セリーヌ編 恐怖。
自業自得だと思っていた。
ーーそうどんなにいい子だとわかっても見て見ぬ振りをした。
なのに…………
お父様はカトリーヌ様に対して恐ろしいことをしていた。
なかなか婚約解消をしないならば力づくでさせようとした。
あの馬車の事故はお父様が御者を使ってやらせたのだ。
学園の馬車乗り場には時間になると何台もの馬車が並ぶ。
カトリーヌ様は帰宅が遅いのは有名な話。
でも一応少し早めに着いて御者は待っている。
待っている間御者同士顔見知りになり話すことも多い。カトリーヌ様のところと仲良くなるように指示された我が家の御者はカトリーヌ様の御者に「ちょっと用を足しに行きたい」と言われて馬車の様子を見ているように頼まれた。
その隙に馬車の車輪にヒビを入れたのだ。
『適当に怪我をさせろ』体に傷を負えば婚約も解消されるだろう。
お父様はまさかカトリーヌ様が大怪我をして生死の境を彷徨うとは思っていなかった。
カトリーヌ様が死ぬかもしれない、わたしは友人として悲しんでいた。いくら婚約解消されたらいいと思っていたとはいえ死んで欲しいなんて思っていなかった。わたしの中でカトリーヌ様は「憎い人」からいつの間にか「友人」へと移っていたのだ。
なのにたまたまお父様の部屋から聞こえてきたのは
「殺せとは言わなかっただろう!もしバレたら終わりだぞ」
御者に怒るお父様。
「わたしが頼んだのは怪我を負わせることだ。もし相手の御者がお前を疑えば我が家にも疑いの目がくるではないか」
「す、すみません」
御者はひたすら謝っていた……なのに
「ギィヤァァー」すごい声が聞こえてきた。
恐々とそっと覗くと真っ赤な血が床に流れていた。
「セリーヌ、見たな?お前のためだ。カトリーヌ嬢が死ねばお前が婚約者になれる。もし命が助かってもあんな酷い怪我だ。これでお前が婚約者だ。ざまあみろ、ブランゼル侯爵なんかに我がシトラー侯爵家が負けるわけがない」
血飛沫を浴びて血のついた剣を振り回して叫んでいる父の目はどこまでも濁り澱んでいた。
わたしは恐怖で口を閉ざすしかなかった。
それからのわたしはお父様の奴隷だった。
カトリーヌ様が意識を取り戻して学園に来るようになったらまた友人のように振る舞った。
心から心配しているかのように大切な友達のように。
ーーもう二度とカトリーヌ様とは友人にはなれない。
お父様に毒や薬を飲ませるように言われたけど
「もしわたしがした事がわかれば捕まってしまいます、そうなれば婚約者にすらなれません」
と言い訳をして彼女の命を狙うことは避ける事ができた。
でも諦めの悪いお父様は学園の食堂の調理をする人や貧しい生徒に高額なお金を渡して薬を盛ろうとしていた。
何人の人が捕まり自殺に追い込まれたのだろう。
わたしがそのことを知ったのはカトリーヌ様が記憶を取り戻した後だった。
お父様は狂っている。




