第249話 何を目指して、何を冒険するの?
『アドベンチャーズ・ギルドへようこそ!』
謎の塔の元へやってきた俺が最初に目にしたのは、その看板だった。ただ普通に羊の魔王の軍勢でも待ち受けているんだろうと思ったら、その予想を大きく裏切られる結果になった。だって、普通の人がいるんだもん。別にゴリラみたいなむさ苦しいヤツが屯しているとかそういうのじゃないのだ。老若男女様々とまではいかないが、男女共に普通に存在していた。なんこれ!
「この罠の意図は一体何なんだ?」
わけがわからない。魔王側の罠には違いないが、大抵の街で見られる、どこにでもあるような酒場とか冒険者ギルドの光景が広がっている。なぜ塔の一階が丸々街みたいになっているのかは不明だ。冒険者ギルドとはいえ、彼らが何のために集まっているのか、よくわからなかった。周囲には草原ばっかりが広がっているのに……。どこの何を冒険するというのか?
「やあ! あなたもこのとうにのぼるためにやってきたんでしょう? だったらアドベンチャーズ・ギルドでなかまをあつめなよ!」
「え? は、はあ?」
なんかやたらと陽気そうな男に話しかけられ、ギルドで仲間を募ることを薦められた。しかも、塔に登る? ここにいる連中は塔に入ることを目的としているのか? それ以前に、男の口調が気になる。やたらと芝居ががっているというか、なんか不自然な感じがした。
「やあ! あなたもこのとうにのぼるためにやってきたんでしょう? だったらアドベンチャーズ・ギルドでなかまをあつめなよ!」
何故か、男はさっきと全く同じ内容の言葉を同じ抑揚で言った。俺は目を疑った。耳を疑った。何の意図があるのか? それとも狂っているだけなのか? よくわからないが、怖くなってきたので、その場所を離れることにした。とりあえずギルドのカウンターへ向かう。
「おっ、しんいりか? いいメンツがそろってるぜ?」
ヘンな男から逃れたのはいいが、ギルドのオッサンも似たような感じがした。とはいえ、さっきよりは話し言葉のパターンはあるようだが。まるで商売偏重の飲食店の店員みたいだ。特にサンディーのオッサンが経営してそうなところの。「いらっしゃいませ」、「こちらがおすすめです」とかお決まりの台詞しか言わないようなヤツ。そんな感じがした。
「だれにする?」
いや、誰にするとか言われても困るんだが。初対面の人間を知らないのにどういう基準でえらべというのか? とにかく、そこらにいる冒険者に声をかけて、何をしようとしているのか、どんな技能を持っているのか、とかを聞いてみることにしてみた。
「私は大洋の騎士ホエール。私は海に憧れているんだ。だって、海は大きいだろう? そんな海のような包容力を持った広大なスケールをもった男に成りたんだ、私は!」
「は、はあ、そうっすか……」
なんか海みたいな青い鎧を着た騎士風の男に話しかけようとしたら、一方的に自己アピールをくらい、見事に面食らう羽目にあった。聞いてもいないことを話し、海がどれだけ偉大なのかを熱弁しつつ、自身もそうなりたいと猛アピールしてきた。なんと言うか暑苦しい。ちょっとこのテンションはシンドイな。誰も他にいなかったら加えるか?というくらいに考えておこう。
「あなたはどんな目的でここに?」
「アタイかい? 名前はアカ・シャッセ アタイは敵討ちがしたいんだ。父を暗殺し、母を謀殺し、兄を見殺しにされ、妹を不審死させられた。そしてアタイの左腕、右目、左足をも奪った! そんなアイツが憎いのさ! アイツを見つけ出し、してきたことの償いをさせてやりたい!」
暑苦しい男の次は、義手義足アイパッチ姿の女戦士だった。美人だが、そんな五体不満足な容姿が悲壮感を漂わせ、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた逞しさを漂わせている。なんか背景が重苦しいが頼りになりそうである。候補の一人にしておこう。
「へへ、旦那、この俺、パッチラーノの助けが必要かい? 俺なら面白おかしく物事を解決してやるよ。ただし分け前はたっぷり頂くけどな。地獄の沙汰も金次第って言うもんだぜ?」
「お金、そんなに持ってないんで、ハハ……。」
なんかスキンヘッドで黒い革鎧という出で立ち、しかも大股を開いた状態でしゃがみこんでいるという、なんか性格の軽そうな性格の男に旅の同行を持ちかけられた。なんか儲け話前提みたいな感じになっているし、分け前はたっぷり頂くとか、なかなかガメつい主張をしてくる。なんか、裏切られそうな感じがする。
「ああ、ダメだ。俺はもうダメだ。あの塔の上を目指せるわけがないんだ。君の力になれそうにもないから、放っといてもらっていいよ。あああ、ソード・ダン、俺はなんてダメな男なんだ。」
なんかめっちゃネガティブなヤツがおる。なんなんこいつ! ありえないくらい後ろ向きだ! なんでこんな所にいるの?ってレベルだ。でも塔の上について言及する辺り、一応目指してはいるつもりなんだろう。でも、なんかわざわざメンバーに入れるなんてことはありえないだろう。
「というわけだ。キミはこのなかから3にんだけえらんでたびをすることになる。さあ、だれをえらぶんだい?」
何が、というわけ、だ!この中から三人って、三人も選ばないといけないのかよ! 女戦士はまだマシなくらいで、他三人の男は……お近づきになりたくないんですが? 何の罰ゲームなのか? これも羊の魔王の罠の一環なんだろうか? 不可解すぎて、全てが怪しく思えてくる……。




