嶺の上 流るる水は 分たれず 開く花見る 三国は千代に
時は三国の終盤。ある島国で、ある女性の巫女が、大陸の巨星が堕ちるのを感知したところから、物語がはじまります。そしてその嶺上に、花は開きます。
二三四年 東の島
このクニは、海を渡った大国と比すと、数百年ほど遅れをとっておる。男どもの、それを知ろうとしない愚かしさよ。しかしそれこそが、かえって妾ら星読みの巫女が重宝がられる、その理由の一つであるというのがなんとも皮肉じゃ。
妾の天命もそれほど長うはなく、後継もまだ少々心許ない。一度は男どもの争いを止められまいが、クニの疲弊は避けたきもの。如何すべきか。
さて、日課の星読みじゃ。
……おお、ついにあの巨星が堕つか。願わくはかの労者に、しばし安らかな眠りを。
では、かの三国の行く末はいかがであろうか。地に棒を立てるという簡易なものではあるが、そう捨てたものではない。地脈、風の流れ、そして妾自身の深層の念が、かような簡単な占いにも詰まっておる。
……
…
…
むむ、なかなか倒れぬのう……如何したのか……
「ミコさま、星読みの次は占いでございますか?」
「トヨか。この部屋の掃除はもう少し待っておくれ。この棒、今日に限ってなかなか倒れぬのじゃ」
「へぇ……いかなる行く末を示すものにて……
うーん……ん?
むむむ、お、おお……」
ん、トヨめ、掃除を待てとは申したが、ほうきで遊び始めるとはなんたること……少しずつ分別もついてきて、男どもと比せばすでに知識は一人前。
しかしこのガキらしさが無くなれば、妾の後継としてもどうにかやっていけるじゃろうに……
「これトヨ! ほうきで遊ぶとは何事じゃ! 手の上に立てて秤を保つなど、どこでそんなものを……」
む、まさかこの棒をみて、この小娘はかような、はしたなき遊びを思いつきよったのか……
手の上で秤を、のう……
三国の秤……
……
!!!
「トヨ、そのほうきをしまって、奥へくるのじゃ。占いもしまいじゃ!」
「ええ、またお叱りでございますか!? それなら奥は行かずとも……あっ!」バザッ
「叱りは後で良い。ぬしに大事なことを教えねばならぬ。少し長くなるから、落としたほうきを片付けて、湯とつまむものを用意しておけ。瓜があったかの」
「わかりました。お待ちください。ただちに」
――――
トヨの賢しさは、大きな見どころではあるのじゃ。あの娘ももう数年経って、落ち着きが見えてくれば、立派に妾の後継も務まろう。
しかし先ほどの占い、不思議なこともあるものじゃ。あれほどの均衡が保たれることは、自然にはそうそう起こるものではない。小娘の手の上であれば別じゃがの。
不思議といえば、何年か前の占いにおいても、少しばかり面妖な卦が出たのち、墜つべき将星が堕ちなんだことがあったのう。
あの日も、トヨが大事な器を落として割ったんじゃったか。もうしばらく時がかかりそうゆえ、思い出してみるかのう……
――――――――――
六年前 大陸 祁山と呼ばれる地
魏、呉、そして蜀。三国相争う時代は長く続いておる。君や諸将の多くが代替わりし、より多くの血が流れる、衆の戦に様相が変わってきているようじゃ。
代替わり、その象徴的な一戦が始まった頃。彼の国の大軍師は、若き帝にかわって国の祭り事をなす丞相へと変わっておる。そして先ごろ、帝に『出師表』と呼ばれる、ご大層な上奏ののち、全軍を率いて魏への北伐を開始。
後に『街亭の戦い』と呼ばれる戦の、明け方のこと。蜀軍は破竹の勢いで北上し、長安を見据えて祁山と呼ばれる地に本陣をしいていた。
「丞相、諸将が揃いました」
「そうですか馬謖。では軍議を始めましょう」
ここで一人の将が前に出る。百戦錬磨、この小さな島国の男など瞬く間に蹴散らされよう威容にて。
「丞相、提案が」
「魏延ですか。あなたの提案ならさぞ有益でしょう。お願いします」
「未だ魏軍は体制が整っておらず、長安を守るのもさほどの将ではないと聞きます。私が急ぎ一万ほどを率いれば、落とすことも可能かと。落とせずとも、現在こちらに向かっている魏軍の列を見出すことができましょう」
ここで丞相は、この者の策に対し、首を縦にふらなんだ。大胆な魏延と慎重な丞相の違い、二人の間のわずかな確執、補給路を含めた戦略的判断。戦に疎い妾に、その理由はわからぬ。
「……承知しました。ご判断に従います」
ここで、魏延は素直に引き下がる。全うに納得してはおらずとも、理解はできる決定ゆえか。
――しかしここで、胡蝶が舞う――
「おっと」
パリン!
