魔女たちのお気持ち表明……、
「次なる策を考えなくては……。」
私の心はかき乱されていた。盤石と思われた策は全て覆された。あの状況を何故覆せる?一体どうのようなことが起きれば、あのような事が起きる?
「あれが勇者の力だというの?たかが人間ごときに出来るはずが……、」
あの小娘、竜帝の娘でさえ、自らには遠く及ばない。明らかにそれ以下の矮小なる人間の勇者に阻まれた。今回だけではない。一度目はヴァル様が倒れたとき。
「次は圧倒的な力で、恐怖と絶望を与えてやらなくては。そうでなければ……。」
釣り合いが取れない。偉大なるヴァル様を奪った罪は大きい。あのお方は世界に変革をもたらすことが出来る救世主、我が父の目指した理想を実現させることが出来る!
「罪を償わせてあげるわ!絶対に!」
「アのお~、先に償うべキはアナタのほうでハ?」
今、最も聞きたくない声が聞こえてきた。声ではない。雑音もいいとこね。だいたい、今回の失敗の原因はこの男にある。
「罪?馬鹿おっしゃい!貴方の作った品は品質が良くないのではなくて?あんな不良品をつかまされた方の身にもなってほしいものだわ!」
「不良品!?ドの口がおっしゃルのですか?ワタシの研究中の資材を勝手に持ち出しタ、あなたのジゴウジトクですヨ!」
デーモン・コアの反応促進剤ブラック・ミスト。あの薬はデーモン化を促進し暗黒物質の効果を増幅する効果があったはず。でも実際にはあっさり魔王化を解除されてしまった。こんな結果に終わってしまったのは不良品だったからに違いない。
「だいたい、アレはワタシの理論どオりの結果をもたらしまシた。もちろン改良の余地はアりますが。……それヨり!一体、アナタ、アレにどれだケの時間と費用がかかったト思ってルんでス?」
もちろん、そんな事は大した問題ではないわ。全てはヴァル様のご意向に優先される。大義の前には些細なこと。
「……キいてます?さっきから上の空デすヨ!ワタシのこと、何だト思ってルんですカ?」
「ゴミ!」
「ムキー!?ひどイですネえ!」
ゴミの戯言など耳にも入らない。入れば耳が腐る。しょせんゴミはゴミよ!
「……随分と楽しそうではないか、二人とも。」
この声は忘れもしれない!そう、この声は……、
「ヴァル・ムング様!!」
反射的に彼の前に跪いた。隣のゴミからも自分と同様の行動を取る気配がする。この方の前には誰もがひれ付するのだ!
「生きておいででしたのね!」
「当然だ。私は不死身だ。私が君たちの期待を裏切るとでも思っていたのかね?」
「いいえ!決してそのようなことは!」
「フフ!わかるぞ。私の不在に葛藤しておったのだろう?そのようなことを君たちに微塵でも感じさせてしまったことは、私の失態だ。」
「おやめ下さい!ヴァル様は何も悪くございませんわ!私の策が不完全だったばかりに、ヴァル様をあのような目に遭わせてしまったのです!」
「まあ、そういうな。次につなげれば良いのだ。いずれ、結果を出せれば良い。大義、理想を成し遂げるためには寛大でなくてはいかん。」
「ハッ!おっしゃる通りでございます。」
さすがヴァル様!私のメシア、救世主様!
「君たちも目の当たりにしたようだが、勇者というものは決して侮れぬ存在であったろう?」
「ハッ!我らの理想を妨げる仇敵にございます。」
「まあ、そう言うな。物は考え様だ。先程も申したであろう?寛大になれとな。」
「寛大に……?」
そのときのヴァル様はとても穏やかな顔をしていた。しばらく会わない間に、前にも増して魅力的になられた。このお方の進歩には際限がない!
「英雄たるもの、張り合う相手がいなくては面白くない。競い合う相手がいてこその乱世だ。互いに高め合ってこそ、より強くなれるのだ。」
「はい!心洗われました。私も貴方様の力となれるよう、精進致します!」
「フフ、期待しているぞ!」
ヴァル様がご帰還なされた!やはり私にはヴァル様がいなくては。
「さっそくだが、次に向けて動き出そうではないか。」
「はい、何でも仰せつかります!」
さすが、ヴァル様!次の展望もお考えとは!
「ノウザン・ウェル。彼の町にクルセイダーズ共が何やら活動しているようだ。あの場所の地下迷宮には過去の遺産、秘宝が眠っているという。君たちも存じていることだろう。……ここはひとつ、奴らと秘宝を巡って競い合うのも、面白いとは思わんか?」
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