ゆく年、くる年 1
宵ノ岐阜城下町にも冬がやってきた。
冷たい北風が通りを吹き抜け、店の暖簾を大きくはためかせている。
頬を刺す冷気に外套の襟を立て、足早に石畳を往く人に怪。
暖かな灯りと漏れ出る白い湯気に引き寄せられ、ついそこここの店へと立ち寄ってしまうものだ。
「大将~! お団子もう一皿!」
火鉢で暖をとる客で今日も大賑わいの和菓子屋に、あゆきの元気な声が響いた。
甘い物が大好物の相棒だ。
特にこの店の団子は絶品。
一皿めの団子と、いつもおまけに添えてくれる一串もあっという間に平らげた。
みなぎはやや呆れ顔で、お茶に手を伸ばす。
「……まだ食べるんだ」
「え? 美味しいじゃん、ここのお団子」
「美味しいけど。見廻りは?」
「城下町のお店に困りごとや騒動はないか、確かめるのもわたしたち見廻隊の立派な仕事だよ。
うん、本日も平穏大繁盛。結構結構」
あゆきは満足げにお茶を飲み干す。
この相棒は毎度手を変え品を変え、よくサボりの言い訳が思いつくものだ。
みなぎは湯飲みを盆に戻すと、軽く溜息をついた。
((よいしょ よいしょ よいしょ))
「……?」
店内の騒がしい客の談笑に紛れ、常人では聞き取れないほどのかすかな声がする。
いや、人の声に聞こえているだけで、実際はなにかが「ちちちっ」と、か細く鳴く声だ。
いぶかしげに、声のする方に目を遣ったみなぎは、そこにやってきたものたちの姿を認めて思わず硬直することになった。
和菓子屋の三和土の床を、団子の乗った皿と、ふたつの黒茶色の毛玉がやってくる。
ときどきよろけて皿を傾け、縁台と、人や怪の足のあいだを危なっかしくすり抜けて。
やがてみなぎたちの縁台の前で歩を止めた毛玉たちは、お団子の三本乗った小皿を高く掲げてみせた。
((おまたせしました!))
きゅい、と、甲高い鳴き声がふたつ重なる。
くりくりの大きな黒い目が四つ、みなぎとあゆきを見上げている。
団子の皿を運んできてくれたのは、まとめて片手のひらに収まりそうな、二匹の仔鼠の怪だった。
「わ~可愛い~っ!
鼠ちゃんたち、前はいなかったよね?」
ややのけぞったまま固まっているみなぎを差し置いて、笑顔満面のあゆきが、しゃがみ込んで仔鼠たちの手から皿を受け取った。
((はいっ! おとといの宵からここではたらかせてもらってます!))
可愛らしい声がまたも見事に重なった。
「そうなんだ、頑張ってね!
またお団子運んでくれると嬉しいな」
((はいっ! ありがとうございます! どうぞごひいきに!))
ぺこりと頭を下げる仕草も息ぴったりだ。
そして二匹はくるりと踵を返すと、行きのよたよたした足取りから一転、軽やかに店内を駆け抜け奥へと消えていった。
「いや~、可愛い子たちが入ったものだね。
これはせっせと通ってご贔屓にしないとだね!」
本来なら「なにもなくともせっせと通ってるじゃん」と即ツッコミを入れるみなぎなのだが、あまりのもふもふの破壊力に完全に打ちのめされ、まだ硬直が続いていた。
剣士たるもの常に冷静沈着、を旨とするみなぎであるが、実はもふもふに、それはそれは弱いのだ。
(何、あの可愛すぎるつやっつやのもっふもふは……! 反則でしょう……!)