「あっ、馬幼常殿、すまない」
「いえいえ、致し方なきこと。胡蝶のなした、いたずらにて。水も無駄にできませぬゆえ、替えは不要です」
そう、横におった場所の水杯を落としてしまったようなのじゃ。これを占っておったときに、同時に幼きトヨが、妾の杯をも落としてしまったゆえ、やたらと鮮明に覚えておる。
その後は、占いを中断してしもうたので、詳細を知るは少し先になったのじゃが、街亭にて軍を任された馬謖と、副官の王平。馬謖は、丞相の命に背き功を焦って、一度は山の上に陣をしいた。
――しかし渇きに悩まされたことで、その地の補水に課題があることに気づき、王平の強い進言も手伝い、丞相の命に従う山間に陣を移す。
その結果、両軍は大勝ちも大負けもせず、しばらく睨み合いののち陣を払った――
馬謖は一度、命に背かんとした事に叱りを受けたが、自らその過ちに気づきしゆえに、大きく罰せられることなく。魏延とともに引き続き、丞相の厳しくも些細抜けなき薫陶を受け続けたという。その後は、やや国力を復した蜀、損じた魏、保った呉が均衡を保ちつつ争いを続け、今に至る。
馬謖や魏延、新たに加わり、頭角を示して二人の次席まで登った姜維の三者は、常に協力して戦に明け暮れたと卦にでておる。そして彼らがかの巨星が五丈原と呼ばれる地にて堕ちるのを読んだのが、先ほどの星読みに相違ない。
――――
「ミコさま、お待たせしました」
「ああ、来たね。まずは瓜を食べると良い。妾は一つで良いのじゃ」
「もう少し食べてくれた方が安心なのですが」
「そうかい、ならもう一ついただこうかの」
「……それで、お呼びのわけとは?」
「ああ、先ほど妾が占っておったのはなんだか分かったか?」
「えと、その前の星読みでは、巨星が一人おちたのでしたか。巨星というと、ミコさまはまだお隠れはこまるので、大陸しかありませんね」
「なんという言い草じゃ。まあ悪い気はせんの。それに巨星もあっておる」
「ええと、だとするとその大陸の、三国? の、行く末でしたか?」
「やはりそのあたりの賢しさは、そこそこついてきておるの。では、卦のありようはどう見た?」
「むむむ……早々と定まらず、でしょうか? それも、普通ではない秤の平らかさ、にて」
「その通りじゃ。長きに渡って統一されていた、漢、というまとまりが崩れてのち、多くの雄の争いはおおよそまとまりを見せつつあり、残ったのが魏、呉、蜀の三国。
そこまでは良いのじゃ。そこからある巨星が堕ちた。それは蜀国において欠くべからざる柱石。諸葛孔明という者。国力のやや劣る蜀の柱が折れたとあらば、三国の秤は大いに揺れ、早晩二国となり、一国となると読んでいた。万が一にも弱き側が奮起し、何かの因果で逆転を果たすことも、大陸においてままあると知るが」
「し、しかし、そのどちらでもなく、秤はどの三方にも傾くことなし、と……」
「そうじゃな。分水嶺、という言葉は知っておるか?」
「ん、んー、水を分かつ嶺、ですか……あ!
私が水をこぼせば、平らかな床でなければ、必ず水はどちらか一方に流れ行きます。そのどちら、というのを分かつのは、ある一つの線。その多くは高き嶺、ということでしょうか?」
「水はこぼすでないぞ。じゃが正解じゃ。巨星が堕ちた。それは本来、いずれかに秤が傾くことが必定である、すなわち分水嶺であるはずなのじゃ。が、こたびはそうではなく、水は嶺の上に止まり、そこを流れ続けておる」
「秤は斜めならず、水は嶺上を流れる、ですか……」
「ああ、なかなか美しきまとめじゃの」
「おそれおおい。もう一つ瓜をいただきます」
「おお、食え食え。
……そして、妾が呼んだのはそのもう一つ先なのじゃ」
「……(ゴクン)先、ですか?」
「うむ。それも、ヌシがはしたなくも、あの卦を真似たのか、ほうきを手の上でもて遊び始めたのを見たゆえぞ」
「え、ええ? お叱りは後、と」
「ああ、それはあとじゃ。さにあらず。
……あの卦の秤が、三国の揺らぎとして、それがヌシ手の上であったとしたら、それは何を模すものぞ?」
「え、えと……んん? 手の上であやつ……ああっ!
