役作り7
「遂に主演が決まったわ」
放課後の教室で水瀬が言う。
「おめでとう」
「文化祭の出し物だけど」
「頑張ってください」
「平井君も電柱の役があるでしょ。頑張らないと」
文化祭の出し物で演劇をすることになり、配役を行った結果、水瀬は主演の姫役、俺は電柱の役になった。世の中は不平等だ。
「なんで人間が電柱をやるんだよ。段ボールで作ればいいだろ」
「ハマり役だと思うけど」
「どういう意味だ。ぶっ飛ばすぞ」
「やってみなさいよ、平井君の前科がマシマシになるだけだから」
「背油みたいに言うな」
言い合っていると、クラスメイトで生徒会役員の川瀬が、俺たちの席にやってきた。
「あら、川瀬さん」
「相変わらず二人は仲良しだよね」
文化祭の実行委員でもある川瀬は、忙し気に日々を過ごしていた。
「どうしたんだ?」
「これから水瀬さんと打ち合わせ。劇の主役だからね」
中世を舞台にした姫様と王子様の劇で、主役の姫は異世界転生した女子高生という設定だった。
「頑張って、素敵な劇にしようね」
「そうね」
川瀬が俺たちの近くの席に座る。
「ところで、王子様役は誰がやるんだ」
「私だけど」
「お前、パンクしないか、大丈夫なのかよ」
「しょうがないじゃん。他に立候補者がいなかったんだから」
水瀬と結ばれる役なら、誰かが手を挙げそうなものだが。
「水瀬さん相手だと、みんな緊張するんじゃないかな。だから、誰も手を挙げなかったんだと思う。観客もいるから、醜態を晒すのは嫌でしょう」
「平井君が王子様をやればよかったのに。ほら、醜態を晒すのは慣れてると思うし」
「手が出そうだ」
「やだ、川瀬さん助けて」
水瀬が川瀬の胸に顔を埋める。
「ダメだよ、平井君。水瀬さん怖がってるじゃん」
「怖がってるんじゃなくて、面白がってるんだ」
それから、水瀬と川瀬の打ち合わせがはじまった。水瀬は劇の台本を早々と受け取っていた。電柱の俺には、当然まだ配られない。
打ち合わせを終えた水瀬と、いつものように下校する。水瀬の鞄は俺が持っていた。
「入院中の姉さんがね、見に来るかもって」
「そうか」
だから張り切っているのか。
「早速、劇の合宿をしましょう。泊まり込みで」
ちょうど金曜日だったので、土日ともに宿泊するつもりらしい。
家に着くと、俺は夕食の準備をはじめて、水瀬はテーブルで台本に目を通しはじめた。
「お前さ、俺の家に泊まるときって、家の人にどうやって説明してるんだ?」
「女友達の家に泊まるって言ってる」
「そうか」
「それがどうかしたの?」
「この前、御手洗に俺たちの関係性を訊かれただろ。俺たちって役作り上の、役だけの関係だと思ってたんだが、お前はどう思ってるのかなって」
「さぁ、わからないわ」
水瀬が無表情で言う。
「それに、電柱はそんなこと言わない」
「誰が電柱だ」
夕食の焼きそばを食べはじめても、水瀬はずっと台本に目を通していた。時々、ぶつぶつとセリフを口にするので、俺も対応する王子様のセリフを唱える。
「なぁ、食べ終わったら一旦休憩しないか?」
「休憩しない」
「でも風呂にも入りたいし」
「安心して、川瀬さんからスマホにも台本を送ってもらってるから」
何の話かと訝しんでいると、水瀬が例の悪魔の笑顔で言った。
「一緒に入ってお風呂でやればいいじゃない、読み合わせ」