黒騎士、勇者に興味を持つ
「何?勇者殿が亡くなられた?」
その日、クルセイダーズのイーストウッド支所へ訪れた彼、黒曜の貴公子は驚くべき知らせを聞いた。
黒曜の貴公子……クルセイダーズの六光の騎士の一人である。
常に全身を黒い甲冑で身を包んでおり、それゆえ黒曜の貴公子と呼ばれている。
兜のフェイスガードを常に下ろしているため、その素顔を見たものは誰一人としていない。
本人の弁によれば、顔に醜い傷跡があるのでかくしているのだという。
「何でも、風刃の魔術師殿によれば、竜食いの英雄に暗殺されたと言う話です。」
彼と同じく六光の騎士である風刃の魔術師、ファル・A・シオンは勇者と共に竜食いの英雄の、とある疑惑について調査の任務についているという情報は、彼が他の支所を訪れた際に耳に入れていた。
「なるほど、あの英雄はとうとう馬脚を露わにしたという訳か。」
彼自身もファル同様、竜食いの英雄に疑いを持っていた。元々並外れた実力を持つ人物であることは彼も認識していた。しかし、度の過ぎた竜の討伐はクルセイダーズでも賛否両論あった。彼自身はその行為に対してはどちらかと言えば賛成していた。
彼自身も脅威は事前に摘み取ることを理念において活動している。その一方で急激に力を増大させたことに対しては懸念を持っていた。
「その竜食いの英雄なのですが……、新しい勇者殿によって倒されたというのです。」
「何と!早くも継承者が現れたというのか!しかも、竜食いの英雄を倒しただと!」
勇者が代替わりしただけではなく、竜食いの英雄が倒されてしまうとは、彼の予想を遙かに超えていた。
「何者なのだ、新しい勇者殿とは?」
「魔術師殿によれば、異国の人間だそうで、本人が言うには東の大国から出身だそうです。」
「東洋人だというのか、前代未聞だな。」
クルセイダーズの人間ならば、歴代の勇者のことはよく知っている。入団試験、昇進試験の問題としても出題されるほどだ。長い歴史の中で、老若男女、様々な人物が勇者なったとされていて、エルフや獣人が勇者になったことさえある。
しかし、それは同じ文化圏の中での話であって、他文化圏の人間が勇者になったのは前例がない。東の大国とは交流がずっとあったわけではなく、歴史の所々で交流が途絶えたりしている。
そういうわけもあってか、彼らの国では東国の人間を見かけることは滅多にない。例外はこの交易都市ぐらいだろう。それもまだ最近の三,四〇年ぐらいの実績でしかない。
「……会ってみたいものだな。その新世代の勇者殿に。」