三国の秤を、その手のひらの上で保つなど、それは神のなしようでは?」
「かかかっ、神とはの。トヨ、ヌシは神か?」
「い、いいいえ、そんな畏れ多い!」
「じゃろうの。じゃが、そなたはほうきを見ながら、その秤を、それは見事にあやつっておったぞ」
「……つ、つまり、その揺らぎをよく見定め、その傾きをよく知り、先を見据えて少しだけ動く。それだけで、その秤の平らかは手の上で保たれる、と?」
「そうじゃ。妾はそこに気付き、いそぎヌシに声をばかけた。そして、ヌシはもう、ヌシの手が、目が、頭が何をしておったか、すでに語っておる。
ならばこの小さき国の、小さき星読みの族にも、できんことはあるまいて」
「……」
「妾が、ヌシほどの年には、まだ大陸は一つの国としてまとまっておったのじゃ。そこから乱が起こり、幾人のも雄が立ちては消え、その武と知をもって争い続けた数十年。その全てを占い、覗き続けたのが妾じゃ。
そしてその秀でし者らが読みしもの、積みし研鑽もいくつも覗き、その中のいくつかの書は、大陸の使いに頼んで抱えておる。
その歴と史、さらにその知と識。それらを妾の残り少ない命をもって、できうる限り書き残し、ヌシに伝えきる。その伝えをもって、かの大陸との知の差を埋めよ」
「は、はい! その知があれば、かの三国の秤が傾きかけるたびにその手を少し動かして平らかにし、その中でも更なる知を得続ける。一国よりも二国、三国が並び立っている方が、この小さき島国にも益ありというのが、今のミコさまの識であれば、わたしに否はありません」
「まことにその通りぞ。今日から少しずつ取り掛かるのじゃ。ヌシ一人で足りねば、何人か子女をさがすのもよきぞ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
――――
こののち、大陸の東の海に浮かぶ小国は、力による争いから一歩引き、ミコさまご存命のときも、その命尽きたあとも、大陸の行く末を占い、星を読み続け、その知を蓄え続けます。
そして、海を渡った近くにある魏と呉とのやりとりを続けながら、秤の傾きに目を注ぎ続けます、じゃ。そしてある時は、かの国の品を大いに買い取りて一方を富ませ、またある時は、占いに基づいた示唆を与え、これまたある時は、新たな知識を返してその機を敏たらしめ……
そうこうするうちに、何代もの時を経て、占いと星読みは、知識と情報に基づいた統計と洞察の技へと昇華さしめ、その言の葉の力は、かの国の上職にも引けを取らぬものへと磨き上げられていきます、じゃ。
ああ、のじゃ、はの。かのミコさまを代々敬い続けるが故に、ある程度の年を重ねると、代々のミコは自然にその口ぶりを真似し始める慣わしとなっています、のじゃ。
そして、かの大陸の三国は長きに渡りその境を大きく変えることなく、外の国や民とのやり取りを続けるようになり、長き年月が流れることになるようです、じゃ。
――――
二四五年 蜀漢と魏の境
巨星が堕ちて数年。魏延、馬謖、姜維を中核とした軍の最前線では、幾度も戦さを続けておるようじゃ。しかし、その中から、誰からともなく上がってきておった。
奇しくも、国都たる成都において、丞相の後を継ぎし蒋琬、さらに次代の費禕らが見出した結論と大きな差異はみられなんだ。
「丞相が亡くなってから、戦況は厳しいとは言え、大崩れはしなくなってきていますね魏文長将軍」
「そうだな姜維。馬幼常が、無理のない守り策と、隙を着いた攻めの策を織り交ぜているからな。最近は将兵も、交代で里に帰れるようになってきてるじゃねぇか」
「然り。しかしそれは対する魏軍も同様のように見られます。それに、やはり後方から伝え聞く話によると、民の疲弊は如何ともしがたく。大きく攻め入ったところで、その戦線の維持は成り立ちえぬと」
「そうだよな……それに、昭烈帝の御代から続く、漢室再興という銘も、このところ少しずつ薄れつつある。わずかに残ったその頃の現役将すらそういう心持ちだからな」
「そろそろ頃合い、ということでしょうか……先ごろ、本家漢室が途絶えし報も誤報であったとの旨を伝え聞いてもおります」
「……でしょうな。その関連でしょうか。先ごろ、国都より先払れで、費文偉様がご到着とのことです」
その後、費禕は姜維を護衛に引き連れ、魏の国都たる洛陽におもむく。和議の使いであった。
当時の魏は、呉蜀との戦に加え、国内統治の拙きによる疲弊、北方の反乱に、司馬氏の怪しき動きと、多数の問題を抱えており、正直言うて蜀どころではなかったようじゃ。
どこぞの島国から使いに訪れ、滞在しておった男女から、洛陽の地にてその旨を些細に聞いたというその二人は、今ならば優位に和議をなせる、と勇みて、そのやたら小賢しき男女と談じた。
