ここは誰?私は何処?
(パチッ)
目が覚めた。ここはどこ?俺は何をしてたんだっけ?目の前にはたき火。時間は夜。なんでこんな状況になっているのか?頭がボーッとしていて思い出せない。
(ガサッ)
何か物音がした。音の発生源を探って、周りをキョロキョロと見回してみた。
「おや、あれは何だろう?」
少し離れたところに人影があるのがわかった。
サヨちゃんか?いや、それにしては身長が高いか?
(わかった!あの娘だ!)
あの娘……そういえば、名前すら聞いていないあの娘だが、背格好は謎の人影に似ている。よし、ここは……いっちょ脅かしてやろう。
(そーっと、そーっと……、)
そろり、そろりと彼女に近付いていく。よし、あと少しだ。あの娘、驚いたらどんな顔するんだろうな?
(せーの!)
ギリギリまで近付いて大声を出そうとした。そのとき、ゆっくりとそれは振り向いた。その顔は……ガイコツだった!
「ぎゃあああああ!!!」
で、出たあ!お化けが出よったああ!もしかして、あの娘、し、し……、
「目が覚めたんですか?」
「うわああああ!!!」
後ろからもう一人現れた。化けて出た。後ろにいつの間にか瞬間移動したのか?腰が抜けて、その場に尻餅をついた。
「どうかしたんですか?そんな大声を出して?」
君こそ、どうしたんだ?な、なんか二人いるう。体が分身してるぞ。そうか!ガイコツの方が体で、こっちは魂の方だな!そうに違いない。
「なんか、骨と魂が分離してるぞ!大丈夫か?」
「一体、何を言ってるんです?このガイコツさんは見張りをお願いしていただけですよ。」
この辺りで行き倒れになった人みたいですよ、と彼女は付け足す。
なんだ、ただのしかばねだったようだ。
でもなんで?さっき見張りをお願いしたとか言わなかった?どういうこと?
「私は屍霊術を使えるんです。砦に隠れていたときも使っていたので、ご察しの事とは思いますが……。」
まったく、ご察しではありません。そんなこと出来るの?頭が混乱してきた。
「食べられそうな物を探してきたので、まずは何か食べましょう。」
「に、苦い。果てしなく苦い。」
彼女が集めてきた「食べられそうなモノ」を食べていた。キノコとか木の実とか。まずはキノコ……これはだめだった。食べてもいない。だってすごいカラフルなんだもん。「食べたら大変なことになりますヨ」的なオーラが半端ないんだもん。と言う理由で却下となった。
「私、なんか、喉がイガイガしてきましたあ……。」
そして、木の実。見た目はオレンジ色で如何にもおいしそうな感じだったのだが……、残念ながら苦い、喉がイガイガしてくる。毒はなさそうだけど。
「ごめんなさい。こんな物しか見つけられなくて。」
「お互い、知識がないからしょうがないよ。」
突如、サプライズでサバイバルさせられたようなものである。野営用の道具、食料など必要なもの全てが一つも存在していない。俺自身の故郷でなら食材の知識があるので、ワンチャンあったかもしれない。
「そういえば、話変わるけど、君の名前聞いてなかったな。」
「私は……私の名前はエルって言います。」
「そうか、エルちゃんか。」
普通の名前で良かった。あの変態魔術師に被験者4号なんて呼ばれてたから、どうなんだろうって思ってたけど、ちゃんとした名前があって本当に良かった。
「それにしても、なんであいつから逃げ出したの?」
「あの人はデーモン・コアの研究をしているんです。私の体にデーモン・コアがあることを知って、その研究対象にされてしまったんです。」
「君のデーモン・コアってどこ由来なの?君の体にくっついちゃったのはなんで?」
「実はこれ、生まれつきで……。生まれたときは誰も気付いてなかったんです。小さいときは魔術の能力が人より強いってぐらいにしか思われていなかったんです。これもコアの影響なんですけどね。」
生まれつき?そんなこともあるのか。怖いな。生まれたときから、やっかいな病気を持っているようなもんなんだろうか。
「私のデーモン・コアは生まれたときは力は大きくなくて、そのおかげで周りの人も自分もコアを持っていることに気が付かなかったんです。」
コアの力を抑える?そんな力があるのか。
「私が成長するにつれて、コアの力も次第に大きくなっていきました。それが原因で私の住んでいた村に異変が起き始めたんです。」
「異変?」
「次第にアンデッドや凶暴化した動物が出没し始めたんです。そして、村の人々や家族にまで影響が出始めました。」
周りの人々にも影響が出たのか。それはつらいだろうな。しかも原因が自分にあるだなんて。
「ある日、噂を聞きつけたクルセイダーズの人たちがやってきたんです。」
クルセイダーズ?ってことはまさか……、
「じゃあ、俺と一緒にいた連中に見覚えは?」
「いえ。黒づくめの人たちばかりだったのは同じですけど、見たことがある人はいませんでした。」
なんか、ホッとした。因縁があるヤツがいたりしたら気まずいもんな。とはいえ同じ団体なのは間違いないが。
「その人達の調査の結果、何の影響もなかった私に疑いの目が向けられたんです。」
無理もないか。村の中でただ一人、なんともなかったんだからな。奇跡的に助かった、という味方も出来るかもしれないが、この前聞いたデーモン・コアやデーモン・シードの性質からすると、疑われるのは当然かもしれない。
