ゆく年、くる年 4
「お使い? 三毛猫の大将の?」
((ちがいます。このふみを、あずかったふみをとどけるおつかいです))
見ると、片方の仔鼠の手に、折りたたんで結ばれた小さな和紙の文が握られていた。
「宵にお店で働いて、こんな夜中にもまだ働いてるの?
そんなにお金を貯めて、なにに使うの?」
あゆきの問いに、仔鼠たちは黙り込んでしまった。
みなぎはパーカーの上から、そっと仔鼠たちを撫でてやった。
「……言いたくないならそれもいいけど。
でもわたしたちはちょっとだけ心配なんだよ。
あなたたちが悪い奴らに脅されたり、たかられたりしてないか、ね」
つぶらな瞳に微笑みかける。仔鼠たちは困ったように顔を見合わせると、二匹揃ってゆっくりと話し始めた。
((わたしたち……昼の伊奈波神社の年越しのおまいりにいってみたいのです))
「昼の?」
((宵ノ岐阜城下町の年越しも、とてもにぎやかでたのしいです。
でも、昼の町の年越しの、神社の境内にならぶおみせには、いろんなおいしいものや、きれいなものがそれはたくさんあるんだってききました。
いちどでいいから、それをみにいってみたいんです……))
みなぎとあゆきは思わず顔を見合わせた。
こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ宵々の門。
それはいつでも何者にでも開かれていて、『二拍手そして一拍手、呪文を唱える』との決められた段取りを踏めば、昼の世界からも、そして宵の世界からも自由に行き来できるものだ。
「……見に行くだけならお金はいらないけど、出店で買い物がしたい。そういうこと?」
二匹揃ってこくこくと頷く。
((……このすがたでは、おみせでかいものはできないから、ひとのすがたになれるおふだをかって。
それから、宵ノ町のおかねでかいものはできないから、りょうがえをしてもらうのに、いっぱいおかねがいるんです。
みっかにいちど、たまったぶんからもっていかないといけないから、ちょっとでもがんばってはたらこうとおもって……))
「……なんか嫌な予感がするんだけどさ。
鼠ちゃんたち、その御札の代金と、それから両替の相場、聞いてもいい?」
冬の寒空の元、冷気漂う笑顔を浮かべたあゆきにちょっとたじろぎながら、仔鼠たちは揃って答えた。
((おふだがいちまい金一分…ええっとそれから……せんえんさつ?にまいとひきかえるのに金一朱だっていってました……))
みなぎとあゆきは、盛大な溜息をつきながら揃って夜空を仰ぐことになった。
世間を知らない幼い怪を誑かし、金を巻き上げようとする悪党に、憤りが吹き上がる。
きりきりと痛むこめかみを押さえながら、相棒を見遣った。
「あゆ……あゆの家、御札一枚いくらで分けてる?」
あゆきもまた、眉間にそれはそれは深いしわを寄せていた。
「姿替えの術は基本中の基本だからねえ、姿も声もカンペキに人間に化けられる上等の札でもせいぜい百文。昼の相場で七、八千円てとこだよ」
両替のほうの相場も十倍だ。ぼったくりにもほどがある。
町の治安を守る見廻隊士として、とても看過できない事態だ。
「で? 鼠ちゃんたち。
その話を持ちかけた輩は、どこのどいつなのかな?」