そうして、
・現の地にて境を定めること
・禅譲ののち山陽公として隠棲せし、漢室の裔たる子女を、今上帝の正妻として成都に迎え入れること
・蜀漢を正式に後漢の裔として認めること
などといった、やや強気な求めを全て飲ませ、無事に和議をなして成都に帰りついたようじゃ。
うむ、これはの、かの男女の片一方がこのトヨじゃから、間違いのない話じゃ。
そして、そのしばらくのち、魏文長、馬幼常、姜伯約の三人は、かの巨星が堕ちたその地にて、新たな誓いを立てたとのこと。
『我等三人、同心を以ってこの新たなる漢室を護り、たとえ天命により先に逝く者があろうとも、残る者はその志を継ぎ、一年一月一日といえども、この国を長くあらしめ、その知、その力、その身を尽くさんことを誓う。』
長きに渡り、その名を残した先代の『桃園の誓い』と並び立つかのような『五丈原の誓い』。こちらも同じように、彼の地や大陸、島国に至るまで、末代まで語り継がれることになるのじゃ。
――――――――――
六〇五年 島国 飛鳥
妾は星読みの巫女にして、女性としては初めて帝となった者。未来を読む限り、妾は推古と諡されるとのことじゃ。ややこしいゆえ、そう思っておれば良いのじゃ。そして、主に政を成すは、かの聡耳小僧、そして蘇我馬子という腹黒オヤジじゃ。
無論、巫女として、大陸の三国全てからあまねく収集し続けた知識や機略は持ち合わせておる。そして、星読みから昇華されつつある、『情報』を『統べて計る』という技が代々研ぎ澄まされつつある。ゆえにこの巫女という地位こそが、この島国の知と安寧の象徴ともなっておるのじゃ。
それゆえ、妾の前で唾を飛ばしながら、延々を重ねるオヤジと小僧の、議論の中身は手に取るようにわかっておるし、この二人も、妾の意見をそろそろ聞きたきころと見受ける。
「帝、この蜀漢より新たに渡来した、仏の教えたるは確かに深淵なるものでございます。なれど、漢の伝統にして、曹魏の何晏様らが集解なされた『論語』などに基づく儒の教えにも、やはり変わらぬ政のあるべき姿でもあるのではなきかと……」
「何を申すか小わっぱ! 民を安んじ才あるを取り立てるため、是非とも政に取り立てるべしと貴様も申していたではないか! いまさら儒に戻すなど、乱れのもとぞ!」
「やめるのじゃ二人とも! 一方に立つ物言いこそ、その両の尊き教えから遠ざかる所業であることがわからぬか! 教えというのは権の道具ではないと何度申せばわかるのじゃ!」
「ごもっとも……」
「し、しかし……」
「そなたら、特にそこの強欲オヤジ、仏典の中身はしかと読んでおるのか? 法華経、金光明経、般若心経のいずこに、我が経を用いて権を保てと書いておる? 論語や五経も然りじゃ。たしかに儒教は国の理や秩序を是とした教えじゃが、それは国権を貪る物のためではなく、あくまで民のためぞ」
「然り。先ほどの我が物言いも、やや口が過ぎたものにて。儒の教え、仏の教え、加えて八百万の教え。その全ては、相容れぬものでは決してなきものと存じます。
儒が国を導きて長幼の序を保ち、仏が民心を安んじて個の道を照らし、神々が知を与えて暮らしを豊かにせしむ。それこそが我が提じたき案にして、帝の智と、蘇我様のお力をお借りしたき議にございます」
「お、おう……なるほどのう。
確かに我も、家を保ち、世を平らかにせんと欲するがあまり、他を廃し、血を厭わぬ動きをしてきたのは違いない。その全てを否すではないが、次代にむけての貴様の施策、一度しかと考えてみたきものぞ。
しかし帝。そろそろオヤジからジジイと呼ばれかねぬ年嵩、この頭にはなかなか、多くの知が入ってこぬようになってきたかもしれぬのです。とくに、書を読む手がどうも続かぬようになってきており申す」
「カカカッ、そなたがジジイなら妾はババアかえ。まあ、その勇ある相談に免じて非礼を許す。
そうじゃの。大陸の北国が何度も帝位を奪い合うたのに対して、一系の帝朝が続く蜀漢、そしてそこと交誼が強まった天竺の両地にて、そなたの気を引く新たなものが生み出されたようじゃ。
天竺において整備された数字。とくに零という概念。それに加えて、かの丞相の代より続く、機知を重んじる伝統がかけ合わさっての。かの地の竹という植物で作られた、あらたな算木『算盤』なるものが我が手に届いておる。その使い方と合わせて、妾がそなたに教えを授けようぞ」
さよう、どうやら論語や仏典のようなお堅い教えは、いつの世も頑固どもに教え込むのは手がかかる。そこであの強欲が興味を引く、算術の教えと抱き合わせることであやつらや、今を生きる民を導くものぞ。『論語と算盤』、まことにすまぬが、千年ほどさきにその教えを生み出してしもうたのじゃ。早いことこの小島を豊かにするゆえ許せ。同じお札どうし、仲良くするが良いぞ。
