事情聴取~ガツ丼頼んでやるよ~
「なんじゃ、そなた、どこへ行っておったんじゃ?」
俺は被害者の娘を連れて地下室から戻ってきた。出てしばらくしたら、サヨちゃんに出くわした。
「ああ、ちょっとね。隠し部屋を見つけちゃってさ。で、中にこの娘が隠れてたんで、保護したんだよ。」
「隠れていた?この砦にか?」
意外な反応が返ってきた。女の子を一人保護したというのに。本当なら、「でかした!」と賞賛されるべき事をしたと思うのだが、何なんだろう。このリアクションは。
「デーモンに襲われて、この砦に逃げ込んだら、出るに出られなくなってしまったんだとよ。だから、もう一応デーモン倒したし、連れ出してきたんだよ。」
これほど事情を説明したにもかかわらず、サヨちゃんは表情を変えなかった。何かこちらを訝しんでいるようにも見える。
「して、そなたは何も疑問に思わなかったのか?」
「……へ?なにが?」
何に対しての疑問だろう?もしや、俺がこの砦に隠されたお宝を狙っていたなんて事に気付いてしまったというのか?
「べ、別に、お宝なんて……。」
しまった!つい、口が滑ってしまった。
「お宝?……一体、そなたは何を勘違いしておるのじゃ?」
「勘違いって、何を?」
「そなたは可能性を考えなかったのか?そなたは軽率な真似をしたといういうことに気付いておらぬのか?」
軽率な真似?どういうことだ?確かにいかがわしい事をこの娘にしてしまったが、ひょっとして、そのことも見抜かれてる?
「どうした?何かあったのか?」
黒い人と愉快な仲間たちがこちらへと駆けつけた。
「何者だ?その娘は?」
こちらもサヨちゃんと同じく、この娘に疑いの目を向けている。
「いやあ、この娘、デーモンに襲われて、この砦に隠れてたんだよ。」
「どこにだね?」
「この砦の隠し部屋に隠れてた。正確には地下室への階段が隠されてたんだけど。」
「なるほど。」
黒い人は頷き、納得しているかのように振る舞おうとしているが、なぜか、わずかながら殺気めいたものをその目の奥に感じた。何か俺が悪い事して、怒られているような雰囲気がある。空気は激悪だ。
「デーモンに追われてこの砦に辿り着いたというが、何故、デーモンに見つからなかったと思う?」
「何故って、この娘が幻術っていうんだっけ?それで部屋を隠していたんだよ。」
「ほう。仮に娘が幻術に長けていたとしよう。その方法でデーモンの目を眩ませていたとでも、貴公は考えているのだな?」
「そう、多分!」
「貴公はデーモン自身の察知能力が如何なるものか、ご存じかな?」
「いや、知らないんだけど。」
「デーモンは強い力を有しているものほど、人間やその他動物に対しての嗅覚に優れているのだ。奴らはそれを食らい、もしくは自身の眷属を増やすため、そのような能力に長けているのだよ。」
「いや~、地下室だし匂わなかったんじゃね?ほら、臭いものには蓋って言うぐらいだし、蓋してたから匂わなかったんだよ、多分。」
「この期に及んで、何を言うておるんじゃ、そなたは。」
サヨちゃんがため息交じりに、呆れた素振りを見せる。あれ?なんか俺間違ったこと言ってる?今のはなんか「うまいこと言ってやったぜ」感があったんだけど。
「私が察知能力に関して嗅覚と言ったのは、あくまで例えの話だよ。気配を感じ取る力を持っているのだ。建物のような遮蔽物は影響しない。」
「はじめからそう言って欲しかったなあ。俺、馬鹿だから言ったまんまを信じちゃうんで。」
「失敬した。今後は気を付けるとしよう。少し話が逸れてしまったが話を続けよう。仮にデーモンがその娘を見つけられなかったとしよう。その上でも、悪霊に襲われなかったのは何故だと考える?」
「悪霊が地下室を発見できなかっただけでは?」
「ここへ来る前にも話した通り、この砦は魔王戦役時代の遺物だ。多くの戦士たちがここで命を落とした。地下室であっても関係はない。この場そのものがそもそも、魔の因子に包まれている。そのような場所で人一人が無事でいられるはずがない。」
「いや、実際無事だったじゃないか。」
「そこまで言うのであれば仕方ない。貴公はこれを見ても、果たして同じ事が言えるのかな?」
黒い人は腰に下げていた、例の測定器を差し出した。それは既に起動済みで強い反応を示していた。そして、方向計は……あの娘を指し示していた。
「いやいやいや、嘘でしょ?それ、壊れてんじゃないの?」
信じられなかった。いや、信じたくはなかったのかもしれない。
「恐らくはその娘がデーモン・コアの宿主だ。」
決定的なものを見せつけられてしまった。これではもう逃れようがない。この娘を疑うしかないじゃないか。
「実は私自身、疑問が無い訳ではない。今回の任務はあまりにも不可解な点が多すぎるのだ。」
何か色々問題点があったんだろうか。俺はデーモンの知識がないため、さっぱりわからない。話について行けてない。
「まず第一に、この砦に入るまで悪霊をはじめとした、デーモンの眷属に一切出くわさなかったこと。」
確かにデーモン・コアまたはデーモン・シードがあれば、付近に感染が広がるという話だった。気配だけは感じられたものの、特に何も起きないまま砦に到着した。
「第二に、その娘が自身の影武者とも言うべきデーモンを用意したことだ。我々を始末するのならわざわざこんな回りくどい真似をせずとも、自ら乗り出して来れば、存分に力を発揮できたはずだ。デーモン・コアの持ち主ともなれば尚更だ。」
デーモン・コアはある意味、魔王の破片みたいなモンなんだっけ?それを持っているってことは、ほぼ魔王とも言っていいはずだ。そうなると、こそこそ隠れているというのはおかしい話だ。
「第三に、何故、この砦から離れず隠れていたいたのか?我々、黒の兵団の手から逃れるため?そう言う理由もあるだろう。だが、わざわざ偽装してまで隠れている理由に説明が付かない。他の誰かの手から逃れようとしているのではないか?」
「そ、それは……、」
彼女は目に涙を浮かべ、震えながら疑問に答えようとしていた。デーモン・コアの持ち主であることがわかったとはいえ、この様子を見ているとかわいそうになってくる。なんかいじめられている子を見ているようだ。
「第四に、ナぜ私の元から逃れたノです?」




