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婚約解消は如何ですか?    8歳

近衛騎士さんが戻って来た。


「どうぞお通りください」

ちょうど飴を食べ終わったところだったので、「ありがとうございます」と二人ににっこりと微笑んでお礼を言って通してもらった。


陛下は執務室で忙しそうに書類と睨めっこ。


「お忙しい時に申し訳ございません」


「カトリーヌ、挨拶が上手になったな、頭を上げなさい」

陛下の優しい声にわたしはニコッと笑って頭を上げた。


「わたしに話があると聞いたが何かな?」


「お願いがございます。わたしでは王太子殿下との婚約は無理があると思います。ぜひお姉様であるセシルに代えて頂けませんか?」


「ほお、何故そう思う」


「はい、お姉様はわたしが習った事は全てすぐにこなす事が出来るそうです。わたしは一度習っても家に帰り復習しないと自分のものにはなりません。そんなわたしでは資格はないと思います」


「セシルはイーサンよりも五歳も年上だ。彼女では婚約者としては難しいと思うがの?」


「そうでしょうか?ここで働いている方や家庭教師の方達はわたしでは相応しくないとお考えのようです」


「どうしてそう思うのだ?」


「わたしはこの王宮で一度も飲み物も食べる物も出してもらったことはありません。朝こちらにきて夕方までひたすら王太子妃教育を受けています。この腕を見て頂けますか?」

わたしは袖を捲り上げて隠れている腕のあざを見せた。

真っ黒になったアザがたくさん出来ていた。


「それは……」陛下がわたしの腕をじっと見た。


近くにいた護衛騎士や侍女達もわたしの腕を見て驚いていた。


「わたしには婚約者としての資格はないそうです。ですのでわたしの婚約は取り消してください。お母様にはわたしから話しても取り消してはもらえません。ですから陛下から伝えて欲しいのです」


「八歳の娘になんて事をしてるんだ!お前達このことは知っていたのか?」

陛下が周りを睨みつける。知っている人もいるはず、だってわたしに飲み物すら飲ませてくれない侍女がここにもいるから。


真っ青になって震える侍女達。


そして、家庭教師をしている婦人達がわたしの前に呼ばれた。


「陛下、この子は真面目に勉強もしようとしません、多少の体罰は仕方がないと思います」


「ほお、そうか。だから何も食べさせようとはしないのか?」


「え?」

婦人達はお互い顔を見合わせた。そしてわたしを睨み上げた。


「わ、わたしはこの子のために時間を惜しんで教えていたので休憩を取らなかっただけです」

「わ、わたしもそうです」

「わたくしもカトリーヌ様のために教えてあげたのです」


「だから毎日休みなく勉強をさせて食事も水分も摂らせなかったと言うのか」


「でもですね、この子はセシル様と違って覚えが悪いのです。セシル様なら一度教えたことは全て覚えているのにこの子は一度で覚えようとしないのです」


「それに髪の毛の色はセシル様と違ってピンク色で、はしたないですし、どう見ても真面目そうな顔ではございませんわ」


ーーはあ?はしたない?生まれつきのこの髪の色をはしたない?見た目だけでわたしを見ているの?それは産んだお母様達に言って欲しいわ!


わたしが大きな声で言い返そうとしたら口を塞がれた。

「シーっ!言い返したらだめだ」

わたしの口を塞いだのはイーサン殿下だった。


ーーもう!ここで邪魔しないで!


口をもがもがさせながらイーサン殿下を睨みつけた。


「婦人達、カトリーヌが覚えが悪いのなら僕も同じだね。僕も一回聞いただけでは覚えられないことも沢山ある。ならば僕も今度から鞭で叩かれないといけないし、食事も水分も貰うことはできないね」


家庭教師の人たちは殿下の言葉に対して真っ青になった。


「イーサン殿下はとても優秀です。カトリーヌ様とは比べものにはなりませんわ」


「そうかな?カトリーヌは数学がずば抜けて出来ているよ。それに外国語も得意だし。確か今でも3カ国は話せるはずだ。まだ八歳なのにね。ただそれらは王太子妃教育には含まれていないよね?何故なんだろう?」


ーーへえ、知ってたんだ。態とわたしの得意な教科を外して苦手な教科だけを勉強させていること。ま、でも今まで助けてくれなかったんだし、今更助けてくれても嬉しくなんてないわ。


「そそそうだったのですか?カトリーヌ様は3カ国が話せるのですか?」


家庭教師の歴史を教えてくれている婦人が初めて知ったらしく目を大きく見開いてわたしに聞いてきた。


『あなた方はわたしの見かけだけで蔑んでいたからどんなにわたしが頑張ってもわたし自身を見ようとはしなかったでしょう?叩いている時の楽しそうな顔、鏡でお見せしたかったです』


わたしは3カ国語を混ぜて家庭教師達に話した。


わたしの3カ国語を聞き取れたのはここにいる十人の中の三人だけだった。


陛下とイーサン殿下、そして外国語を教えている婦人だけ。

その婦人はわたしの顔を見て真っ青になって震えていた。


陛下は大きな溜息を吐いて「この者達を牢へ、きちんと取り調べをして報告書を」と言った。


家庭教師達は「私達は一生懸命教えたはずです」

「カトリーヌ様は殿下の婚約者に相応しくありません」

などと叫びながら騎士に連れられて去って行った。


そして陛下が侍女達の方を見ると侍女達はビクッとして青ざめていた。


「王太子の婚約者に対しての不敬、きちんと取り調べをしよう」


「ありがとうございます、ところでわたしはこれでお役御免でよろしいですよね?」

わたしがニコリと微笑むと


「カトリーヌは今のままだ。新しい侍女と家庭教師をつける。安心して王太子妃教育に励むといい」

陛下はにこりと微笑んだ。


ーーちっ、負けた。これで婚約解消できると思ったのに。せっかく痛いの我慢して鞭で打たれて損した気分。それならもっと早くに訴えるんだった。


わたしは殿下と陛下に頭を下げてさっさと執務室を後にした。




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