第162話 決闘のウラ
「なるほど。一難去って、また一難という訳ですか。」
俺とエルはトニヤの情報を手分けして集め、それらをまとめるために合流した。ついでにトレ坊先生の知恵を借りるため、恒例となった仮想空間で密会することになったのだ。
「しかも、相手はアーチボルトのご子息ですか。何代前かは忘れましたが、雷属性の応用理論について熱く語り合った事もありましたねぇ。引力波と斥力波の可能性には心躍る物がありました。」
「えっ!? ウィリアム・アーチボルト先生とお知り合いだったんですか? 歴史的に実績のある方ともご交流があったなんて……。」
「あれ? 彼って、そこまで有名になってたんですか? 確かに優秀な方ではありましたが……。ご存命の時は魔術学会では村八分になっていたのですが、後世になって功績が認められたのですね。」
エルとトレ坊先生はアーチボルトのエラい人の話で盛り上がっている。ウィリアムって名前は俺も聞き覚えがある。大武会の時にファルちゃんから話を聞いた。侍が引力波を使うっていうのを見て、アイツから色々と仕組みとかの話を延々と聞かされた。俺が居眠り仕掛けたところで、あいつがキレて中断する流れにはなったが。まさか、トニヤがその一族の出身だったとはな。
「ふむ、最下級クラスに降格された過去があるとは……、子孫であるトニヤ少年も苦境に立たされているのですね。彼の一族の宿命なのかもしれませんね。ご自身の信念を強く持っている方でしたので、その血は引き継がれているのですねぇ。」
「体制には従わない、ってのが引き継がれてるわけね。筋金入りの反骨精神ってことか。」
ご先祖様も周りからのけ者にされていたというのはさっきの話にあった。それぞれ理由はち違うんだろうけど、問題はトニヤ側の理由がイマイチ見えてきてないってことだ。エルがラヴァンから得た情報ではクラスメイトを庇ったという事になってるらしいが……。肝心な真相はぼかされてしまったみたいだ。その庇った相手とやらを探し出せればいいが、決闘は明日だ。調査する時間はもうない。後は決闘に勝って、トニヤ本人から聞くしかない。
「で、ヤツの決闘の相手だったというアルカンシェルとかいう先生について、先生は何か知らないんすか?」
「アルカンシェルですか……。彼の一族は多属性魔術の使い手として有名なくらいですね。あくまで戦闘技術としての魔術を極めているだけの一族ですね。私の嫌いなタイプですよ。ウィリアム君を迫害していた一派にも所属してましたし。」
関係あるのかはわからないが、ご先祖様の時点で因縁があるのか。それに加えてトレ坊先生の嫌いなタイプと来た。俺の敵に回る典型的な人種でもある。例の事件と関わりがあるかはわからんが、障害になるかもしれないな。
「二人が決闘をした理由、これには裏があるみたいなんです。特に学生の側には知られてはいけない何かを隠しているのはわかりました。ラヴァン先生はそういう素振りを見せていたんです。」
「言えない事があると明言していたんですね? その態度からすると、ラヴァン殿からすれば、賛同しがたい事実を含んでいるのかもしれません。一般的には学院側によって箝口令が敷かれていると見ていいでしょうね。」
やっぱエルの前では割と協力的ではあるんだな。ラヴァンなりに出来る限りのギリギリのヒントだけは出した形になるのだろう。
「かつて問題を起こした学生と、これから波乱を起こすかもしれない編入生による決闘。それを許可した辺り、学院側も行動を起こすかもしれませんね。昨日の決闘からして急なルール変更など、強引な手法を用いてくるくらいです。十分な警戒をしておいた方が良いでしょう。」
「結局、真相は決闘が終わってから調べる事になりそうだな。」
仕方ない。急に決まった二回目の決闘だからな。出たとこ勝負で行くしかない。決闘の真っ最中にヤツの目的を探ってみることも考えておこう。




