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家族。

【記憶を取り戻したカトリーヌ編】


食事はお母様とはしないで済むようにひたすら勉強をした。そして夜遅くに調理室へ向かい

「料理長、お腹すいた!」

と言えば


「嬢ちゃん、どうぞ」

と温かいスープとサラダ、そして焼きたてのパンとアスパラベーコンのチーズ焼きを出してくれた。


「やったあ!わたしの好きなもの!」


わたしがパクパク食べていると、調理室にいたみんながわたしを温かい目で見ていた。


「みんなどうしたの?」


「久しぶりのお嬢様の姿に感動していました」


「またこんな可愛い姿が見られるなんて嬉しいです」


そしてわたしの足元で眠っていた猫のミントも「ミィヤァー」と返事した。


わたしはいつも仕事のお邪魔をしてここでこっそりと食事をしていた。おかげで飢えなくてすんだ。


もしみんながいてくれなければわたしは痩せ細って死んでいたかも……心が折れてお母様に訴えていたかもしれない。


ーーーーー


学校の休日にお姉様がやってきた。


とても優しいお姉様。

優秀でお綺麗で今は大学を飛び級で卒業して結婚して幸せに暮らしている。


お義兄様のロイズ様は、婿養子に入り今は侯爵家を継ぐためにお姉様と共に本邸で忙しくされているらしい。

そしてなんとお父様もわたしが記憶を取り戻してから初めてこの屋敷に帰ってきた。

「仲良く暮らしている」と聞いていたのにお父様はいなかった。領地の方へ行っていたらしい。


だけど元々居なかった人だしわたしの中ではもうどうでもいい存在だった。


会えばあの気持ち悪い光景を思い出すだけだし、父親としての愛情を今更求めようとも思っていない。


「カトリーヌ、記憶が戻ったと聞いたわ、良かったわ」

お姉様はわたしをギュッと抱きしめて瞳を潤ませていた。

「ありがとうございます、ご心配をおかけいたしました」


「何を言っているの?あなたはわたしの可愛い妹なのよ?」

ーーその割には会いにきたのはひと月も経ってからだよね?


「わたしもお姉様が大好きです」

ーーとりあえず嬉しそうに笑っておくことにした。

この人に嫌われていいことはない。両親の自慢の娘なのだから、昔からわたしなんかよりお姉様が大切なんだもの。両親の機嫌を損ねるのは面倒だ。

13歳(16歳)にもなると生きる知恵がついて立ち回りは良くなったつもり。


お父様は少し戸惑っていた。

記憶を失くしたカトリーヌとは上手くやっていたのだろう。でも記憶を取り戻したわたしには上手くいっていた記憶はない。


だからなのか……「カトリーヌ?記憶が戻ってよかった…でもわたし達と過ごした時間は覚えていないのか?」


「申し訳ございません、3年間の記憶は全くありません。なのでお父様とお会いするのは#あの時__・__#以来です」


「……そ、そうか」


お父様はわたしから目線を逸らした。

婿養子のお父様、少し気が弱い、でもとても優しかった人。お母様の強い性格に押され気味で……そのせいなのか侍女と浮気をして領地で反省させられていた。


この人のせいでわたしはジャルマに酷い目に遭っていた。そのことをこの人は知っているのだろうか?


いつか聞いてみたいと思った。


今日はお母様を避けることが出来ず、家族水入らずで休日を過ごした。

わたしが幼い頃ならずっと求めていた光景だった。

でも13歳(16歳)の今のわたしの心は家族の愛なんて求めていない。


ふと思った。


わたしって16歳なのよね?


高等部なのだから屋敷を出て行ってもいいんじゃないかな?


家族なのに家族らしくもない人達と偽物の笑顔と心のない会話で楽しむふりをして過ごすよりも、出て行った方がいいのでは?


でも、料理長の作った物が食べられなくなるしマーヤやミア達と離れるのは寂しい。


そんなことを考えながら、今日は楽しくもない家族ごっこをして過ごした。







【記憶を失ったカトリーヌ編】




イーサン殿下はわたしにとても優しかった。


初めは怖い人だと思ったけど、王宮へ行くと迎えに出てくれてわたしをエスコートする。


王太子妃教育が終わると一緒にお茶の時間を作ってくれた。


「カトリーヌ、今までごめん」

最近の彼の口癖。


でもわたしは彼に酷いことをされた記憶はない。確かに初めて会った時彼は怖かった。


でもその後凄く自分の行動を後悔していることがわかった。何度も謝ってきてわたしを守ろうと動いてくれた。

わたしの噂を払拭しようと動いてくれた。

学校で今まで嫌がらせをしてきた令嬢に対してもそれぞれの親元へ警告してくれた。

そのためか目に見える嫌がらせはほとんどなくなった。


マッカーシー様やジャン様との友人関係に対しても特に嫌な顔をしない。それどころか二人といつの間にか親しくなっていた。


ジャン様の書いた本を読んでいたイーサン殿下は彼の思想がとても気に入ったらしくこれからのこの国の農業の在り方について二人でよく話をしていた。


マッカーシー様は誰とでも仲良くなれるというスキルのおかげでイーサン殿下が年上であり王太子という立場の彼の下の者として敬いながらも親しくしていた。


おかげでわたしの学校生活は最初の頃の酷い洗礼を受けた日から比べるとかなり過ごしやすくなった。


そして今日も二人でお茶をしているとふと


「カトリーヌは家族と今はどうしているんだい?」

と聞かれた。


「家族とですか?」


「うん、だって記憶がないのに彼らを家族として受け入れられるのかい?」


「わたしが「カトリーヌ」であり「家族」だと受け入れなければわたしは生きていくことが出来ません。それはあなたに対しても言えることです。あなたが「婚約者」ならばわたしはその「婚約者」として過ごすことがわたしの「今」の役目なのだと思っています」


「役目?」


「はい、カトリーヌとして生きていくために必要なことですので」

わたしはそう言ってイーサン殿下に微笑んだ。


ーーわたしはこの世界で生きるために今のこの現状を全て素直に受け入れることにしたのだ。


そこにわたしの意思はない。


流れに沿って生きるだけ。


イーサン殿下はとても悲しそうな顔をしていた。


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