表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

約束

 全裸で拷問されるとか、あんまりすぎる……!


 海のように青い目が、私を上から下まで見ていく。

 お湯は透明だから、全部身体が見えている。同性とはいえ、やっぱり恥ずかしい。


「あ、あの……」


「ヴィクトールから聞いているわ。捕らえられていたあの子の面倒をみてくれていたことを知られ、殴られたそうね」


 あ、痣を見てたんだ。どうやって痛めつけようか考えているのかと思ったわ。


「え? あ、はい、そうです」


「そう……」


 青い瞳が、悲し気に揺れるのがわかった。


 あっ……! 気にしてる!?


「いや! でも、いつもなのでっ!」


「いつも?」


「はい! 父は娘の私が無能力なのが許せなくて、機嫌を損ねると、ボコボコ殴ってくるんですよ。顔には利用価値があるからって、身体ばかり! えっと、だから、何が言いたいかって言うと……ヴィクトー……」


 呼び捨てはよくないか。じゃあ、小公子? えーっと……息子さんにしておくか!


「息子さんの面倒をみても、みなくても、殴られるっていうか……だから、気にしないでくださいっ!」


 ヴィクトールのお母さんを悲しませたくなくて、必死に説明する。

 どうしてかわからないけれど、この人の悲しそうな顔を見ると、私まで悲しくなる。


 推しのヴィクトールと似ているから……かな?


「……っ……そんなに……殴られるの?」


「そうなんですよ。命の危機に直面したら、能力が開花するって言うじゃないですか? だから私、失神するまで首を絞められたこともあって! あの時はもう死んじゃうかと思いましたよ。なんか考えが短絡的っていうか、必死すぎてかっこ悪いですよね。自分の娘が無能力なのがよほど応えるみたいなので、私、生きてるだけでお父様のことを苦しめてるっていうか。生きてることが仕返しみたいな?」


 場を和ませようとペラペラ喋ってみたけど、私が話すほどに暗くなっていく。ヴィクトールのお母さんどころか、レベッカまで青ざめていた。


 う……気まずい。もう、余計なことを言うのはやめよう……。


「辛い思いをしたのね」


「いえ、そんな……」


 辛かったけど、自分で辛いって言うのは、なんかちょっと、ね。


 拷問されるかと思ったけど、なんだか違うみたい。


「ご挨拶が遅れたわね。私はヴィクトールの母のヴェレナ・シュヴァルツよ。アメリア嬢、息子を助けてくれてありがとう」


「あ、いえ、そんな……」


 結果的に助けられたのは、私だしね。


 一人で逃げ出していたら、私は今頃あの男に掴まって……。


 想像したら血の気が引き、温かいお湯に浸かっているのに、震え出しそうになる。


「入浴中にごめんなさいね。外で待っているから、ゆっくり寛いで」


 外で待ってる……!? いや、寛げるわけない!


 私はある程度温まったところでお湯から上がった。

 バスローブを着せて貰って出ると、ヴィクトールのお母さんが待っていた。


「あら、早かったのね。ちゃんと温まった?」


「え、ええ、はい……あは」


 もう、温まったんだか、温まってないんだか、緊張でわからないです……!


「着替えはこれをどうぞ。娘があなたぐらいの時に着ていたものなの」


「え、いいんですか?」


「ええ、もちろんよ」


 そうだ。ヴィクトールには、姉がいた。弟もいる。


 サラリと一行で説明されていたから、挿絵には出てこなかったけど、お母さんがこんな美女だもの。絶対に綺麗よね。見てみたい。


 ちなみにお父さんは挿絵に描かれていた。超絶美しかった!


 貸して貰ったローズピンク色のドレスは、上品なフリルとリボンが良いバランスで付いている。

 同じ年頃の女の子が着ていたにしては、結構大人っぽい。


 ふむ、ヴィクトールのお姉ちゃんの趣味がわかった気がする。それにしても私、すっっごく似合ってるわ。我ながら惚れ惚れしちゃう。


「アメリアお嬢様、リーゼルお嬢様のドレスが良くお似合いですわ」


「ええ、とても似合っているわ」


「ありがとうございます」


 でも、どうしてこんなによくしてくれるの? こんな素敵なドレスまで貸してくれちゃって……。


 入浴の後は、寝かされていた部屋に戻され、お医者さんに診て貰った。ヴォルフ公爵に付けられた傷も含め、全治二週間らしい。


「アメリアお嬢様、お疲れ様でした。では、しばらくお待ちください」


「は、はあ……」


 全員出て行って、ポツンと一人残された。


 ど、どうしよう。この状態……。


 なんだか悪いようにはされないみたい?