「その時の調査で私の体にデーモン・コアがあることがわかりました。」
「でも、それを取っちゃえば良かったんじゃないの?」
「……無理なんです。少し感染した程度なら浄化魔法で除去できるんですけど、私のはあまりにも強くなりすぎていたので、それが出来ないんです。完全に私の体の一部になっているんです。」
ゾッとした。そんなものが体の一部になっているなんて。救いようがないじゃないか。
「その結果を受けて、クルセイダーズの人たちは決断を下しました。私を殺処分することにしたのです。」
残酷な話だ。彼女には何の罪もない。それなのにそんな仕打ちをするなんて。……とはいえ、彼女は今、生きている。無事なのだ。何があったのだろう。
「でも、死なずに済んだんだよね?何で?」
「……あの人です。デーモン・コアのことをどこで知ったのかわかりませんけど、私を攫いに来たんです。」
「……ああ、ここであの変態さんが関わってくるのか。」
災難だなあ。殺されずに済んだと思ったら、今度は変態に捕まってしまったというわけか。行くも地獄、帰るも地獄か。
「それからはずっと、人体実験が続く毎日でした。あの人、デーモン・コアを何か利用する事を考えてるみたいです。」
「でも、あんなヤツから良く逃げ出せたねえ。ずっとべったり実験されてたら、逃げ出す隙がなかったんじゃない?」
「でも、ある日、逃げ出すチャンスが出来たんです。実験の途中であの人が組織から強制的に呼び出しがかかったみたいで。よっぽど慌てていたんだと思います。私をろくに拘束すらせずに出て行ってしまったんです。」
そうだったのか!よかったよかった。それで逃げ出せたのか。それにしても……組織?魔術師?なんか引っかかる。似た話を最近聞いたような?
「もしかして、その組織って〈ドラゴンズ・ヘブン〉とかいうやつじゃない?」
「そうです!確かあの人はそう言ってました。その組織のリーダーに何か起きたって言ってたような気がします。」
な、なんと!点と点が線でつながった!あの変態がヴァルの奴の組織の人間だったとは!……てことは変態が呼び出されて慌ててたってのは、俺がヴァルを倒したのが原因だったということにならないか?
「あのさ、その組織のリーダーに何かしたのって、誰だと思う?」
「わかりません。名前までは言ってませんでしたから。」
俺はここでできる限りの精一杯のドヤ顔をしてみせた。
「俺なんだよなあ。実は俺が組織のリーダー倒しちゃったんだよなあ。」
「……!!」
初めてだ!こんなに人に自慢できたのって!しかも女の子に対してだよ!生きててよかった。俺はこの瞬間のために生きてきたんやあ!
「あなたが!あなたが倒したんですか!」
彼女は両手で口を押さえながら、最大限の驚きの表情を見せている。そんな顔されたら、こっちも嬉しくなっちゃうじゃないか。
「ということで、間接的に君を助けたことになるのかな。ふふふ。」
「あなたは何者なんですか?……ちょっと失礼かもしれませんけど……。」
「よくぞ聞いてくれた!俺は勇者だ!……勇者ロアだ!」
「あなたは勇者だったんですね!」
言ってやったぜ!ついに。俺こそ勇者だ。……でも待てよ?この子、俺が勇者だと気付いていなかったのか?他の人は大体誰でも、初対面でも俺を勇者と思ってた。もしかして、デーモン・コアの影響だろうか?勇者の額冠がデーモンの影響を受けないのと同じで。
「……でも、私には行くところ、いえ、帰るところがありません。」
彼女は思い出したかのように悲しそうな顔をしている。生きてはいけるが実験体にされるか、殺処分されるかの二つの道しかない。他に……、
「行くところがないのは、俺も同じさ。俺は東洋の武芸の名門を破門になって追放されたんだ。……そして、たまたま成り行きで勇者になっただけさ。」
どこにも行く当てがないのは俺も同じだった。居場所がないなら……自分で作ればいい。
「じゃあ、俺らに付いてくる?」
「クルセイダーズに付いていくんですか?」
「ちがう、ちがう。あいつらは一時的に協力関係にあるだけで、俺はクルセイダーズじゃない。俺とサヨちゃんに付いてこれば良い。でも邪竜退治に参加させられると思うけど。」
「でも、デーモン・コアの影響を受けるのではないでしょうか?」
「それは……多分、無問題!俺は勇者だし、この額冠があるから平気。だって今まで何も起きてないし。」
「それでも、連れの方は……、」
「サヨちゃんも大丈夫!人間じゃないから!何を隠そうサヨちゃんは……竜帝なのだ。竜の中の竜だから、最強だぞ!……でも、他の人にはナイショってことで。他言無用ね。」
「勇者様と竜帝様が一緒に旅をしているんですか!なんだか、信じられないです。」
「まあ、君が加われば……、勇者、竜帝、魔王の最強トリオが爆誕することになるぞ!」
「私が……、魔王、ですか。ははは……。」
ちょっと言い過ぎたかな?さすがに女の子に対して、魔王呼ばわりは酷いかもしれない。
「ごめんよ、魔王なんて言っちゃって。そうじゃなくとも、君が仲間に加わってくれれば、心強いのは間違いない。」
「私なんかでお役に立てるんでしょうか?」
「大丈夫さ。君なら。」