――――
同じ頃 大陸
そう、三国はその境を小さく前後させつつも、その形を大きく歪ませることなく維持しておった。じゃが、三国それぞれは大きく道を分つ。
やや優位にその和をなした蜀漢は、南蛮やその先へと少しずつ交誼の手を陸路で伸ばしながら、多くの民族や文化と融合し、独自の社会を築く。
それはかつて、あまりにもその性格を異にする三者が、志を同じうした二つの誓い『桃園』『五丈原』からくる、多様性への受容。さらには、かの丞相が好んだ発明や機知の文化は、この地、この嶺上にて大きく花開いたのじゃ。
東南の国、呉は、その豊かにして穏やかな大地が民を育み、時に危難を抱えた北や西の国にも何度となく糧を送るようになっておった。そして伝統的に船の術に優れた彼らは、次々とその足を伸ばし、この頃には南越やそのさらに南の島嶼までも、そこに住まう民を安ずる手を伸ばしておる。まさに海洋と食の文化が、この嶺上に花開いたのじゃ。
海路で天竺や、その先の半島まで足を伸ばし、ほどなく生まれるであろう、回教の成り立ちにも一役買うことになるやもしれんが、それはまた別の話。
問題は北国、魏じゃ。否、もはや魏ではないの。中での政変や北の民の侵略により、何度となくその頭を変えることになった彼の地は大きく疲弊する。それは北方や西方の異族とて然り。
それがあのような結果を産むとはの。因果とはなかなかおもしろきことよ。ん? 巫女は何をしたのかって? かかかっ、鋭いの。まあお楽しみじゃ。
――――――――――
六一八年 大陸北部
北国は乱れに乱れ、その帝朝は二代と続かぬのが常であった。先代の隋朝とて、初代、二代ともに苛烈な政をなし、かような時分、新たな英雄が生まれる。本来であれば、唐、という名の朝を築き、一時は過去にない隆盛をこの中華の地にもたらす一家。李淵、そして李世民の親子。
じゃが、いささか様相が異なっておる。彼らのもとに現れし男女。小野妹子、そして村主福。まぎらわしいの。前者が男子で、後者が女子よ。少々その会話をのぞくとしよう。
親子の横には、隋を支えたのち、その衰えをみて、彼らの元に集まりし錚々たる英雄が集結しておった。尉遅敬徳、秦叔宝、魏徴、李靖、羅士信、そして花木蘭という女性。
「かの島国から足を運びし知者か。こたびはいかなる知恵を、我らに授けしや? 妹子殿? 福殿? どちらがどちらにて?」
「男の方の、妹子と申します。ややこしきは失礼を。
この場に集いし武略、政略優れし皆々様をもってしても、この荒れ果てた地を平らかに治められるのは、当代や次代。よくて百年ほどとみられます。皆々様をもってしても、でございます。
ちなみに、四百年の平かをなしたる南東の呉国、南西の蜀漢が攻め上がってこぬのは、欲なきにあらず。単に益なしと見定めしゆえとお心得あれ」
「であれば如何としましょう? 少しずつ、北方異民、否、もはや異民たる境はなくなりし、馬族との争いもその形を変え、ただ力あるものが上に立ち、力喪えば取って代わられる。そうして十を超える朝が立ち替わり、この地は荒れに荒れ」
「魏徴殿でしたな。左様。ここに集う皆々様は、当代の雄にして賢。しかし、各代にても、皆様に派遣せし巨星は常におられたことも、ご存知でありましょう。近年の楊家とて然り。
であれば、今後も同じように、優れし者は連綿とこの地に排出されましょう。ならばその答えは一つ。れし者たちが優れしままに、血をもってあい争うことなく当代の政をなさんがための仕組みを、今ここに集いし皆様でおつくりになればよろしい」
「そ、それは天朝など要らぬと仰せか!? 天命をなんと心得る?」
「やめよ士信!」
「羅殿、若き故の鋭さよ。まさにその通りにて、武具に手をかけるのはしばしお待ちくだされ。
そうですな……帝堯、帝舜、帝禹のなしたる、世の仕組みについて、どなたかご存知か?」
「「「??」」」「!!」
「木蘭、知っておるのか?」
「は、はい。私は女子。その武では男に及ばぬゆえ、書物は欠かすことなく、これまでこの、小さき頭に蓄えておりました。
堯舜、そして禹。それぞれ先代から次代に禅譲という形を定めし方々。しかし、帝堯から帝舜が、今代限りの譲りであったのに対し、帝舜から帝禹には、その形を異にしたと聞きます。
帝舜は、その次々代において必ずしも、聖賢の生まれしとは限らざることを憂い、帝禹に対しては、当面の間、世襲にて跡を継がせつつ、子の代にその政を伝えしことを説く。
そしてその子孫において、その才徳の不足が如何ともしがたくなった時に、その王朝を天に返じ、才徳満ちた者に譲り渡す。それこそが、最古の王朝たる夏王国の成り立ちにて、易姓革命の真の姿にございます」
「そ、そうか……!!
