お母様はわたしが嫌い。 8歳
屋敷に戻るとすぐに侍女長がわたしの前に顔を出した。
「奥様がお呼びです」
冷たい目でわたしを睨むように言った。
「わかったわ」
わたしも無表情で答えた。
ーーーーー
ーーあー、早く料理長の美味しいご飯を食べたい。あとでこっそりと厨房へ行こう。
わたしはお母様が延々と説教をするのを聞きながら頭の中では料理長の優しい顔と美味しい料理のことだけを考えていた。
「カトリーヌ!ちゃんと聞いているの?」
お母様は腹が立ったのか近くにあった物差しでわたしの腕を叩いた。
「いたっ」
思わず声が出てしまった。
「大袈裟だわ」
「すみません」
「ふー、もういいわ。反省するまで部屋から出てはいけないわ、わかった?」
「はい」
お母様はわたしが王宮で受けた体罰やあざのことも、ここの家庭教師に鞭でお尻を叩かれていることも知らない。知っているのはわたしが生意気な態度をとって陛下に婚約解消をお願いしたことだけ。
侍女長がお母様にそう伝えたのだ。
お母様は侍女長にわたしのことを任せている。だからわたしのことを見ようとしない。いつも侍女長からわたしの生活態度を聞いてわたしが悪いと決めつけている。
そう全てわたしが悪いことになっている。
理由は……たぶんお父様のこと。
お父様がこの屋敷から出て行ったのはわたしのせい。だからお父様を子供の時から可愛がっている侍女長はわたしのことが大っ嫌いなのだ。そしてお母様もわたしを恨んでいるのだと思う。
2年前までお父様もこの屋敷に住んでいた。
でも、わたしはたまたま夜中喉が渇いて寝ぼけて開けてはいけない部屋を開けてしまった。
そして、部屋の中を見て大きな声で叫んでしまった。
「きゃー!」
驚いた屋敷の人達が起きてきて部屋の中を覗くと……
お父様が侍女のメリルと抱き合っていた。
そうお父様が浮気をしているところに出くわしてしまった。それもわたしの叫び声のせいでみんながその姿を見てしまった。
お父様は婿養子でジャルマは侍女としてお父様についてきた専属の侍女だった。
ここでは実力から侍女長に選ばれてこの屋敷で働いていた。
お父様はこの屋敷にいることができず、領地へと飛ばされた。
領地と言っても辺境地で山ばかりの中で寂しく暮らしている。
もちろん浮気をした侍女は解雇された。
侍女長はお父様について行きたいと言ったけどお母様はそれを許さなかった。
お父様が甘えては反省の意味がないとのことで。
侍女長は敬愛するお父様から離されて、その怒りを全てわたしにぶつけている。
食事抜きは当たり前、態と厳しい家庭教師をつけて体罰を推進している。
お母様は知らないのか知っていても気づかないふりをしているのか、わたしのことに興味すらない。
お母様はセシルお姉様さえいればいいのだ。
わたしの体にアザがあろうと熱が出ようと興味すらない。
だからどんなに体調が悪くてもお医者様が私を診てくれることはない。
殿下が下さった傷薬はだから本当はとても嬉しかった。
この屋敷でわたしの味方は料理長を始め料理人と数人の侍女、それから護衛騎士の人達だけだ。
侍女長の顔色を見ながらこっそりと助けてくれる侍女のマーヤとミア。
部屋に戻りこっそり傷薬を塗り込んでいると
「お嬢様、大丈夫ですか?」
マーヤがこっそりとサンドイッチを持ってきてくれた。
「料理長からです」
「ありがとう、今日はもう食べられないかと思っていたの」
ーーケーキとジュースをもらったので今日はなんとか飢えは凌げるかなと思ってたけど、お腹が空いて夜中眠れないなんてことにならなくてよかった。
部屋から出たらダメって一番辛いのよね。外から鍵をかけられて出られなくなるから。
マーヤはクローゼットにこっそりとクッキーとサンドイッチを隠してくれた。
「では」と言って急いで出て行った。
見つかるとジャルマがマーヤに何をするかわからない。
わたしは「ありがとう」とお礼を言った。
食べるのは夜中まで待つことにした。
今日はとにかく部屋で大人しく過ごそう。
どうせすることもない。
仕方なく今日勉強したところを復習でもして過ごすことにした。