開花
「な……っ……ヴォルフ公爵様と同じ力……!? アメリアは、異能がないはずじゃ……っ」
言われてみたら、確かにヴォルフ公爵と同じ力だ。
私、実は異能があったの……!?
黒い靄はギリギリと男を締めあげ、男はうめき声をあげる。
た、助かった……。
「お前が……やったのか……?」
ヴィクトールに尋ねられ、私は苦笑いを浮かべる。
「わ、わかんない……」
こんなの、私が説明して欲しい。
少し先に、松明の火が見える。追っ手がこちらに気付いたようで、近付いてきているみたいだった。
「早く逃げなくちゃ……! ヴィクトール、もう少し頑張って!」
「……っ……俺のことは、気にしなくていい……一人で逃げろ……」
「気を遣ってる暇があったら、早く掴まって! 行くわよっ!」
高熱で朦朧とするヴィクトールを支え起こし、苦しむ男から少しでも距離を離そうと足を動かす。
「ぐ……っ……待て……!」
男がもがくと、身体に巻き付いていた黒い靄は砕けて消えてしまった。
ええっ! もう!?
「え、えいっ!」
どうやって異能を出したのかはわからないけれど、それっぽく手をかざして声を出してみる。
男がビクッと怯んだ。でも、私の手からは何も出る様子がない。
「ええっ!? えいっ……えいっ……!」
さっきのもう一回出て! 出てよ! ヤバいから!
必死に呼びかけても、私の手や身体から、さっきのような黒い靄が出る気配はない。
「くそ……っ……さっきのはまぐれか!? ビビらせやがって!」
私が異能を使えないことに気付いた男は、苛立った様子で私たちに手を伸ばす。
「ヴィクトール、逃げ……っ……きゃあっ!」
腕を掴まれ、ヴィクトールから引き剥がされた。松明の火が、間近に迫ってきている。
「おーい、こっちだ。こっちにアメリアとヴィクトールがいるぞー!」
男は指笛を吹き、周りに場所を知らせる。
「俺一人で楽しもうと思ったが、止めだ。今から来る奴、全員で楽しんでやる。お前ら二人とも、生まれて来たことを後悔させてやるよ」
男は下品な笑みを浮かべ、舌なめずりをする。
「この外道が!」
ヴィクトールが膝を突き、男を睨みつけた。顔は青ざめていて、冷や汗が出ている。熱がさらに上がっているのかもしれない。
「変態……っ! 離してよ……! 離せ!」
唯一自由な足を動かして、男の身体を蹴る。
「うるせぇ! 大人しくしろ!」
「…………っ!」
思いきり頭を叩かれ、瞼の裏に火花が散った。
「アメリア! 貴様……女性に手をあげるなど、それでも男か!」
あ……ヴィクトールが、初めて私の名前を呼んだ……。
「さすがシュヴァルツ公爵家の後継ぎ様だ。だが、全員相手にした後にも、そんな勇ましいことが言えるかな?」
このくそ変態……!
叩かれた場所が悪かったみたいで、意識がどんどん遠くへ行くのがわかる。
まずい……ここで気絶なんてしたら、もう絶体絶命どころじゃすまない。
寝るな、寝るな、寝るな―……!
ヴィクトールが立ち上がり、私に手を伸ばす。
「アメリア、しっかりしろ……!」
「ヴィクトール……」
自分のものじゃないみたいに重い手を持ち上げ、ヴィクトールに伸ばす。
「順番に可愛がってやるから、大人しくしてろ」
男がヴィクトールを蹴り上げようとするよりも先に、私とヴィクトールの手が触れ合った。
その時――ヴィクトールの身体から、光が溢れ出した。
え、何?
「うわ……っ!?」
あまりの眩しさに目を開けていられない。怯んだ男が手を離し、私はその場に崩れ落ちた。
ど、どうなっているの……?
うずくまったまま動けない私を、誰かが優しく抱き起してくれる。
「アメリア」
目は開けられないけど、ヴィクトールの声だ。
「アメリア、もう大丈夫だ」
「ヴィクトール……なの?」
「ああ、そうだ。あとは、俺に任せろ」
何が大丈夫なのかわからない。頭がものすごく痛い。
意識がだんだん遠くなっていく中、男たちの悲鳴が次々と聞こえた。
◆◇◆
「お母様、アメリアは……」
「まだ、目覚めていないわ」
「もう、三日か……」
ヴィクトールと、優しい女の人の声が聞こえる。夢?
喉乾いた。水が飲みたい。
ぼんやり目を開けると、身なりを綺麗にしたヴィクトールと女神みたいに美しい女の人の姿が視界に入った。
「う……ケホッ」
話しかけようとしたら、喉がカッサカサで咳が出る。
「アメリア! 大丈夫か?」
「お水を飲んだ方がいいわ」
女神が私を抱き起こし、ヴィクトールが水をくれる。
ありがとうと言いたくても、声が出ない。女神からは薔薇のいい香りがする。
「ゆっくり飲みなさい」
私は頷き、一気に飲み干したい気持ちを抑えてゆっくり水を飲んだ。
「ありが……とう、ございます……」
ようやく声が出たけれど、声はカッサカサだった。
「頭、痛くないか?」
ヴィクトールが心配そうに尋ねてくる。
「頭? ……あっ……えっ!? 追っ手は……!?」
「もう、大丈夫だ。無事に逃げきった」
「無事に逃げ……?」
一体、どうなっているの? あの絶望的な状況で逃げきったって……というか、ここはどこ?
広い部屋に、立派な調度品が置かれ、ベッドなんて天蓋付きだ。
え、ここって、もしかして、まさか……。
「ヴィクトール……あの、ここは……どこなの?」
ヴィクトールは私から空になったグラスを受け取り、笑みを浮かべた。
「安心しろ。ここはシュヴァルツ公爵邸だ」
「え……っ」
血の気がサァッと引いた。
ヴォルフ公爵家にとって、敵の家じゃない! 安心できるわけがない――――……!
目覚めたばかりなのに、卒倒しそうになった。
私、どうなっちゃうの!? ヴィクトールみたいに、拷問されるの!?
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