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役作り11

「あの子嘘つきだから」


 水瀬の同級生の言葉が頭から離れなかった。あれはどういう意味なのだろう。

 それでも文化祭の準備は着々と進んでいく。


「姫様の姉が倒れるシーンでね、ピアノを流したいって話が演出の子からあって」

「……」


 準備を進める中で、川瀬が急に相談にきた。ピアノというワードがその口から出て、漠然と、嫌な感じがする。


「クラスにピアノを弾ける子はいるんだけど、他にもやることがあるから、覚える暇がないっていうの。というか、一からそれっぽいメロディを作ってもらわないといけなくて」

「……なるほど」

「誰か適任者を知らない?」


 俺たちの後ろを水瀬が通りかかった。この場合、タイミング悪く、というべきだ。


「平井君の友達にうってつけの人材がいるわよ」

「ホント?」


 川瀬の目が爛々と輝く。


「御手洗君って言うんだけど」

 


 ♢♢♢♢♢



 黒船来航というより、アメリカ大陸が空から降ってきた、と言った方がいい。


 川瀬の命ですぐさま連絡を取ると、御手洗は二つ返事で、校門の前にあらわれた。送迎役の俺が、来賓者用玄関から、自分たちの教室へ案内する。


「くれぐれも、良識ある行動をしろよ。舞台上でタバコを吸ったりするなよ」

「あれは未遂だったって言ってるだろ」


 廊下を歩きながら、懇々と言い聞かせる。茶髪でピアスというだけで目立つが、ツラもいいので、余計に衆目を集める。


「校舎の窓ガラスを割ったりするなよ」

「俺って信用ないのな」

「日頃の行いのせいだ」

「それで俺は王子様役だっけ」

「違う、舞台の端でピアノを弾いてほしいだけだ」

「ピアノ役やりたいんだけど」

「……いいからピアノだけ弾いてろお前は」


 俺たちの教室へ到着した。ツラがいいので、御手洗に対する黄色い歓声が飛び交う。部外者ではあるが、細かいことはどうでもいいらしい。


「あなたが御手洗君?」


 川瀬が俺たちのもとにやって来て、微笑みかける。


 ピアノ演出について、御手洗に説明をはじめた。


「あれ、水瀬さんは?」

「水瀬は別室で着替えてる」


 音楽室に移動し、腕前披露となった。水瀬と川瀬はいいとして、なぜかギャラリーまで一緒に移動した。


『エリーゼのために』を御手洗が演奏した。また、黄色い歓声が飛び交う。


 演奏が終わり、川瀬が御手洗にまた声をかける。


「ありがとう、本番もお願いできる?」

「もちろん、任せてくれ」

「私も今から着替えてくるね」


 そう言い残すと、川瀬が音楽室を出ていった。



 ♢♢♢♢♢



 ギャラリーに囲まれながら、教室へ移動する。水瀬のファンクラブの面々が廊下に集まっていた。ドレスの試着を終えた水瀬がその中心にいた。


「どう? 見惚れてる?」

「見惚れるか」

「私きれい?」

「口裂け女みたいに言うな」

「言ってない」


 ピンクのドレスを着た水瀬がぷいと、そっぽを向く。


「今のは素直に褒めてほしかったんだよ」


 王子様のかっこうをした川瀬が背後からあらわれ、俺に耳打ちをした。


「平井君も電柱の試着しようか」


 川瀬の先導で、段ボールで作った電柱を大道具班から受け取り、頭に装着した。もう少しで天井につきそうだ。頭が重い。


「というか、よく考えたら、どうして異世界に電柱が出てくるんだ」

「正確には魔物が白骨したものなんだけど、通称で電柱って呼んでる」

「……魔物が白骨したものなのかよ」

「そういえば、これ。平井君にも一応台本渡しておくね」


 水瀬の読み合わせに付き合ってるから、台本は嫌という程読み込んでいるが、素直に受け取った。なぜか、三冊も手渡される。


「どうして三冊あるんだ?」

「一冊は平井君の分。もう一冊は御手洗君の分。最後の一冊は頭に乗せる用」

「頭に乗せる用ってなんだよ」

「電柱なのに猫背っておかしいよね」


 腰痛持ちの俺に川瀬が言う。たしかに、本を頭に乗せて生活すると、落とさないように腰を伸ばすから猫背の矯正に効果的だと聞いたことがある。


「本番までに直してね」


 先に文化祭の準備を切り上げ、御手洗と水瀬の合流を待つ。電柱は外したが、頭に台本を乗せたままだった。


 水瀬が合流すると怪訝な目で俺を見る。


「何やってるの、平井君」

「猫背強制のために」

「なんだ、台本を覚えられないから、頭に直接こすりつけてるのかと思った」

「……」


 女生徒に囲まれていた御手洗が、最後に合流する。しばらく歩き進めて、俺は気になったことを口に出した。


「ところで、お前たち当然のように俺についてくるけど、どういうつもりだ」


 すると、水瀬と御手洗の声が揃った。


「家に行くためだけど?」

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