では、人の数が少なかりし古代ではそうであったが、今や、この場やそれ以外にも、才あるものは多く集うほど人は増えており、学ぶ場とてあふれておる。
なれば、武に難をもちし時は武に優れしを、政乱れし時は政に優れしを、心安きを民が望みしときは詩文や徳に優れしを、今代の統領になせば、世は連綿と連なるだけの人々が十全に集うであろう」
「まさに。して、いかにしてそれを定めんや? 力ならばこの敬徳や叔宝に叶うものなし。なれど今欲せしは力のみにあらず。政と徳をも欲さん」
「敬徳殿、ここは、皆々様が合議にて、今代に必要な統領の条件と、その候補たるを見定めましょう。
時には舌戦、時には詩戦や学戦、また時には個や衆の武を模して争わせる。そして、例えば四年ごとに、民の信を問う儀を定めるのがよろしきかと存じます。一人目は、その全てを備えし李陛下しかおりませぬが」
こうして、北方の地は、新たに唐という名の国が成り立つ。しかし、その国の形はこれまでの帝朝にあらず。国の主は、その名を大く統べる者、大統領となされ、その後、時には力、時には知恵、時には文徳をもって選出されることになるのじゃ。
世の乱れし時や、優れしものが減った時は、妙な者が立つことや、島国や南方西方から力を借りることもしばしば。なれどその乱れはひと時のものにて、数十年ののちに必ず優れしものが立つようになった、ということじゃ。
……
…
…
――――
唐国、歴代大統領の略譜
六二〇〜六三六 李世民 徳をもって世の乱れを収め、力と政にそれぞれ優れた部下と共に、末代までの制度の礎を築く
六三六〜六四〇 魏徴 政の乱れを収め、民の不安を解消する
六四〇〜六四八 李靖 武と政の均衡に勤め、唐国の国境を定め始める
六四八〜六五六 徐世勣(李勣) 武と政をもって、大統領制を北方東方西方に説いて回り、国の枠組み成立に取り込む
六五六〜六六四 玄奘 民心の乱れを抑えるため、仏の教えと、儒の教えを融合した規範を定める
六六四〜六七六 孫悟空 仏儒道の三つの教えを取り込み、多民族かつ他教の国家における、多様性の受け入れに大きな功をなす。当人の風貌や振る舞いもあってか、人間であったかすら怪しいと聞く
六七六〜六九二 武則天 政を強力に推し進めた女傑。優れた人の不足し始めたのを察知し、人財育成と試験の制度を定める
六九二〜七〇〇 狄仁傑 先代に見出されし政の至聖にして、警察制度、情報制度を制定
七〇〇〜七〇四 武則天(第二次) やや強権のみられた先代を諫めるため、師自ら再び立つ。しかしやや衰えがみられる
七〇四〜七一二 姚崇 師に代わり、政を改めて整備する。この代までの四代に、大きくその人口を伸ばす
七一二〜七二四 李隆基(玄宗) 初代の血筋から現れし雄。安定してきた政のもとで、もっぱら文化の隆盛に勤める
七二四〜七三二 孟浩然 先代の意により詩歌を整備しつつ、政もおこたらず
七三二〜七四二 楊玉環(楊貴妃) 夫の求めにより、文化隆盛に勤める。大陸各地の詩歌や書を集め、世界最大の文化会館を建造。しかしやや散財する
七四二〜七四三 李白 詩歌に偏り過ぎた人選。政に向かなすぎてすぐに交代する
七四三〜七五二 朝衡(阿倍仲麻呂) やや政の乱れに伴い、島国からテコ入れが入る
七五二〜七五三 李隆基(第二次) 国内に優れた政治家が不足するのを嘆くが、当人も衰えを隠せず交代
七五三〜七五六 安禄山 やや国が乱れ始めたので、武才を要したゆえの人選
七五六〜七五七 史思明 先代に続くも、武にかたより、人心が乱れかける
七五七〜七六六 杜甫 歴代最高の詩人の一人。偏った李白と異なり、政も無難にこなす
七六六〜七八〇 郭子儀 政を立て直しつつ、やや乱れ始めた国境を再度整える。しかし今後の人材難を予見し憂う
七八〇〜七八一 楊炎 国力増進のための税制を改革するも、不満が噴出し更迭
七八一〜七八四 顔真卿 先代が乱した人心をどうにかまとめ上げるも、志半ばで本人が体調を崩す
七八四〜七九二 人材が不足し、しばらく短命政権が続く
七九二〜八一六 太上老君(道教の神。架空) 人材不足と、人心不安定から、道教が大いに隆盛する。実際この頃、大統領が実在したかすら記録に怪しい
八一六〜八一八 柳宗元
八一八〜八二〇 韓愈
八二〇〜八二四 杜牧 上記三名、詩歌と政で、どうにか人心をおさめる
八二四〜八四四 白楽天(白居易)久しぶりの長期政権。詩歌と政の双方に優れ、未来に渡り至聖とされるが後継に恵まれず
八四四〜八六八 牛僧孺、李宗閔、李徳裕以降二十名以上の短命政権
八六八〜八七二 龐勛 上記、政界は乱れに乱れるが、それまでの貯蓄により、国そのものは大きな乱れはなく、半ば政治が娯楽の一つと化す
八七〇〜八八四 黄巣 さすがに政の乱れが周辺国に気づかれ始めたことから、武勇に優れた雄が立つ。王朝ではないため叛徒という評価はされず
八八四〜八九四 菅原道真 政の乱れが許容を超えつつあったため、島国から二度目のテコ入れが入る。ある程度回復したため帰国
八九四〜九〇四 李克用 南二国との対比が強まり、しばらくの間、強力な統率力が求められるようになる。出自や民族の垣根を大きく超えた人選が続く。
九〇四〜九一二 朱温(朱全忠) 同上
九一二〜九二六 耶律阿保機(遼太祖) 契丹族の雄
九二六〜九四六 王建(高麗太祖) 半島の雄
