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今、悪夢を斬る!!

 三皇の精神。おそらく、今の自分に必要なのは、それだと思った。長らく忘れていたけど、エルちゃんを守りたい、救いたいという気持ちが自然と思い出させた、引き寄せたような気がする。



「あとはそれをどうやって実現するかだ!」



 今、サヨちゃんはエルちゃんと戦っている。ほぼ互角に見える。サヨちゃんはあくまで回避に専念し、攻撃はあまりしていない。俺を助けたときぐらいだろう。



「このっ、このっ!トカゲ女めえっ!」



 エルちゃんは必死に攻撃していた。今まで俺たちを相手にしていたときよりも勢いがある。



「誰が蜥蜴じゃ!このたわけがっ!蜥蜴ごときと妾を一緒にするでないわ!」



 魔王が相手とはいえ、サヨちゃんは本気をだしていないみたいだ。出したら出したで大変なことになるだろうけど。でも、なにか疲れているようにも見える。あの謎の魔女と戦ったからだろうか?



「サヨちゃん、待たせてゴメン!今、戻ったぜ!」


「……!?おお!回復したか?」



 エルちゃんの攻撃を躱し、隙を見て俺の所までやってきた。やっぱり、彼女は疲労があるようだ。少し息が上がっている。こんな姿は見たことがない。……早いとこ決着を付けないと、本当に全滅してしまう。



「……して、そなたはどのような算段があるのじゃ?」


「八刃だよ。あの技を使う。」


「ということは、二段階目に挑むのじゃな?」


「ああ。」



 あの技の神髄について、サヨちゃんが独自の分析をしていた。少し俺の記憶を見ただけで「最早、魔術の領域に近い」と本人が悟ったように、解析を進めるにつれて、それが正しかったことが証明されていった。



「見えない物を斬る、それを実現したい。」



 八刃は全部で八段階あることもわかった。一段階目は壊せない物を斬る。二段階目は見えない物を斬る。これを実現できればデーモン・コアを斬ることができるはずだ。



「今はあの時と違って、一刻の猶予もないぞ?本当にできるのじゃな?」



 できるかどうかの確認をしてはいるが、その口調からは「できる」ことを確信しているみたいだ。あの時よりも追い詰められているのに、不思議と負ける気がしない。



「できる!今なら!」


「何をコソコソ話してるの?どうせ、二人で私をどうやっていじめるか、相談でもしてるんでしょ!」



 エルちゃんは俺たちの様子にイライラしているようだった。俺たち二人が仲良くしているのに嫉妬しているようにも聞こえる。



「もうそろそろ、終わりにしよう、エルちゃん。」


「終わり?……やっぱり、殺すんだ!私を!」



 エルちゃんは物凄い勢いで襲いかかってきた。本気で殺す気を感じる攻撃だ。



「三皇の精神……極意、光風霽月!」



 俺は目を閉じ、集中力を高めた。目で見ていなくても、彼女の攻撃が、殺意が手に取るようにわかる。自然と感覚で攻撃を躱す。



「なんで?なんで当たんないの?目で見てないのに!」



 彼女は闇雲に攻撃をしかけてくる。俺はそのたびに躱しつつ、精神を集中させていった。彼女は攻撃のたびに焦り、動揺が積み重なっていくのが気配でわかった。



「コレなら、躱せないでしょ!」



 どす黒い気配が彼女から発せられるのを感じた。多分、これは毒霧だ!



「破竹撃!」



 気配を斬った。感じるままに斬った。斬ったそばから、どす黒い気配が薄れていくのを感じた。



「毒霧を斬った!?嘘でしょ!?そんなのありえない!」



 集中力を高めるに従って、彼女の魂の形がわかるようになってきた。弱々しい輝きが見える。これが彼女の魂だろう。それに覆い被さり食い尽くそうとしているどす黒い闇が見えた。これがデーモン・コアか!



「行くぞ!これで、決める!」



 怯んでいるエルちゃんのところまで、間合いを詰める。この一撃で全てが終わる!



