第256話 傷一つ付けることなど出来ん!
「この動きの速さの中で繰り出される攻撃を貴様は躱すことが出来るか? 破壊!!」
銀色野郎は高速で動き回り、こちらが捕捉することを困難にしている。そんな状態から当たれば必殺の一撃を放てば、勝てない敵はいないだろう。だがそれはあくまで相手が三流だったときの話だ。
(バシュン!!)
「……!? 外れた? 避けたというのか! ならば連続して放つまでのこと! 破壊! 破壊! 破壊!!」
(バシュン! バシュン! バシュン!)
単発なら全力で動けば躱せるかもしれない。それを防止して確実に仕留めるなら、複数の攻撃を叩き込めばいい。躱すにしろ、防ぐにしたって相手に負荷を強いることが出来る。そんなことを続けていたらいずれは負けるだろうな。相手の魔術の特性上、こちらは非常に不利な状況って事だ。普通にやり合えば、だがな。
「馬鹿な! これもよけたというのか! たかが風属性の魔術師にそんなことが出来るはずがない!」
「さあ? どうしてだろうな? なんたって当たれば必殺の魔術を相手にするんだからな。俺も馬鹿じゃねえ。無策じゃないってことだ。」
「ムウッ!? ならば私も少し作戦を変えるとしよう! スーパー・スキャン!」
ヤツの兜、目の部分に当たる箇所にはめ込まれた魔光石の輝きが変化した。スキャンと言うからには相手や周囲を分析する能力を発動したのかもしれない。あの魔光石を通して装着者に正確な視覚情報を投影していると見た方がいいな。これは俺のトリックを見抜かれるかもしれんな。
「ムッ!? 貴様の周囲一帯の温度が高くなっている!? 私の攻撃が当たらなかったのはこのためか! 小癪な!」
「アンタの推理とやらを聞かせて貰おうか?」
「これは陽炎の原理を利用しているな? 陽炎を使って貴様自身の実像と位置をずらしているのだろう? こんな事を実行して攻撃を躱す魔術師など聞いたことがない! 大した悪知恵よ!」
「アンタも魔術師だろ? だったら、ちったぁ頭を使えよ? 何でも力押しとか頭悪いんじゃないか? 避けまくるよりも、攻撃を当てさせない方が体力・魔力を消費しなくて済むからな? 何でもかんでも、ゴリ押しが通じると思うなよ。銀バエさん?」
「クッ! 言わせておけば!」
さてと。俺もそろそろ攻撃に移るか? いつまでも相手のターンばかりじゃ、俺も飽きてしまうからな。俺のとっておきで手玉に取ってやるとするか。
「ヴォルテクス・カノン!!」
「ムッ! 風属性、最大級の魔術だな?」
(ゴォォォォォォォッ!!!!!!)
細く絞った乱気流を相手へ向かって放つ。これを喰らえば、相手は乱気流に八つ裂きにされミンチと化す。だがヤツは避けようとしていない。
「フフフ。通常ならば木っ端微塵に吹き飛ぶ事になるだろう。だが、この銀の魔骸布を甘く見ないことだ!」
乱気流が到達し、ヤツをスッポリと覆い尽くした。風力は凄まじくヤツは吹き飛ばされないよう耐えている。そう耐えているのだ。通常なら無傷では済まないはずだが、動きを制限しているだけで、傷一つ付けていなかった。
「この銀の魔骸布はあらゆる攻撃を受け付けない。刃物や鈍器、魔術による熱や冷気、それらを全て受け付けぬのだ! 風が吹いたところで、傷一つ付けることなど出来ん!」
「そうか。それはすまなかった。効きもしない攻撃は退屈だろう? 退屈しのぎにこれもどうかな?」
傷一つ付けられていなくても、動きは制限できている。効果はそれで十分だった。ヴォルテクス・カノンを片手で維持しながら、もう片方で更なる魔術の準備に取りかかる。ここからもう一つ乱気流を加えてやれば、どうなるだろうな?
「ヴォルテクス・カノン……ダブルエコー!!!」
「もう一つ増えたところで何になる! 無駄なあがきは……グウッ!?」
二つの乱気流で相手を挟み込み、相手を引き絞るように気流を操作する。想像通り、強力な相乗効果となり、ヤツは姿勢を維持することもままならなくなっていた。
「お、おのれ! こんなそよ風如きで……消し飛ばしてくれる! 破か……ぐあっ!?」
ヤツはデバイスを俺に向けようとして構えるが、姿勢を保てない上に大きく照準がぶれていた。 しまいにはデバイスを手から取り落としてしまった。俺の狙いは寸分違わずうまくいった!
「しまった! 私のエヴェリオンが!?」
「ついでにテメエもくたばりな! ダブルエコー・ツイスター!!!」
二つの乱気流で相手を上空高く巻き上げる。そのまま気流に乗せて地面に叩きつければ、ジ・エンドだ!
「こんなつまらない攻撃で!?」
「テメエは装備に頼りすぎたんだ! 魔術が効かないイコール、何も効果がないとは限らないんだぜ!」
もう少しで地面に到達する。これで問題は無いはずだった。その時、脇の方からヤツに向かって高速で接近する人影があった。まさか邪魔が入るとは!
(バシュン!!)
怪しい人影は乱気流にそのまま突入し、地面に激突する寸前で銀色野郎を救い出した。ヤツに肩を貸しながら、俺と向き合い殺意の視線を送ってきた。その姿は全身金色だった。鎧のデザインも似通っている。ややこの金色野郎の方が派手なようにも見える。
「フフ! 来てくれたか! これで我々の勝利は盤石の物になった!」
「……。」
相方とは正反対で無口なようだ。何の反応も無い。相変わらず睨み付けてくるだけだ。
「銀色に金色か。どうやら、相当に目立ちたがり屋らしいな? 」
「そうだろう? 実に華があっていいだろう?紹介しよう。彼は私のパートナーのゴルディアンだ!」
「ケッ! 大してひねりのないわかりやすいネーミングだぜ!」
相方がいるとは思わなかったぜ。事前情報にはなかったから、相棒達も知らなかったと見える。突然現れたことといい、もしかしたら急造の助っ人の可能性もある。上等だ! 一人増えたくらいで俺を易々と倒せると思うなよ!




