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いーってしてやりたい!    8歳

「うわあ、すっごい広い!」


わたしが大きな声で周りをキョロキョロしているとジャルマが横で

「お嬢様、お静かに!」とわたしを睨む。


「だってジャルマ見て!侯爵家の庭よりもずっと広くてお花もたくさんあるのよ、なんて素敵なの」

わたしはそう言いながらサッと走ってずっと先にある薔薇園へと走った。


「お待ちください!」

ジャルマの声を無視して薔薇園に着くと薔薇のアーケードをくぐりそっと中に入った。

色鮮やかな薔薇がたくさん咲いていた。


「素敵!」

わたしが楽しそうに歩いていると後ろから護衛騎士のガイがピッタリとくっついている。


「カトリーヌ様、ジャルマさんをまきましたね?」

ニヤッと笑ってガイが言った。


「あら?違うわ、ジャルマがわたしの足について来られなかっただけよ」


うるさいジャルマと離れたくて、いつも来ている王宮で態とらしく大きな声を出してはしゃいで見せた。


「今日もまた夕食抜きをされますよ?」


「もう慣れたわ、おかげでいいダイエットになっているわ」


「意地張らずに奥様に伝えましょう」


「ここで意地を張るのをやめたらどこで張るの?」


「負けず嫌いなんだから!」


ーー確かに、お母様に泣きつけばいいのはわかってる。でももしわたしに関心のないお母様に訴えても、何もしてもらえなかったら?


その時のほうがもっと辛い。


わたしはお母様にとって必要のない子だとハッキリしてしまうのが本当は怖い。



そんなことを考えながら薔薇の花を見ていると


「おい!そこに勝手に入っているのは誰だ?」


わたしと同じ子供の声がした。振り向くとやっぱりいた。


「王太子殿下にご挨拶申し上げます。勝手に入りましたことお詫び申し上げます」


わたしの婚約者であるイーサン・シャルトー10歳、わたしの2歳年上だ。


プラチナブロンドの綺麗な髪。瞳はシルバーで10歳のくせに整った顔に大人顔負けの頭脳。


なんだかお姉様を思い起こすので気に入らない奴。


「カトリーヌ、ここは許可がない者は入れない場所だ、出ていけ」


「申し訳ございません殿下。すぐに出て行きますわ」


ーー陛下には庭園に入る許可はいただいている。だけどコイツと話したくもないし言い訳なんてしたくない。だから頭だけ下げてさっさと出て行こうとした。


「おい、ちょっと待て!」


「まだ何か?」

淡々と答えると


「今日は何をしにきたんだ?」


「王太子妃教育が始まりましたので、お勉強に来ました」


「ふうん、なのに逃げたのか?」


「違います、ここにお花があったからお花を見にきただけです」

わたしはツンとしたまま庭園を出て行った。


「……あ、お、おい」

後ろから聞こえる声小さな声。

もう振り返ることすらしなかった。



ーーーーー


「カトリーヌ様姿勢が悪いです」

挨拶の練習。


頭を下げる角度が悪いと怒られ、視線の向け方が悪いと怒られ、カーテシーなんて「笑わせないでください」と馬鹿にされ、これが教育?わたしを笑い物にしてみんなで虐めているんじゃないの?と思ってしまう。


歴史の勉強なんて、「はいここまで覚えて」と言われて1時間後には全て完璧に答えなければ

「セシル様ならすぐに覚えました」と言われて比べられる。

お姉様は高度な教育を受けてきたので、この王族の家庭教師と同じ人たちに習っていた。だからできて当たり前、わたしが出来ないことが不思議でならないらしい。


何かするたびに「セシル様は」という。


「だったらお姉様を殿下の婚約者にすればいいわ」

わたしは頭にきて家庭教師に言うと


「まぁ!自分が出来ないからとそんな投げやりな事を言うなんて、呆れましたわ」


「さすがピンクの髪、泣けば誰かが助けてくれると思っているのかしら?」


「わたしは泣いてなどいません。ただセシル様ならと仰るのでそれならと思ったまでです。陛下に今から皆様がセシル様がと言っていると進言して参りますわ」


わたしは自分が出来る精一杯のカーテシーをして部屋を出て行った。


「出来るわけございませんわ」

後ろで馬鹿にする言葉。


ーー見ていなさい!わたしはやると言ったらやる女なんだから!


鼻息荒くズカズカと廊下を歩いた。


「カトリーヌ様お待ちください。ここからは勝手に入ってはなりません」

近衛騎士がわたしを止めた。


「ではカトリーヌが来たと陛下にお伝えください」

わたしが告げると、仕方なく近衛騎士が一人奥へと向かった。


「カトリーヌ様、また家庭教師に色々言われたのですか?」


「いつものことですわ」

近衛騎士さん達はわたしに優しい。


「はい、どうぞ」

わたしにこそっとポケットから飴を出して渡してくれた。


「ありがとうございます」

わたしは飴を口に入れてじっと近衛騎士さんが戻ってくるのを待っていた。


「カトリーヌ様、こちらでは何も出してもらえないのでしょう?」


「仕方ありませんわ、わたしの髪の毛はピンクなのですから、隣国で噂の王子を誑かした男爵令嬢と同じ髪色だもの。使用人の方達がわたしを嫌っても仕方がないわ」


「ほんと、女達はこんな子供に対して酷い事を。何もしていないのに」


わたしの容姿があまりにも悪評で、嫌われている。特に女性限定で。

おかげで有る事無い事言われてけっこう王宮内では冷遇されている。


だったらわたしみたいなの婚約者にしなければいいのに!と思うのだけど陛下がわたしを指名した。


だから今から言いに行くのだ。


「こんな婚約、解消して欲しい」と。






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