第229話 24時間耐久鬼ごっこ?
「レインボー・ブラスト!!!」
夜の砂浜にド派手な殺人光線が飛び交っていた。ただでさえ、月明かりで明るい方なのに、放たれる度、一瞬一瞬で昼間みたいに明るくなる。そのため、目が凄いチカチカする。さっきまで夜目に慣れていたので余計にだ。
「なんだよ、もう! これじゃ、お祭り騒ぎみたいじゃないかよ!」
「おのれ、ちょこまかと! 喰らって死んでくれれば一瞬の閃光で終わりなのだ! 貴様がいつまでも往生際が悪いのがいけない!」
ひでえなあ。一瞬で終わらせるつもりなのかよ。とはいえ俺も知らないわけではない。前にトレ坊先生から七光り光線のヤバさについて、教えてもらっている。アレは全属性を含むため、あらゆる耐性を持っていたとしても、威力を殺せない。誰でも必ず一つは弱点となる属性は存在するため、大ダメージは避けられないらしい。防ぐには反射魔法とかドラゴン・スケイルのようなバリアでもない限り防御不可なのだ。
「ええい、鬱陶しい! しからば、避けにくくするまでだ! 威力は落ちるがやむを得ん! レインボー・スプレッダー!!!」
七光りマンは両手の平を正面に突き出し、魔法を放った。今度は直線的ではない、四方八方に拡散する光線を出したのだ! これは対処が難しい! 少しでも当たりにくくなるよう後ろへ下がりつつ回避をする。飛んでくる数が多すぎるので峨嶺辿征で相殺するのにも向かないのだ。避けるしかない。
「うわっちぃ!?」
全ては回避出来ず、何発かは体を掠めた。当たった部分に熱を感じる。少し火傷くらいはしてるかもしれない。このままでは、軽く全身を炙られて死んでしまうだろう。
「ハハハ! いい気味だ! これならば避けられまい! やはり最高の魔術師たる私に、貴様如き才能無き下賤の輩は勝てぬのだ!」
一回、いや数発か? ちょっと当たったくらいでもう勝ったかのように振る舞い始める、七光りマン。数打ちゃ当たる戦法ってだけで、確実性には欠ける。俺を倒すつもりなら、あと数回は同じ事を繰り返す必要がある。多分、それまでに決着は付くはず。もちろん、俺の勝利で。
「さぁて、二発目だ。貴様は何発耐えきれるかな? この回数こそが貴様の死へのカウントとなるのだ!」
「待ってくれよ。カウントとかいらないから、四の五の言わず一思いにやってくれ。あのレインボー・ブラストとか言うヤツ。」
「迫り来る死の恐怖に屈服したか? 良かろう希望通り一思いに仕留めてやろう! 避けるなよ!」
「言われんでもわかってる。避けるわけないだろ。」
避けないだけで、防がないとは言ってないし、死ぬとは言ってない。今からやろうとしていることは防ぐのではない。毎晩の特訓の成果を見せてやる。こういう時のために習得していた技がある。
「では撃つぞ。七色の閃光で死に逝くがいい! ……貴様? 何のつもりだ? 死に逝くというのに構えるとは何のつもりだ!」
そう、俺は構えていた。手刀を相手に向けるようにして構えていた。例の技を使うための構えだ。
「別にいいじゃないか。死ぬときくらいポーズくらい好きにさせてくれよ。最後なんだから!」
「フン、おかしなヤツよ! これで思う存分、死に逝けるだろう! レインボー・ブラスト!!!」
(ギュアアアアアッ!!!)
来た! 手刀を基準に正面を合わせ、魔法が到達するのを待つ。この技は如何に敵の放ったエネルギーの奔流に身を委ねられるかが肝となる。防いだり避けたりするのではなく、激流に身を投げだし受け流すための技だ。
「極端派奥義、鯉昇龍門!!」
(びゃああああっ!!!)
意を決して光線の中へ飛び込んだ。七光り光線の中は暑かったり、寒かったり、シビれそうだったり。妙な感覚だ。さすが全属性。全ての属性が無理矢理押し込められたエネルギーというわけだ。そんな矛盾だらけの奔流の中を辿って、その源流に到達した!
「喰らえ、鯉の滝登りパンチ!」
「げぶらっ!!??」
流れを遡った先でただのパンチ! この辺のシメの技は練り込んでなかったから、まだ未完成。受け流すところまでで、ギリギリだったのだ。黄ジイを呼び出して、他の魔術対策を特訓してもらっていたのだ。ラヴァンのスター・バーストを泳ぐように回避した、という話をタニシから聞いていたからな。
「ひゃひぃ! おかしいぞ! なぜ、レインボー・ブラストを受けても死なないんだ! 法則を無視している! 摂理を冒涜している!」
「闘気で身を守りつつ、水流の中を泳ぐようにして受け流しながら、元を辿っただけだ。自然の摂理を参考にしたんだよ。」
七光りマンは殴られた後、情けなく地面に腰を抜かしたみたいに倒れたままになっていた。後は気絶させたり、縛り上げたりしとけば終了となるが、どうするかな?
「勇者ロア。貴様にペナルティを与える。」
「……は?」
急に横から声が聞こえた。聞いたことのある声、これは担任の声だ! そのまま横へと視線を移す。
「ありゃ? アンネ先生、何の用?」
「貴様、武術を使用したな? こちらで確認した。判定はアウトだ。よって、ペナルティを与える!」
くそう! 今のはアウト扱いかよ! しかも、ずっと監視してやがったのか? ペナルティをわざわざ科すために担任自ら現れるとは。元から俺らのお目付役だったのだろう。
「貴様にはどれだけ追い詰めても死なないとかいう、ふざけた風説が流れている。その様なことはあり得ない。これを機に、私が確かめてやる!」




