腹が減っては、旅は出来ぬ
「うむ!これは中々に美味じゃな。」
旅の途中の野営でサヨに得意料理を振る舞っていた。料理は得意料理の炒飯だった。
とはいえ、今いる地域では米が入手不能なため、他の麦らしき穀物を代用品として使用している。
「そなた、意外な特技を持っておったのじゃな。この分なら、今後の旅も退屈しなくて済みそうじゃな。」
「喜んでもらえて嬉しいけどよ、こちらとしてはこの地域じゃ、知らねえ食材が多すぎるんだ。まともに作れるかどうかは定かじゃねーから、あんま期待すんなよ。」
気候も文化も食べ物もあまりに自分の故郷とは違いすぎる。故郷の国でさえ、地方ごとで特色が異なっていたのだ。何もかも未知の状態で挑まなければならないので大変だ。
「どこでこんな特技を身に付けたのじゃ?」
「どこでって、梁山泊でだよ。ご存じの通り、万年下っ端だったことの弊害だぜ、これは。あそこじゃ、雑用なんかは下っ端の仕事だからな。十年近くも下っ端やってりゃ、いやでもこうなるぜ?」
修行の合間に雑用も熟さなければならなかった。料理だけではない、薪割り、洗濯なども熟した。あまりに過酷だったため、しまいにはどちらが本業なのかと揶揄されたし、自分でもたまにこんがらがることも多かった。
「この腕ならば調理人としてやっていけたのではないのか?」
「いや、こんな程度じゃ、無理だね。俺の故郷じゃ本職の調理人やるには免許が必要なんだよ。この程度の腕じゃ免許すら取れねーよ。」
あくまで雑用でやっていただけなのだ。それだけで一流になれるのなら、故郷を離れるなんて事にはならない。
「せっかく褒めてやったのに、それを無下にするとはのう。……まあ、よいわ。今後は食事を楽しみにしておこう。」
「あざーす。お褒めにあずかり光栄です。」
サヨちゃんはまだ何か言いたげだったが、あきらめたようだった。機嫌を損ねてしまったか?とりあえず、褒められたことに対してお礼を言うことにした。
「ところで、目的の町まで後どれだけなんだ?」
最終的な目標は邪竜レギンを討伐することにあるが、当然居場所がわからないので色々と情報を集めることにした。竜の隠れ里の付近は山奥の田舎であったため、情報を集めるには不向きな場所だった。
「そうじゃな、あともう少し、一日もかからんはずじゃ。」
目的の町、イーストウッドは国境ほど近い交易都市である。国境の関所を出て普通に歩けば、本来ならこの町にたどり着くはずだそうである。しかし、俺は何かの拍子で道を間違え、あの村にたどり着いてしまった。おそらく勇者の導きだろう。とりあえず、そういうことにしておこう。
「やったぜ!久しぶりに宿屋だ。」
最早、目的のことはどうでもよくなっている。冒険者ギルドとか、クルセイダーズの支所とか面倒くさいのは後回しにしたかった。
「何を浮かれておる。本来の目的を忘れたわけではあるまいな?」
やっぱり、見透かされていたか。サヨちゃんはさすがにカンが良い。
しかし、俺を見くびってもらっちゃあ、困る。
「そういうサヨちゃんの方こそ、嬉しそうに見えるんだけど?どういうこと?」
彼女は表向き、浮かれるロアを叱りつける態度を取っているが、口の端が若干、にやついているのを俺は見逃しはしなかった。
「な!……何を言うか!言いがかりを付けるではないわ!」
もう、バレバレだった。彼女は両手で顔を覆い隠し、見られないようにしている。ほんと、もうわかりやすかった。よっぽど、楽しみなのだろう。そう言う部分は見た目通りの普通の女の子である。
「まあ、いいや。早く寝て明日に備えるか。」




