第48話 人違いではありませんか?
「またここか。」
オバサンの記憶の中に入ってきたのはいいが、代わり映えのしない、見たことのある屋敷に辿り着いた。でもよく考えたら、エルの一族の故郷なんだから当然か。オバサンにとっても同じなんだろう。
「エル達はどこにいるんだろう?」
来てみたのはいいが、どこを探せばいいのかわからない。遺産の手掛かりを捜索してるんだろうけど、とりあえずオバサンを探せばいいのか? 手掛かりといえば、それぐらいしか思いつかない。遺産とやらがどんな形をしていて、どこにあるのかがさっぱりだ。俺はエルの一族とは無関係な人間なので、アウェー感が半端ない。魔術師ですらないので余計にだ。
「あの? 何をしているんですか? 何かお探しなのですか? それとも、ドロボウさんですか?」
背後から声をかけられた。迂闊だった。考え事をしていたせいで、人に見つかる事を考慮していなかった。しかし、さっきまで気配を感じなかったような? とりあえず振り返ってみる。
「……!? エ、エル!?」
そこにはエルがいた。服装が違ってはいるが、彼女に間違いなかった。俺の知る彼女よりも、気持ち少しあどけなさを感じる。過去の彼女なのだろうか? いつの時代なのか?
「何故、私の名を? どこかで私とお会いしましたでしょうか?」
「え? あ、いや、会ったっていうか……、」
やはり、エルは俺のことを忘れてしまったんだろうか? さっきみたいに虚ろな目をしていない。しかも、演技とか、悪気も感じられない。本当に初対面であるかの様な態度だ。
「あ……、まさかとは思いますが、その額冠は……?」
俺の頭にある額冠を見て何かに気付いた様子だ。当然、彼女の魔力が阻害して、額冠の認識効果は機能していないのはわかる。魔術師なので一目見ただけで、これが特殊な額冠だということには気付いたのかもしれない。
「あなたが頭に着けているのは勇者の額冠なのでは? もしかして……勇者シャルル・アバンテ様ですか?」
「え……!?」
どうして、よりにもよって、先代カレルではなく、先々代の勇者の名前が出てくるんだ? 一線からは退いた今現在も、クルセイダーズに所属しているとは聞くが、何故? そこそこ高齢のはずだから、間違えるのはおかしいんだが? 俺、そこまで老けてないと思うんですけど?
「私にはわかりますよ。あなたのその額冠が普通の品ではないことが。実物を実際見たことはありませんが、備わっている魔力は本物です。あなたは勇者様なのでしょう?」
「勇者なのは間違いないけど……。」
俺は返答に困った。目の前にいるのは本当にエルなんだろうか? 色々受け答えの内容がおかしい。俺の事を全く知らないとはどういう事だ? 同名のソックリさん? それとも、彼女のお姉さん?、妹? 従姉妹以外で年の近い親戚がいるとは聞いたことがない。
「お姉様、此方にいらしたのですね? 探しましたよ。」
目の前のエルに気を取られているうちに、別の女性がやって来た。見るとほぼ全身赤ずくめの出で立ち、おそらくエルの従姉妹だ。エルと同様、何か違和感を感じた。雰囲気が少し違う。あの子にしては大人びているし、髪も長い。でも顔立ちはほぼ同じ。今現在とは違うのだろうが、いつの時代の二人なのかさっぱりわからない。疑問は積もる一方だ。
「あら? そちらの殿方は?」
「この方は勇者様よ。シャルル・アバンテ様。聞いた事があるでしょう? 一年前に猪の魔王、ガノスを討伐された事で有名な方よ。」
は? 猪の魔王? 知らないし、会ったこともないんだけど? 俺が倒したのは虎、エルに取り憑いた牛の二人だ。あとは現在交戦中の蛇ぐらいだ。いつの間に知らないヤツまで倒したことになっているのか?
「シャルル様ですって!? もしかして、ここへ来たのはわたくし達をスカウトしに来られたのでは? 次は牛の魔王の討伐に向かわれるとお聞きしましたわ!」
別に従姉妹に用はないんだが……。俺はただ、エルを連れ戻しに来ただけじゃい! それに牛の魔王を討伐って、何? ヤツはすでに俺が消滅させたから、この世に存在しないはずでは?
「まさか、私を迎えに来られたということですか? 以前頂いたお手紙には“クルセイダーズ本部にてお待ちしています”と書かれていましたが……?」
エルがその証拠とばかりに、手紙を見せてきた。封筒の宛先にはエル……フリーデと書かれていた! ウソだろオイ! この名前はエルのお母さんの名前じゃないか! てことは、目の前にいるのは……、
「お姉様! どういうことですか? シャルル様からお手紙を頂いていたなんて、聞いてませんわよ! 討伐部隊へのお誘いのお手紙なのですね、それは?」
目の前にいるのがエルのお母さんなら、この強気な赤ずくめの女は……ナドラオバサン? ここは二十年以上前、二人が若かった頃の時代か! そう考えてみると、魔王関連の話の辻褄が合う。シャルルに間違えられたのは、彼が現役だった時代だからなのか。……ていうか、オバサンて、若い頃は結構可愛かったんだな。
「……ええ。実は。あなたには黙っておきたかったから……。」
「またですか! あなたはいつもそうやって……わたくしが求めていた物を全て持っていく! しかも、それを隠していただなんて!」
「違うの! あなたを傷付けたくなかったから……。」
俺を挟んで二人が喧嘩を始めた。とはいえ、オバサン側から一方的にだが。エルと従姉妹も仲が悪そうだったが、先代から続くものだったとは……根が深いな。
「いつも、いつもわたくしを見下して! 惨めなわたくしを憐れんで……満足でしょうね!」
「私はあなたに辛い気持ちをして欲しくなかったから……。」
「ウソをおっしゃい!」
口ぶりからすると、オバサンはエルのお母さんばかり評価されているのが羨ましかった、ってところかな? オバサンも才能はあったんだろうけど、すぐ側にもっと凄い人がいた。そのおかげで辛い思いをしてきた。だから姉に嫉妬心をぶつけているのだろう。俺はオバサンの気持ちがわかる気がする。俺も“持っていない”側の人間だから。




