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10/13

役作り10

「ねぇ、水瀬さんと平井君って何かあった?」

 

 朝登校すると、廊下で川瀬にそんなことを言われた。まさか昨日一緒のベッドで寝たとは口が裂けても言えない。


 それに、ちょうど隣には水瀬もいる。担任から頼まれたプリントを教室まで運ぼうとしていたところを、俺が手伝っていた。


「な、なんで、そんなことを聞くんだよ」

「いや、いつもより距離が近くない?」


 たしかに、水瀬ともう少しで肩が触れそうだった。無意識だったが。


「……」


 一応、水瀬にはファンクラブなるものが存在して、俺の身の危険にも直結するのだ。


「いつも、こんなもんだよ」


 水瀬が無表情で俺から離れていく。

 

「そうだ、今日も文化祭の準備も頑張ろうね、水瀬さんと平井君は別々になると思うけど」

「……それが何か?」

「いや、別に」



 ♢♢♢♢♢



 放課後になり、文化祭の準備を行った。


 大道具や小道具、それぞれの役割に分かれながら、段取りを進めていく。川瀬は監督役として、また準主演として、大車輪の働きを見せていた。


 教壇の辺りで、水瀬たちの練習がはじまる。台本を持って、通しの稽古をしていた。電柱の俺はその輪に入らず、大道具班と一緒に後ろで段ボールを切っていた。


 そういう日がしばらく続いた。当然、水瀬と会う時間も減少していく。あれから俺の家に泊まることもなかった。


 唯一、下校だけは一緒だ。


「疲れてないか、水瀬」


 ある日の下校中、俺は水瀬にそう訊ねた。


「私は大丈夫。それよりも川瀬さんが心配」

「まぁ、あいつなら多分大丈夫だろ」


 無責任にも、そう返す。


「劇の主役とか撮影とか、人がいる前で演技するのは緊張しないのか」

「別に緊張しないけど。みんなドリアンだと思えばいいの」

「なんで臭気があるものに見立てるんだよ」


 かぼちゃとかでいいはずだ。


「最近、私のことをよく詮索してるわね」

「……質問してるだけだろうが」

「私のことを丸裸にしたいのかしら、えっち」

「お前が元気そうでよかったよ」


 何となく一緒の時間が増えて、錯覚していたが、これが本来の距離感なのだ。それに、もし俺が警察・・と話しているところに、水瀬が偶然通りかからなかったら、出会うこともなかったのだろう。


「あれ、水瀬瑞菜?」


 不意に、道端で声をかけられた。

 水瀬が女優だから声をかけられた、というわけではなさそうだ。


 黒髪で制服を着た同い年くらいの少女だった。髪にヘアピンをしていて、額を出している。おしとやかな印象だ。


「偶然だね、こんなところで会うなんて」

「ええ、久し振り」

「中学以来だよね」


 水瀬は少し表情を落としながら言った。多分、水瀬の中学時代の同級生だろう。


「こっちではうまくやってるの?」

「なんのことかしら……」

「ううん、元気そうならいいの」


 そう微笑んで、水瀬の同級生は俺たちの横を通り過ぎようとした。水瀬は先に歩き出している。


 すれ違いざま、水瀬の同級生が俺に耳打ちをした。


「水瀬瑞菜には気を付けた方がいいよ。あの子、嘘つきだから」


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