「究極奥義、霽月八刃!!」



 どす黒い闇を、デーモン・コアを切り払う。さっきの毒霧のように消え失せるだろう。ハッキリとわかる。



「い、いま、何を……!?」



 わかるはずがない。今、彼女を斬ったのではなく、デーモン・コアだけを斬ったんだ。彼女を一切傷つけることなく。



「あ、あれ?何これ?」



 そこで俺はゆっくりと目を開ける。目の前にはエルちゃんがいた。次第にデーモンの角、翼、獣毛などが黒い煙のように霧散していった。元より大分大きくなっていた体格も戻っていった。髪の色と目の色も茶色になった。もとはこの色だったのか。



「やりおった!成し遂げおった!!」



 サヨちゃんが俺の代わりに喜びの声を上げる。俺は俺で何故か落ち着いていた。普段の俺なら飛び上がりたいくらい嬉しいはずなのに。



「ぶっつけ本番でよくも見事に成功させたもんじゃのう?普段のそなたから微塵にも感じぬのにのう!」


「これは、あのときとおんなじさ。みんなの助けがなけりゃ、どうにもならなかったさ。これはみんなの勝利だ!」



 そうだ、一人じゃない。一人だけでできるわけない。あの時も同じだった。ヴァル・ムングを倒した時も。



「勇者様!」



 元の姿に戻ったエルちゃんが俺に抱きついてきた。



「もう、なんともない?怪我とか残ってない?」


「何ともありません。……それよりありがとう、勇者様!私を助けてくれて。」



 なんだか照れくさかった。こんなに人から感謝されたのは初めてかもしれない。



「口惜しいけれど、私たちの負けね。」



 突然、邪悪な気配が現れた。あの魔女か?



「勇者……。大したものね。こんな坊やが私の想像を超える働きをするだなんて。ヴァル様を倒したのは、どうやら真実のようね。」



 何?ヴァルの名前がなんで今、コイツの口から出てくるんだ。こいつはまさか……、



「そうよ。貴方の想像した通り、私は邪竜。……レギンよ!」



 何!俺の心が読まれたのか?そんなことより、コイツがレギンだったなんて!



「今回はこのまま引き下がってあげるわ。じっくりと策を練ってから、貴方達を苦しめてあげる。だって、このまま普通に殺しても、面白くないもの。」



 負け惜しみか?このまま相手をしてもいいが、みんなを守り切れるかわからない。怪我人もいるし……。



「また会いましょう。勇者。そして、竜帝のお嬢ちゃん。次に会うときは貴方たちが死ぬ時よ!覚悟しておきなさい!」



 さんざん負け惜しみを言った後、魔女レギンは姿を消した。転移魔法とかいうやつだろうか?



「妾の方こそ、次会うときは返り討ちにしてくれようぞ!」



 サヨちゃんは魔女がいた方向に向かって思い切り、アカンベエーをしていた。この中じゃダントツで年を食ってるくせに、わりと子供っぽいところがあるんだよなあ。



「勇者殿!」



 俺がサヨちゃんにあきれていたところへエドワードがやってきた。そして、右手を差し出してきていた。俺は反射的に握手で答えた。



「見事な技だった。見えぬ物を斬る事など常人には出来ることではない。」



 エドワードは俺の成し遂げたことに対して賞賛していた。その感情には嘘偽りはないようだが、その目の光には何か別の感情を感じた。



「貴公に折り入って頼みたいことがある。」


「え?何?」


「もう一度、私と戦ってはくれないか?」



 ああ、そうか。これは闘志だ!ただ、ただ純粋に強さに対する欲求!そういえば、エルちゃんをどうするかで揉めたときも、決着はうやむやになっていたんだった!



「俺は構わないよ。アンタがそれを望むなら、喜んで受けて立つぜ!」



 俺は構えた。同時にエドワードも構える。決まりだな。お互い、体が闘争を求めている!



「こらああ!!待て待て、待てえぃぃ!!!」



 二人の間にサヨちゃんが割って入ってきた!



「この馬鹿者どもが!そんな体で何をするつもりじゃあ!」



 はっと我に返った。そういえば、エドワードは怪我をしていたんだった!しかも、結構重傷のはず。



「一旦、治療に専念せい!話はそれからじゃ!」



 サヨちゃんは凄い剣幕でエドワードに薬瓶を差し出した。これを飲んで休めという事だろう。



「ウ、ウム。賢者殿の言う通りだな。休ませて頂こう。」



 エドワードは多少引き気味で薬を受け取り素直に従った。このまま推し進めても無駄だと思ったようだ。



「じゃ、じゃあ、俺もきゅうけ……い!!??」



 俺は振り返り、あるものを目にしてしまった。エルちゃんの体を!彼女は一切何も身に付けていなかったのだ!



「……!?」



 俺は両方の鼻の穴から暖かい物が流れ出るのを感じた。その直後に急に目の前が真っ暗になった。


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