二話
女神が生まれ変わりの器の条件を言っていた。
①容姿が良い事。
②身体能力が高い事。
③天涯孤独である事。
④意識不明である事。
⑤同じ年頃である事。
どこにも『男である事』という条件がない。
「こんな条件に当てはまる人物いるのか?」と俺は思った。
女神は『探せば必ずいる』と言っていた。
女神がようやく見つけた人物が女性だった可能性は高い。
もっと早くに気付けたはずだ。
看護士が話しかけてくる。
「何て呼べば良いの?」
当時喋れなかったし、天井を見つめる事しか出来なかった俺は軽く首を振る事しか出来なかった。
『わからない』と。
「『わからない』ってどういう事?
自分の名前がわからないの?」と看護士。
俺は軽く首肯する。
「そっかぁ。
思い出せないのかぁ。
でも焦る事ないよ。
そのうち思い出せるから。
そうだ!
ちょっとおしゃれしようか?」
おしゃれ?
意味がわからない。
よくはわからないが、看護士は俺を励まして気分転換させる気のようだ。
断るのは気が引ける。
俺は首肯する。
看護士は俺の頭をそっと持ち上げて頭の下にバスタオルを敷く。
俺の髪はある程度伸びているようだ。
いつから伸ばしっぱなしなのかはわからない。
髪の毛が梳かされる。
「ホラ綺麗になった」
看護士さんに鏡を向けられる。
そこに映っていた姿を見て愕然とする。
顔が良い、悪いじゃない。
表情の筋肉がたるみきっているんだ。
俺は認知症になったお祖母ちゃんがまるで別人のような腫れぼったい顔になったのを思い出した。
そうだ、表情がないと人はこんな顔になるのだ。
元々の顔は知らない。
全くヒゲ剃りをあてていないのに全くヒゲが生えていないし、女性であることは見ただけですぐにわかった。
それもショックだったが、鏡を向けられる前にある程度「もしかしたら女性なんじゃないかな?」とは思っていた。
寝たきりだと排泄の問題が出てくる。
『尿道カテーテル』というチューブを尿道に挿入される。
痛覚、感覚が無いわけじゃないからチューブを入れられる時の感覚で『あれ?何か変だぞ?』というのは感じる。
少し身体が動かせるようになって寝返りをうつとチューブが引っ張られる感覚になる時があった。
つまり尿道も引っ張られるワケで、本当だったら男性器が引っ張られる感覚がなければおかしい。
なのに引っ張られる感覚、痛みどころか『感触』すら存在しない。
「もしかしたら」なんて思わない方が変なのだ。
そうか、やっぱり女だったのか。
それはまぁ良い。
・・・というかしょうがない。
それよりこの身体、いつになったら日常生活を送れるのか?
そう思っていた時に俺が寝ていると思い、看護士達が小声で話しているのを聞いてしまった。
「どこまで動けるようになるかね?」
「脳死状態だと思われてたのに意識を取り戻した事が奇跡なんだから」
「身体に何の障害が残らない訳がない」
「脳に部分的な損傷はおそらく残る」
部分的にではあるけれど、絶望的な会話が聞こえてきた。
『身体能力の高い身体』といっても脳に障害があって、動かせないんじゃしょうがない。
俺はやけくそになった。
せっかくチートスキルがあっても動けないんじゃ意味ないじゃないか!
身体が動かせないのに『世界旅行』?
そんなスキルにどんな意味があるんだよ!?
この寝たきりの状態で旅行出来るのかよ!?
出来るんならやらせてみろよ!
俺は頭の中で『何処へなりとも行ってしまえ!』と強く念じた。
その日、病院から寝たきりの患者が一人、忽然と姿見を消した。