役作り2
俺が風呂から出ると、ちょうど水瀬の手料理がテーブルに並ぶところだった。血のりのケチャップにインスパイアされたのか、メニューはオムライス。
「げぼく♡」とケチャップで書かれている。
「……」
水瀬を見ると、専用のエプロンを身につけていた。エプロンの隙間から下着が見えるし、床には脱ぎ散らかした制服が見える。
「ちなみに、隠し味は同情」
「愛情みたいに言うな」
「あ、私もシャワー借りるね」
確認と行動が同時だった。もう水瀬の姿は見えない。
一人でオムライスを完食する。床から水瀬の制服をつまみあげ、洗濯物を回すために浴室に向かった。
すりガラスの向こうに水瀬の姿が見える。向こうも俺の姿を捉えたのか「えっち」と声がした。
「すぐに回して乾かさないとまずいだろうが!」
俺も大声で対抗する。そのあと、皿洗いと汚れたシンクの掃除をした。十分後、シャワーをすませた水瀬がキッチンにあらわれる。
タオルを頭に乗せて、エプロン同様に宿泊用の部屋着を着ていた。それから乱暴に袖を引っ張られる。
「なんだよ」
「……ちょっとこっち来て、食洗器」
「誰が食洗器だ。まだ片付けの途中だぞ」
♢♢♢♢♢
なぜか真っ暗の寝室に連れていかれた。理由はわからない。
「なんのための移動なんだ」
「だって……顔見られるの恥ずかしいから」
水瀬は無言のまま俺に覆いかぶさるようにした。二人とも背後のベッドに倒れこむ。
リビングから漏れた淡い光が、水瀬の表情を薄く照らしていた。湯上りのせいか、別の理由があるのか、頬が少し赤い。
「水瀬……?」
「平井君のことがずっと好きだったの」
俺の服の上に顔を埋めて、もう水瀬の表情が見えない。
沈黙が走る。
返事をした方がいいのだろうか。
「俺は……」
言いかけたところで、水瀬が突然顔を上げた。
「言い忘れてたけど、恋する殺人鬼の役なの」
「……おい、それを最初に言えよ」
「ドキッとした?」
「してない、全然」
すっかり夜も遅くなっていたので、水瀬は当然のように一泊すると言い出す。ベッドを占領すると満足そうな顔になり、俺も定位置に移動する。
つまり床に。
「今日だけ一緒に寝てあげてもいいけど」
「どうせ今度の映画に添い寝のシーンがあるとかだろ」
「正解。遺体と添い寝するシーンがあるの」
「しかも遺体とかよ……」
寝室が静かになったあと、俺はしばらく天井を見つめていた。
床に敷き物の類はなく、背中は床の硬質な感触に痛めつけられている。水瀬が宿泊する度にこれだ。
それからベッドの上を見た。水瀬はシーツにくるまれていた。
「やっぱり腰痛はお前のせいだよ」