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第241話 禁断の奥義、“骨斬肉断”


「さあ、勇者さんよ? そろそろ敗北宣言でもしたほうがいいんじゃないか? 直前になったら、取り乱してみっともない状態でやるよりはマシになると思うぜ?」


「……。」



 トニヤが野次を飛ばしてくる。答える必要はない。それよりも凌ぐ手段を考えるんだ。被害を最小限に食い止めるには何をすればいい? 色々手段を考えたが、やはりアレしかない! “八刃”だ。剣がないとはいえ、手刀で全力を以て繰り出すしかない! それが今出来る最善の策だ。



「絶空……八刃!!」



 津波まではまだ距離があるので、衝撃波が到達するまでには時間がかかった。津波に当たり、水しぶきが弾けたものの、津波をかき消すには至らなかった。まるで焼け石に水だ。やはり手刀程度では、威力が大幅に減衰してしまうか。



「ハハッ! やっぱ無理じゃねえか! 無駄なあがきはやめて、さっさと諦めちまいな!」


「フフ、良くそんなことが言えますね? 貴方程度なら、アレの直撃を受けたら絶命するのでは? あなたは本当に人を見る目がないんですね。」


「何だと、オラァ!」


「やりますか? あなた程度ならコレで十分、八つ裂きに出来ますよ!」



 ジムは何やら物騒な物を腕から引き出した。細い鋼線の様な物を開いた腕の中から引き出していた。タニシから聞いてはいたが、あんな物を腕に仕込んでいるとは驚きだ!



「コラコラ、やめい! いい加減にしろ! 喧嘩は生き残ってからにしてくれ!」



 隙あらば喧嘩。お互い本音を出し合える状況になると、ここまで険悪な仲になるとは……。二人のことは置いといて、次の策を考えなければ。俺もジムみたいにゴーレムの体なら武器を出せるんだが、残念ながら俺は生身の人間だ。俺の体そのものを武器にする手段があればなあ……。俺の腕を剣にするとか?



「腕を剣に……か……?」



 俺は両手の平を開いたり閉じたりしながら、じっくりと考えた。そうしているうちに思い出した。梁山泊に伝わる、とある逸話を。利き腕を失ってもなお、失血で絶命するまで戦うのをやめなかった剣士の逸話だ。



「おい、ジム? その鋼線って切れ味はいいのか?」


「はい? 何故それを今聞くんですか? 切れ味はいいですよ。人体なら簡単にバラバラに出来るぐらいにね?」


「そうか。じゃあ俺を斬ってくれ。」


「……は!?」


「こりゃ傑作だ! こんなヘタレに介錯してもらおうってか? そんなことするんなら、俺におとなしく殺られてりゃ良かったのによ!」


「お前じゃダメだからジムに頼んでんだよ。なあジム、お前俺を殺すつもりだったよな? 夢を叶えてやるよ。俺の右手首だけでいいから、バッサリやってくれよ。」


「気でも狂ったんですか、あなたは!」


「いいじゃないか。今さら躊躇すんなよ? 人類滅ぼしたんだろ? 手首さえ斬りゃあ、後は勝手に死ぬんだ。それじゃ、お前の良心は痛まないんじゃないか?」



 これをやれば確実に俺は死ぬ。津波はどうにか出来ても、その後に失血で死んでしまうだろう。それ故、逸話とは語り継がれていても、梁山泊では御法度とされていた。いわゆる禁断の奥義ってヤツだ。



「僕に手柄を取らせて、恩を着せようとしてるんですか! 全く勇者とあろうものが浅ましいことを! 見損ないましたよ!」


「いいからそう言うのは! 狂ってても浅ましくても、何でもいいんだよ。それよりもちょいと斜めに斬ってくれ。なるべく鋭角気味に頼むぜ?」



 やりやすいようにジムに俺の右腕を差し出す。だが、ジムは引いてしまっている。体も心も。



「くっ!? 本当にやります! 後悔しないで下さいよ!」


(ヒュンッ!)


「ぐぬっ!?」



 俺の右手首はあっさりと切断された。以外と痛みはない。切れ味が良すぎたからかもしれない。切れ味が悪い方が余計な部分まで傷付けてしまうからなのかもしれない。



「あ、ありがとよ。これでなんとかなりそうだ。」


「利き腕を失ったのに何が出来るって言うんです!」


「いい加減諦めろよ! バカだろ! 狂った末に腕なんか斬って何が出来るって言うんだよ!」


「ハハハハ!? 愉快だな! 行き詰まった末の乱心! 無様なものだ、勇者とあろうものが!」


「何が出来るって? これで奥義が使えるようになった。その名も“骨斬肉断”!」



 かつて敵に利き腕を切り落とされ、絶体絶命の窮地に陥った剣士がいた。普通ならそこで、諦め死に至る事を選ぶだろう。その剣士はそうしなかった。切り取られた手首の断面を剣に見立てて、戦い続けたという。


 しかも、自らの手首を切り落とした相手だけに留まらず、百人もの敵を斬り殺した上でようやく事切れたという。それが“骨刃(こつじん)”と呼ばれる逸話であり、後には奥義“骨斬肉断”と呼ばれるほどにまでなった。



「笑いたきゃ笑え! でも、テメエら魔術師にここまでする覚悟があるか? 己を武器と化してまで戦い続ける覚悟はあるのか? 武術家ってのは魔力がなくなったり魔法が使えなくなったくらいで諦める魔術師とは覚悟が違うんだ! 武術家の意地を見せてやる! 勇者の覚悟を見せてやるよ!」



 全身が高揚していくのが良くわかる。あの時、大武会で宗家と戦ったときみたいに額も熱くなっている。他のヤツらから見れば、俺の額には額冠の姿が浮かび上がっているのだろう。



「見せてやるよ、ホントの奇跡! 天破、陽裂……、」



 そこで足元の自分の右手首に気が付いた。切り落とされたコレもまた、“骨刃”じゃないか! 初めての試みだが試してみる価値はある! 二刀流だ!



「八刃……双裂波!!!!」



 特大のバツの字の衝撃波が津波へと向かっていった! そこで俺は勝利を確信した。例え、自然現象であろうとも、俺を止めることは出来やしないんだ!


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