疲労回復、滋養強壮に!その名はパーシィモン!!
俺たちは町に帰ってきた。食事をしてから、すぐに寝た。さすがに疲れた。いろんな事がありすぎたんだ。その翌朝。
「何?変な木の実をを食べたじゃと?」
「そうなんだよ。見た目はおいしそうなオレンジ色だったんだけど、すっごい苦くてさあ。なあ、エルちゃん?」
同じものを食べたエルちゃんに同意を求める。
「ええ。あれは苦かったです。なんだか、お薬を煮詰めて凝縮したような味がしました。」
表現がうまいな。俺には思いつかない例え方だ。
「オレンジ色?苦い?……!?」
サヨちゃんはしばらく考え込み、何かに思い当たったようだ。ていうか、それだけの情報で絞り込めるの?
「それをどこで手に入れたのじゃ?」
「どこって、あの砦の下の方にある森の中だよ。」
「まさか、そんな場所に自生しておったとは!」
「?」
何かサヨちゃんは驚いている。その様子を見て、俺とエルちゃんは顔を見合わせた。あれのなにがそうさせてるんだろう?ただの苦くてまずい木の実だったのに。
「いや、待て。むしろ前人未踏の土地故に今まで知られておらんかったのではなかろうか?」
「ちょっと、ちょっと!サヨちゃん!ちゃんと説明して。話が全く見えてこないんだけど。」
「うむ、ああ、そうか!そなたらは知らんのじゃな。ならば説明して進ぜよう。」
なんだよ!えらくもったいぶるなあ。ただ、シンプルに正体が知りたいだけなのに。
「それはおそらくパーシィモンじゃ。」
「ぱーしもん?なにそれ?」
「パーシィモンじゃ!何故知らんのじゃ!常識じゃぞ!」
知らねーよ!初めて聞いたわ。そんな名前。
「エルちゃん知ってる?」
「霊薬の材料でそんなのがあったような気がします。」
「違う。そうじゃない。近いが違う。ある意味霊薬以上の霊薬じゃぞ!」
霊薬?霊薬以上?霊薬異常の間違いじゃないよね?あんなまずい物がお薬以上ってどういうこと?
「あれが薬以上の薬って、ギャグにしか聞こえないんだけど?」
「あーもう!これじゃから、素人は!あれはそのままでも効果はあるが、熟成・乾燥を経ることで至福の、極上の甘さを持つんじゃ!幻の高級食材でもあるんじゃぞ!」
「へー、そーなんだ?」
「真面目に聞けぃ!!」
また、サヨちゃんの悪い癖が出た。食べ物のことになると、ムキになる、熱くなる。このままだと下手すりゃ、また徹夜コースだ!それだけは絶対に避けたい。
「そなたらがパーシィモン以外口にしておらんかったと言うておったじゃろ?それでも倒れることなく動き回れたのは、あの実のおかげじゃ。」
「えー、うそぉ?」
「ええい、いい加減にせい!とにかく、あの実は滋養強壮の効果があるのじゃ!」
まあいいや。あれしか食べてなくても平気だったんだし、そういうことにしておこう。
「前人未踏って言ってましたけど、先に来てた人は一人いたみたいですよ?」
「え?あー、あの行き倒れのガイコツ?」
そういえば、そんなのがいたな?夜寝るとき、見張りをしてもらってたんだった。翌朝、埋葬してあげたな。
「あの人をアンデッドにするときに記憶が見えたんですけど、あの実を仙人の所まで持って帰るんだって強く思ってた見たいです。」
「何?仙人じゃと?……まさか?思わぬところで点と点が線でつながったわい!」
こんどは何よ?アレとコレがどう関係あんの?
「その行き倒れの正体は味仙人の弟子、ゲンジィー・フォレストじゃ。」
「誰だよ!もう意味わかんねー!」
そんなモブのことなんてどうでもいいよ!だいたいそんなの知って誰が得するんだよ!
「妾のグルメ仲間に味の仙人がおったじゃろう?あやつの弟子じゃ。正確には元・弟子じゃ。師の怒りを買って破門にされたんじゃ。あやつはヨリを戻すために、幻の食材を獲得しに行って行方不明になっておったのじゃ。」
破門!なんでこんなときに一番聞きたくないワードが出てくるんだ。やめて!心にブッ刺さるから!
「パーシィモンを目前にして息絶えたか……。破門の末の、非業の死。そうか、そうか。」
「勇者さま?顔色悪いですよ?」
「ちょっと、気分が……。」
「破門?なんか似たような奴を知っているような気がするのお。」
や、やめろ。これ以上いけない。トラウマを刺激するな。このままでは陸で溺死する!
(コンコンコン!)
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。誰か来た?
「失礼、邪魔をする!」
なんとエドワードだった。救世主あらわる!昨日俺が割ったはずの兜を被っている。見たところ新しい様に見えるので、予備か?同じの何個持ってんだろ?
「おお!そなたか!ということは、もうそんな時間になっておったか?」
「少し早かったかもしれん。だが、早いに越したことはない。」
「では行くか!二人とも来るがよい。」
いきなりだ。唐突すぎる。聞いてないぞ、そんなの。
「どこへ?」
「冒険者ギルドじゃ!」