 ううん、油断したら駄目! これから『よくも息子を酷い目に遭わしてくれたな!』って拷問される可能性だって十分ありでしょ。


 ああ、何? この真綿で首をちょっとずつ絞めつけられているような感覚は……!

 拷問するなら早く! こんな回りくどいことしないでやってよ~! 嫌! されたくないけども! あ~! もう、こんなの嫌~~~!


「うぅぅぅ~……っ」


 枕に顔を押し付けてうなっていると、扉をノックされた。


「ひゃいっ!」


 とうとう拷問!?


 身構えていると、扉を開けたのはヴィクトールだった。


「なんだ。変な返事して」


「こ、声が翻っちゃったの。何?」


「いや、特に用はないけど……全治二週間だってな。大きな異常は見られなかったようでよかった」


 あれ、心配してくれてる?


「うん、私、丈夫だから。ヴィクトールも診て貰った?」


「ああ、俺は、全治三週間だ」


「そう、かなり痛めつけられてたけど、骨は折れてなかった?」


「大丈夫だった。俺も丈夫だからな」


「よかった。そういえば、能力、開花したんだよね。おめでとう」


「それを言うなら、お前もだろ?」


「え?」


「闇の力、使ってただろ。覚えてないのか?」


「…………あっ!」


 思い出した。私、あの時、闇の力を使ってた!


「でも、一回しか使えなかったけど……」


「力が目覚めたばかりの時は、不安定らしいからな。そのうち、ちゃんと使えるようになるんじゃないか?」


「そうなんだ。……そっかぁ、私って、無能力じゃなかったんだ」


「よかったな」


「……あれ、じゃあ、私って、ヴォルフ公爵に虐待され損ってこと!? 腹立つんだけど! あいつ、私のこと、無能無能ってボコボコ殴ってきて! あいつ、八つ裂きにしてやりたい!」


「あはは、なんだそれ」


「何笑ってんのよ! 本気なんだからねっ!」


「……じゃあさ」


「ん?」


「もし、お前が最初から闇の力を使えていたとしたら、俺のことを助けたか?」


 ヴィクトールが、真っ直ぐな目でこちらを見てくる。


「は? 当たり前じゃない」


 即答した。

 原作通りだと、ヴォルフ公爵家はヴィクトールに壊滅させられるし、闇の力に目覚めていたとしても絶対に逃げ出していたし、推しのヴィクトールをそのままにしておくわけがない。

 私の答えを聞いて、ヴィクトールが目を丸くする。


「むしろ闇の力が使えてたら、もっと早く楽に逃げ出せたわね。ごめんね。タイミングが悪い時に目覚めちゃって!」


 するとヴィクトールは頬を染め、私から目を逸らした。


「……そう、か」


「うん?」


 どうして、ここで赤くなるの?


 会話が止まった。時計の針の音だけが、カチコチ聞こえる。


「あのさ、単刀直入に聞くんだけど、私ってこれから拷問されるの?」


「は?」


「私ってヴィクトールを誘拐した男の娘でしょ? これから『よくも息子を酷い目に遭わせてくれたな!』ってな感じで、拷問されるの?」


「……お前、さっきからなんだか様子がおかしいと思ってたけど、そんな風に思っていたのか。安心しろ。そんなことにはならない」


「なんでそんなこと言えるのよっ! ヴィクトールはそう思ってるかもしれないけど、あなたのお父様やお母様はそう思ってないかもしれないでしょっ!」


「お前な~……」


 ヴィクトールと言い合っていると、扉をノックされた。


「アメリアお嬢様、旦那様と奥様がいらっしゃいました。入ってもよろしいでしょうか?」


 ひぃ……っ! き、来たぁ……っ!


「ひゃ、ひゃ……ぃ……」


 何とか出した声は、虫の羽音と同じぐらいの声のボリュームだ。


「声になってないぞ。大丈夫だ。俺を信じろ」


「信じろって……」


「もし、父上と母上がお前の想像していることを言ったとしたら、俺が守る。だから俺を信じろ」


 か、かっこよ……っ!


「や、約束よ?」


「ああ、約束だ。……父上、母上、どうぞお入りください」


 ヴィクトールが返事をし、ついにシュヴァルツ公爵が入って来た。

気に入ってくださったら、評価ブックマークいただけると嬉しいです!

更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