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役作り４

　待ち合わせ場所にたどり着くと、タイミングよく喫茶店の中から御手洗《みたらい》が出てくるところだった。ありがたいことに、向こうから声もかけてきてくれる。

「なんだよ、急に」

「急に呼び出してすまなかった。お前に用があったんだ」

「今さ、週末の演奏のリハーサルしてたんだ。用件はどうせいつものアレだろ。早く服脱げよ」

「この人が不良で、ピアノ好きな平井君の恋人……」

「おい」

　御手洗には湿布貼りを頼むことがあると、水瀬に言い聞かせる。

「なんだ、そういうこと」

　御手洗の外見は、茶髪で、両耳に五つのピアスがある。上はジャケットで、そういうファッションなのか、ジーンズから財布のチェーンが飛びでている。

「ところで、隣の女性はどちらさまで？」

「高校の同級生」

　返事に悩んだので端的にそう答える。

「世の中の全てに嫌気が差して不良になりたいって言うから紹介しにきた」

「水瀬です、はじめまして」

「はじめまして、平井がいつも世話になってるみたいで」

「お前は俺の何なんだよ」

「御手洗さんはピアニストを目指されてるんですか？」

「いや、俺はピアノになりたい」

　こんなやつのどこが参考になるのかはさておき、詳しい話のために、御手洗の活動拠点である廃墟に移動した。その間、御手洗はずっとキョロキョロしていて落ち着きがなかった。

　廃墟に着き、ドラム缶の上に座ったところで口にしてみる。

「今日はやけに落ち着きがないな」

「ちょっとトラブルを抱えててさ。実は、こわーい先輩から指を切り落として持ってこいって脅されてるんだよな」

「……は？」

「その先輩が極道の愛人にちょっかいをかけちゃったみたいで。それでケジメとして指を詰めろって言われててさ、俺の指で代用しようとしてるんだ。卑怯だろ。脅しの脅しだよ」

　御手洗が言い終わったところで水瀬に袖を引っ張られ、廃墟の隅に連れていかれる。

「ちょっと平井君」

「なんだよ」

「彼、本物すぎる」

　ひそひそ話の途中で、背後に気配を感じた。振り返ると、シャベルを三本握った御手洗が満面の笑みでそこに立っていた。

「その先輩の家の庭に、落とし穴掘ろうと思ってるんだ」

「なんのために……？」

「もちろん手伝ってくれるよな」

　♢♢♢♢♢

　移動先は、立派な日本家屋だった。俺たちは生け垣を超え、庭に侵入した。それからシャベルを使って落とし穴を掘り進める。

　辺りは少し暗くなりはじめていた。

「私、平井君との関係を見つめ直すべきだって心から思ってる」

「奇遇だな、俺も御手洗との関係を見つめ直すべきだって思ってる」

「いいから手を動かせよな、お前ら」

　御手洗いわく目標は三メートルらしい。

「その先輩はまだ帰ってこないのか？」

「先輩今は一人で住んでるし、しょっちゅう留守にしてるから大丈夫だ。明るくなるまで三人で力を合わせて頑張ろう。やっぱり持つべきものは、共倒《ともだお》れだよな」

「友《とも》みたいに言うな」

　庭の土を次々と堀り、横に積んでいく。

　作業も進み、それなりに穴が深くなったところで門の方から足音がした。