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第110話 怪我人はネンネしてな!


「グァッ!?」


「……エド!?」



 エドが魔王の攻撃を受け、遠くまで吹き飛ばされた。俺たち二人がかりで魔王と戦っているにも関わらず、優勢になるどころか途中から逆に押され始めた。その結果、こうなった。今の攻撃で特に負傷はしなかったようだが、衝撃で失神してしまったようだ。



「無理はよくないぜ、イグレス。ナビダッドのディスコーマの傷をそのままにしていて無事で済むなんて思うなよ?」



 ヤツの言うとおり、エドは直前の戦いでかなり消耗していたようだ。鎧は壊れ、背中に大きな切り傷があった。そんな状態で戦っていたんだから無理もない。魔王もその事実に薄々感付いていたんだろう。



「イグレスにはそこでネンネしておいてもらおう。手負いのヤツとやり合っても面白くないしな。」



 エドには休んでおいてもらおう。俺はまだそんなに消耗していない。遅れて来た分、強敵には出くわしていないし。さっきの二人組? アイツらは強くはあったが、俺以上にバカだったので苦戦したうちには入らない。



「勇者、お前とは是非とも戦ってみたかったんだ! 一対一でな! 俺たち魔王軍の間ではお前の話題で持ちきりなんだぜ! なんかとんでもねえヤツがいるってよ!」


「これはまた好評なようで……。はは。」



 引きつった笑いで魔王の熱狂ぶりを見つめる。変わった魔王だ。やっぱり虎や蛇と違う。戦いを心の底から楽しんでいるようなタイプに見える。



「だってさあ、魔王のコアを消しちまうヤツなんて、千年も二千年も現れなかったんだぜ? ワクワクするだろう?」



 この魔王からはどす黒さがあまり感じられない。とはいえ底知れない強さが伝わってくる。おそらくまだ全然本気を出していないはず。そう考えると身震いが止まらない。今までとは違う怖さを感じるのだ。



「さあ、二人でじっくり楽しもう……な!!」



 一瞬だった。いきなり目の前に魔王が迫ってきた。速すぎて見えなかった! そして、間もなく魔王の拳が顔面に迫ってきた。考えているヒマはない。とにかく回避だ!



「うおあっ!?」



 ギリギリだった。顔を掠めただけでもビリビリとその勢いの凄さが伝わってきた。喰らったらもれなく死ぬ! そんな攻撃が別の角度から来た。そして躱す! 次は蹴りが来る。今度は飛んで避ける。それに付加する形であの技をぶち込む!



「峨龍滅睛!!」



 頭部目掛けて振り下ろす……と、そこで魔王と目が合った! ものの見事に反応されてしまっている!そのままあっさりと素手で剣を受け止められてしまった。



「おおっと、危ねえ、危ねえ! 頭とられちまう所だった!」



 平然と受け止められ、俺は振り下ろした体勢で宙に浮かされたままになっていた。前にも似たような事があった気がする。虎の魔王と戦ったときだ! ヤツは口で受け止めた。魔王ってヤツらはどいつもこいつも反射神経がずば抜けている。技で返すのではなく、持って生まれた身体能力だけで技を平然と返してくる。文字通りのバケモノだ!



「俺、実はその技知ってるんだぜ?」



 掴んだ剣ごと俺を遠くへ投げ飛ばすと、魔王は妙なことを口走った。何…どういうこと? 知ってるって言っても、他の魔王から聞いた程度なら話はわかるが……?



「俺、昔っから強えヤツと戦うためにあちこち回ってたことがあるんだ。そこでなんとかって言う流派と戦ったりもした。」



 何とかって……流派梁山泊しかありえない!コイツと戦った門下の人がいたなんて。まあ、ありえない話じゃない。昔から人外のバケモノと戦った逸話は噂とか伝説とか記録という形で残ってはいた。そういうのを読んだり、聞いたりしたことはいくらでもある。嘘かホントかはわからないけど。



「お前と同じような剣士は倒したことがあるし、ジンなんとかっていうエラそうな拳法家も二、三百年前に倒した事があったような気がすんだよなあ! お前もその関係者か?」



 ジンなんとかだと!? まさか、宗家一族の祖先の誰かと戦った事がある? やばいな。コイツ下手したら、今の宗家より強い可能性もあるかもな……。

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