ごめんくさ~い!!
「ごめんくださーい!」
事務所に入り、声を掛けてみた。しばらく沈黙が続いた。誰もいないのかな?
「ハイ、ハーイ!只今、参るでヤンス!」
そのとき、奇妙な声が聞こえた。なんか裏声みたいな変な声である。それに口調も変わっている。どんな人なのか?
「え……狐?」
出てきたのは狐?みたいな生き物だった。ペットかな?とはいえ、二本足で立ってるし、服も着ている。ナニコレ?
「だ、誰が狐やねん!…でヤンス!」
「しゃ、しゃべった!」
なんだコレは!しゃべる狐……じゃない、犬?茶色い毛で全身が覆われているので狐みたいにも見える。どっちでもいいがとにかくしゃべるとは思えなかったモノがしゃべった!
「勇者様、この方、多分コボルトさんですよ。犬の姿をした獣人です。」
「犬ではないでヤンス!コボルトでヤンス!」
コボルト?……ああ、なんかそんなのがいるってサヨちゃんが言ってたな。猫、豚ときて、お次は犬か。アニマルパラダイスみたいになってきたな!ついでにドラゴンもいるしな。言ったら多分殺されるけど。
「まあ、とにかく、いらっしゃいでヤンス!ここにお座り下さいでヤンス!」
犬の人は俺たちにソファーに座るよう促した後、奥の方へと消えていった。何か取りに行ったのか?
「アチチ!でヤンス!」
何だ?何をしてるんだろう?次は何が出てくるのか少し不安になった。
「多分、お茶でも用意してくれてるんですよ、多分。」
エルちゃんは苦笑しながら犬の人のフォローを入れた。さすがに「アチチ!」には不安をおぼえたようだ。
「お待たせでヤンス!こちらをどうぞでヤンス!」
エルちゃんの予想通り、お茶が出てきた。なんか嗅いだ事のない匂いだ。俺の故郷のお茶とは違うタイプのようだ。言われなきゃ、わからなかったと思う。
「お気遣いありがとうございます!……これってガキッツ茶ですよね?」
「そうでヤンス!名物でヤンスよ。」
名物なのか。ありがたく頂くとしよう。……でも、ガキッツ茶?どこかで見たり、聞いたりしたことがあるような?何だっけ?
「え、えーと、あっしはこういう者でヤンス。」
犬の人は懐から小さな札の様な物を取り出し、差し出してきたので、受け取った。見てみると、「ダンジョンコーディネーター、タニシ・カワノ」と書いてあった。
「うん?お名前はタニシさん?」
「そうでヤンス。よろしくでヤンス。そちらは勇者様でヤンスか?」
額冠のおかげかな?毎度、毎度世話になる。身分証明書代わりになってくれるので便利だ。ごくまれに効果がない人もいるにはいるけど。エルちゃんとか。
「うん、その通り!俺は勇者ロア!そして、この子は……、」
「私はエレオノーラ・グランテ、エルと呼んで下さい。魔術師をやっています。」
「よろしくでヤンス!」
ん?なんか、エルちゃんのフルネームは初めて聞いたような気がするな。何というか、気品満ちあふれるいい名前だな。いいなあ!
「さっそくでヤンスが、今回はどういったご用件で?」
「ああ、実は勇者とはいえ、まだなりたてで、ダンジョンも初めてなモンで、色々教えて貰おうと思って。」
「なるほど!ダンジョンの安全教育を受けたいというコトでヤンスか!」
「?ま、まあ、そういうことで、お願いします。」
安全教育?なんか勉強しないといけないのか?またか。前からそんなんばっかりだ。初心者だからしょうがないけど。
「ちょうど良かったでヤンス!ただいま初心者割引キャンペーンを実施中でヤンスよ。」
やった!割り引いて貰えるとは!とはいっても相場はどれぐらいなのかは知らんけど。
「ちなみにお二人はアベックでヤンスか?アベック割引もあるでヤンスよ!」
な、な、な、何を言い出すのかな?ア、アベックですと?照れるなあ。そう見えるのか?
「勇者様?」
「え?え?ま、まあ、そういうことにしておきます。」
「それでは、適用するでヤンス!」
横を見るとエルちゃんは顔を真っ赤にしていた。俺も顔が熱くなってきた。ついでにドキドキしてきた。
「お二人とも顔が真っ赤でヤンスよ!うらやましいでヤンス!」