九四六〜九七四 趙匡胤 最大の長期政権にて、半世紀ぶりの漢族の大統領。しかし、他民族化しているため、先代二人との隔意は官民ともに全くない
九七四〜九八二 睿智蕭皇后(本名不明) 契丹族の女傑にして、次代楊業の妻となる
九八二〜九九〇 楊業 先代に担がれ、嫌々ながら就任。文武ともに優れた業績を残すが、二期ののちに耐えられず逃亡
九九〇〜九九四 耶律休哥 逃亡した先代の跡を継ぎ、無難にまとめるも逃亡
九九四〜九九九 安倍晴明 優れた為政者が二代続けて逃亡する異例の事態にテコ入れ。統計と情報学を駆使し、大統領や為政者の負担軽減にもっぱら勤める。現地にて優れた為政者を見出し帰国。
九九九〜一〇〇二 楊太郎延平 楊業の子孫。一族全て文武に優れる
一〇〇二〜一〇〇六 楊四郎延郎 同上
一〇〇六〜一〇一〇 清少納言 文化面での人材不足に伴いテコ入れ
一〇一〇〜一〇一八 楊六郎延昭 先代の薫陶を受け、兄たちよりも風流を理解する
一〇一八〜一〇二六 光源氏 完璧な才智と、不健全な私生活を有する英雄が誕生。完璧すぎて、とある島国の、歴代最高の星読みが生み出した幻影という噂がある
一〇二六〜一〇四二 李元昊 西夏の雄。砂漠地帯である西方の開拓と発展に努める
一〇四二〜一〇五四 欧陽脩 この頃から、非常に政に優れた人材が排出し、理念の食い違いからあい争いつつも、国は大きく発展する
一〇五四〜一〇七〇 王安石 同上
一〇七〇〜一〇八二 司馬光 同上。三国や周辺国の歴史を全てまとめ上げ、未来に生かすため「資治通鑑」を編纂
一〇八二〜一〇九八 蘇軾 同上。また、詩歌に優れ、国内外の文化発信、そして呉国との交流から食文化を急速に発展させる
一〇九八〜一一一〇 蔡京 政治手腕や文化興隆に優れた手腕を発揮するも、強欲さは民衆の反発を招く
一一一〇〜一一一四 宋江 民の声を一心に受けて成立。一〇八の人気閣僚とともに、互いを補い合って推し進めるが、やや財政負担が増
一一一四〜一一一五 方臘 宗教の力で民の支持を得るが、すぐに力不足が露呈
一一一五〜一一一七 宋江(二期)再度立つが、ややまとまりを欠く
一一一七〜一一一九 童貫 強い統率力で、やや乱れが見える状況をまとめ始めるも、やや強権的
一一一九〜一一二〇 宋江(三期)三十六人に厳選するも、すでに衰えが見える
一一二〇〜一一二二 童貫 (二期)民の支持を得られず
一一二二〜一一二七 完顔阿骨打(金太祖)傑出した統率力と、多民族融和で大きく支持を集めて何をまとめる。しかし全盛にて酒病に倒れる
一一二七〜一一三〇 耶律大石(西遼太祖)先代との不仲があったが最後は信頼され、見事に国を立て直す
一一三〇〜一一三五 兀朮(阿骨打の子)兄弟の力を合わせて国をさらに立て直しながら、漢族の雄の誕生を待つ
一一三五〜一一八二 岳飛 漢族最高の英雄にして、万能の為政者。医学の発展や、人心掌握術に基づき、異例の長期政権と長命をはたす。秦檜や韓世忠、梁紅玉、王重陽といった名官僚にも支えられる
一一八二〜一二二六 テムジン 以降続く
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一一六八年 唐都
この年、東の島国の、とある高貴な二家が、家族を連れて唐の都を訪れます。いやなに、政府高官としての表敬訪問にかこつけし、ちょっとした物見遊山といったところ。彼の島国、そして大陸の治世はすこぶる平らかにして、波風の兆しすらございません。
一人は平清盛。妻の時子に加え、太郎重盛、三郎宗盛、徳子、そして若き俊英たる四郎知盛をつれております。
いま一人は源義朝。後妻の常盤に、太郎義平、三郎頼朝、六郎範頼、そして幼き九郎義経。
到着したのは同国大統領府。第八十二代にして、歴代最高とも謳われる、岳飛その人が自らお出迎えです。
「おうおう、久しいな清盛、義朝! 可愛い奥方に可愛い子もつれて、大所帯じゃねぇか! ささ、外はちょいと寒いし、中は中へ」
「これはこれは、まだまだご健勝ですね岳鵬挙殿」
「みずからお出ましですか。相変わらずの健脚ですね」
「ああ、最近は呉の医食の技や、蜀漢の匠に助けられて、結構年は食ってはいるがすこぶる健康だ。秦檜や韓世忠のジジイどもは引退して、王重陽も最近は弟子たちをよこし始めた。もうちょい粘ってもらいたいんだけどな」
「これはご冗談と捉えれば良いのでしょうか?」
「だろうな清盛。この親父はこういう奴よ」
「ふふふ、言うじゃねえか二人とも。今代の巫女様ってのもなかなかだってことか? その薫陶を直接得ている、ってわけか」
「あらあらお上手ですね陛下。先代の私時子や、今代のこの常盤、それぞれ夫と多くの子を設けながら努めてまいりました。なれどかの伝説の星読みのお二人には遠く及びません」
「ひとりは、だいぶ前の大統領として、あの名著を引っ提げて自ら乗り込んできたお方だよな。もう一人は、自分で乗り込むのを面倒がって、占術を駆使して理想の為政者像をこの地に映し出しやがったって噂の、あの紫様のことか。あんなのがポンポン出てこられたら、このまあるい世界は、とっくにお前らのもんだろ」
「!!? へいか、せかいはまあるいのですか?」
「われら歩いていたら、いつかおっこちてしまいます、へいか!」
「これ九郎、いきなりなにを叫ぶ!?
