第65話 震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!!
「おっ、出てきた、出てきた!」
ゆーしゃ達が飛び入り参加することになったハンバーグ・コンテスト。ウチら、女の子二人は不参加で観戦だ。エルるんはともかくウチは料理なんてやらない! 出来ないんじゃない。やらないだけだぞ!
「まさかタニシさんまで出るなんて思ってなかった。」
「ワンちゃん? ああ、ワンちゃんは参加賞のゴッツン限定版が欲しかっただけだよ。」
「まさかの参加賞目的? じゃあ、あの新人さんはどうなんだろう?」
エルるんが出場者の中に見覚えのある巨体を見つけて指差している。ゴリマッチョがいつの間にかいなくなっていたと思ったら、参加していたようだ。何故かマスクを被ってる。しかもタマネギ型の。何アレ? 変装のつもり?
「なんでいるの? もうホントにワケわかんないよ! かといって、ウチらの横で観戦してても、むさ苦しそうだから、イヤだけど。」
「そんな邪険にしなくても……。」
「でも実際、エルるんもアイツのこと、苦手なんでしょ?」
「う、うーん……。」
それにしてもアイツ、なんでタマネギにこだわってんだろ? 意味分かんない。まあ、いいや。それよりもタマネギを見て思い出したことがある。せっかくだし、エルるんに聞いてみよう。
「あのさあ、タマネギ見てて思い出したんだけど、エピオンだっけ? エルるんの弟。アイツ何でタマネギ嫌いだったの?」
「どうしてそれを?」
「いや、ちょっと気になってた。なんか、“オレ強えんだよ”って態度してるクセにさ、タマネギが弱点なんて、結構子供っぽくて笑えるよね、って思ってさ。」
エルるんは初め、「どうしてそんなことを聞くの?」っていう感じで、不思議そうな顔してた。しばらくウチが理由を話すと、優しそうにニコニコしながら聞いてくれるようになった。やっぱ、アイツのことを大切に思ってるんだな、と思う。クソ生意気なヤツなのに。
「あの子はね、とても貧しい環境で、しかも、迫害されて育ってきたから、食べる物にいつも困ってたらしいの。」
アイツ……。エルるん並みに悲惨な過去があるんだろうなとは思っていたけど、もっと悲惨だった。迫害される上に貧乏だったのか。
「そんなときによく食べてたのが、タマネギよ。安く手に入るし、時には盗んできたこともあったらしいのよ。小さい頃から好き嫌い関係無しにそれしか食べる物がなかった。毎日毎日、そればっかり食べてたから嫌いになったんだって。タマネギを見ると昔のことを思い出して悲しくなるから、というのもあるかもしれない。」
いわゆるトラウマってヤツ? トラウマか。あの異常な怒りっぷりの原因はそこにあったんだ。それなら、ちょっと悪いことしたかな。少しからかってやるだけのつもりだったんだけどな。
「ミヤコちゃん、もしかして、あの子のこと気になる?」
「……え!?」
……!? 突然、思いがけない質問が来た! 一瞬、思考が止まったような気がする。それよりもなんか、顔の温度が急に高くなってきているような……。
「いやいやいや! べ、べ、べ、別に気になってないから! なんとも思ってないから!」
「ホントに?」
エルるんがこれ以上ないくらいに、すっごいニコニコしてる! ウチを微笑み殺そうとするくらいの勢いだ! ちょっとやめてよ、そういうの! ウチに限ってそういう展開とかありえないから!
「ミヤコちゃんならあの子のこと、幸せにしてあげられると思うの。大切にしてあげてね。あの子素直じゃないから、大変だと思うけど。」
「うわああああ! やめてぇ! 別になんともないからぁぁ!」
このままだと顔面がオーバーヒートするぅぅっ! こんなになる前に熱防護対策魔法使っとくんだったぁ!
「それでは皆さん、調理を開始して下さい! クッキングスタートです!」
「あっ、始まったみたいね。」
「は、はえっ!?」
た、助かった! コンテストに救われた。顔面の温度も徐々にクールダウンしていく。ホントに熱暴走で死ぬとこだったよ。まいったな、もう!




