三十七話
「しばらくここにいてよ」と俺。
「何で?」と凛火。
あまり不安を煽るような事は言いたくない。
凛火から聞いた話じゃ例の新興宗教は大きい。
何で新興宗教が女子高生を誘拐して回っているのかは知らない。
でも新興宗教が逃げた女子高生をそのままにする訳がない。
今頃、必死になって逃げた女子高生達の行方を追っている。
だから凛火が悠々と帰ろうとしたら、当然の様にもう一度誘拐するだろう。
だから俺が新興宗教を一網打尽にする。
どうやって?
フッフッフッ他力本願って言葉を知らないのかね?
取り敢えず凛火のステータスを盗み見る。
『宮本凛火』16歳
レベル1
職業:学生レベル2
適職:歌姫✕
しかし日本はレベル1の人が多いね。
レベル上げる手段がないんだろうか?
『学生レベル2』って言うのは『二年生』って意味だよね。
それより『歌姫✕』という項目が気になる。
何気なく(のつもり)聞いてみる。
「歌、得意なの?」と。
おしゃべりだった凛火が急に大人しくなる。
まだ怖がってるのかな?
「歌が得意だったのは、歌が好きだったのは過去の話。
今は上手く歌えないの・・・」
「『歌えない』ってスランプって事?」
「ううん・・・そういう意味じゃない。
どうやって説明すれば良いのかな?
人間の喉には『声帯』って二本の筋が通ってるのよ。
その二本の筋が振動、共鳴する事で声が出るの。
『歌が上手い』って言うのはその『筋の使い方が上手い』という意味でもあるのよ。
他の要素だってあるのよ?
『リズム感が良い』『音感が高い』とか。
でも『声帯の使い方が上手い』というのも大きな要素なのよ。
私は交通事故で喉の二本の筋、声帯の半分が上手く動かなくなったのよ。
声は出るようになったわ。
でも長く喋ると声が掠れてくる。
歌なんて三小節も歌えない。
歌っても綺麗な声が出ない」
凛火は自虐的に笑うと呟いた。
なるほど。
それで『歌姫』に『✕』がついているのか。
喉の機能が鈍って歌が歌えなくなった、と。
現在日本の薬ではその症状はどうにも出来ない、と。
『だったら異世界の薬』ならどうだ?
試してみる価値はあるだろう。
俺はアイテムボックスからポーションを取り出す。
薬だと言ったら凛火を警戒させてしまう。
何て言って飲んで貰おう?
「何コレ?」凛火はコップに入った黄色い液体を見る。
「えーっと、エナジードリンク・・・的な?」
まぁエナジードリンクと言い張るしかないだろう。
色的にも、ちょっと薬臭いのも、甘ったるいのも・・・冷蔵庫の中の炭酸水で割って、よりエナジードリンクっぽさを演出してみた。
勝手に冷蔵庫の中の炭酸水を使ってしまった。
ごめん、ナオミさん。
「緊張続きで喉がカラカラ。
いただくわ」とポーションの炭酸水割りを一気に飲む。
今回は楽に物事が進んで助かったけど、この娘は少し人を疑う事を覚えた方が良いと思う。
近い将来、悪い男にお持ち帰りされちゃうぞ?
・・・いや、既に誘拐されたのか。
ポーションが効いたのかどうか確認する方法が難しいな。
そうだ!
「『森のくまさん』ってどういう歌だったっけ?」
これなら歌うしかない!
「ごめんなさい。
知らないわ」
「嘘!?
誰でも知ってるでしょ『森のくまさん』!?」
「な、何でそれで貴女が責めるのよ?
貴女も知らなくて私に聞いてきたんでしょ?」
ごもっともでございます。
こうなりゃ直球で責めるしかない!
変化球は一切振らないんだ!
「凛火さんの歌が聞きたいなー(棒読み)」
「突然何よ?
イヤよ」
「少しだけで良いから!
どんな歌でも良いから!」
俺はラブホテルの前で女にお願いしているオヤジか!?
・・・まぁ、そんなオヤジは見た事ないが。
大体俺が童貞だし。
いや、元童貞?
よく考えると凄いよね。
俺は性体験する事なく、童貞を卒業してしまったんだ。
退学?除籍?
「わかったわよ、何でも良いのね。
じゃあ田畑高校の校歌の一節を歌うわよ」
「『田畑高校』?」
「私の通っている県立高校よ。
貴女みたいなお嬢様高校に通っているお嬢様は知らないかも知れないけれど」
「えー?
校歌ー?」
「『何でも良い』って貴女が言ったんじゃない!
イヤなら歌わないわよ?
元々歌いたくないんだし」
「充分でございます!
校歌万歳!」
「本当調子良いわね。
一体何なのよ?
じゃあ歌うわよ?」
『♪肥溜め拓きて学舎建てり・・・』
きっと田畑高校は肥溜めをつぶして校舎を建てたんだろう。
名前の通り、元は田畑があった場所に学校を造ったに違いない。
田畑があれば、肥料がある肥溜めがあっても不思議はない。
だが、その一節を校歌に入れるなよ。
生徒達は全校集会の度にどんな顔をしてこの校歌を歌っているんだろうか?
校歌の内容は最低だったが、凛火の歌声は正に『歌姫の奇跡』だった。
「ウソ?
歌えた?」一番驚いているのは校歌を歌った本人である凛火だ。
「貴女?
何かしたの?」と凛火。
「何もしてないよ。
俺は凛火さんの背中をそっと押しただけ」俺は大嘘をついた。
本当は騙してポーションを盛っている。
「私はもう歌えないはず・・・」
「いや、そう思い込んでいただけ」
俺は優しく諭すように言うが全ては真っ赤な嘘だ。
確かに『歌姫』には『✕』がついていた。
歌えたのは『勇気』でも『殻を破ったから』でもない。
単純に『ポーションが効いたから』だ。
なのに俺は『凛火のいくじなし!凛火は本当は歌えるのに歌わないだけなんだ!』って美談に仕立て上げようとする。
どこのクララだ。
何でそんな事をするのかって?
面倒臭いからだよ。
ただでさえ騙されやすくて、影響されやすい女の子に恩を売ったらどこまで粘着されるかわからん。
「そうなんだ・・・。
本当は私は歌えたんだ。
足りないのは勇気だったんだ・・・」噛みしめるように凛火は言う。
あー、本当にアンタ歌えなかったんだよ。
勇気があろうがなかろうが無理なモノは無理だったんだ。
心の中でそう思いながら『どこまでこの娘を騙せるかな?』という悪い俺が芽生える。
「そうだよ!
これは『銀河の妖精』と呼ばれる歌姫誕生の一幕なんだよ!」
後で思ったが『銀河の妖精』はねーだろ。
どこのシェリルだよ?
「『銀河の妖精』・・・私が・・・」凛火は雷に撃たれたようだが、凛火は『銀河の妖精』でも『超時空シンデレラ』でもない。
・・・この娘はダメだ。
早かれ遅かれ、その歌声を利用されて酷い目に遭う。
「まだ声はちゃんと出ていた時の半分も出ていないけど、きっと私は自分の『声』を取り戻すわ!」
ちょっと待て。
あのロクでもない校歌を、感動的に聴かせる『奇跡の歌声』が『半分も出ていない声』だって!?
俺はベガからちゃんとした『喉の薬』をもらって凛火に飲ませよう。
そのために一度異世界にワープしよう。
そしてケイをこちらへ連れて来よう。
何のために?
決まっているだろう。
新興宗教壊滅のためだ!