あ、失礼。こちら我が末子の九郎義経でございます」
「ああ、常盤殿、ごていねいに。
テムジン、いつのまにいたんだよ、母はどこに?」
「かあさまは弟に乳を与えに」
「そっか。こいつはテムジン。北の草原の生まれでな、やたらと賢くて腕も立つし、仲間の面倒見もいいから、まだちっこいけど国都の学校で学んでもらっているんだよ。
ほら、そこの九郎と遊んできなさい」
「九郎、そなたも皆と仲良くね」
「はい!」「はーい!」
「テムジンだ。よろしく!」
「九郎です。テムジン兄、よろしくお願いします!」
……
…
…
「して岳陛下。この先、この世界はどうなっていくのでしょうか?」
「丸いのはまことですか?」
「知るかそんなもん。丸いかどうかもよくは分からん。そう言い始めているのが、とくに呉の方にいるらしいが。
今だって、なぜこの大陸が三国に分かれたまま、それぞれが困窮することなく発展を続け、もはやこの状態が元からあったかのように自然になってやがる。だがこの状態も、きっかけってのはちょっとした出来事なんだろ?
ならいつそれが形をかえ、ありようを変えるかなんて、それこそ奥方たち巫女様どころか、代々の星読みにすら定められたもんじゃぁないんだろうぜ」
「まさに諸行無常、といったところでしょうな。歴史の分水嶺、それに嶺の上に開く花のありようなど、後のものにしかわからぬもの、ですな」
「清盛、お前がいうとなんか収まりがいいような、よくわからん気分になるぞ。まあその通りだけどな」
……
…
…
その後、すっかり意気投合したテムジンと義経が、おのれは東から、おのれは西からと競い始めるのか、それを頼朝は自国で出迎え、知盛は留学先の蜀漢で伝え聞くのか。それは当代の星読みにもあずかり知らぬことです、じゃ。
――嶺の上 流るる水は 分たれず
開く花見る 三国は千代に――
そう、彼の者らの壮大な物語は、まだまだ続くのです、じゃ。
「常盤、なにしているの、そろそろいきますよ!」
「はーい時子様! 九郎、そろそろ戻っていらっしゃい!」
――完――
お読みいただきありがとうございます。
今作は、分水嶺というテーマのもと、水が嶺に分たれることなく、絶妙なバランスで進み続けたらどうなるか、と思い立って描かれたものです。
以下、表題の漢詩バージョンです。
流水は嶺上を過ぎ、三叉の秤は斜めらず。山頂の開花は穏み、三国は千年の和たり
どちらもありかも、とおもいつつ、AIにもどっちでもいいと言われつつ、日本語で書いたので和歌の形にいたしました。
途中の時代考証(ネットとAIの合わせ技)や、流れのトンデモの中でも、いくつか基準を設けてえがきました。
1. 生没年は、最後の岳飛以降をのぞき、極力いじらない(多少没年が伸びた人はいます)
2. その人の思想や信条に照らし合わせて、やらないことはやらない(蘇我馬子と聖徳太子の会話はAIチェックが入りました)
3. 明らかな急展開はせず、徐々に捻じ曲がっていくかたちをとる(最初の魏延が杯を落としたところと、トヨがほうきで遊び始めたところだけが作為)
拙作長編の設定を、微妙にオマージュして作成いたしました。そちはガッツリAIと化して現代に転生した諸葛孔明の活躍を描いています。ご興味があれば是非よろしくお願いします。
AI孔明 〜文字から再誕したみんなの軍師〜
https://ncode.syosetu.com/n0665jk/