜」もよろしくお願いいたします!

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