例え、這いつくばってでも
「……こ、ここは……?」
目が覚めた。随分と長い間悪い夢を見ていたような気がする。彼が殺される所を、自分は動けずに見ているだけ。その繰り返しだった。……誰に? そういえば、そうだった。誰に殺されているのか、曖昧にしか憶えていない。
「……すう……すう……、」
ベッドの傍らを見るとメイちゃんが寝息を立てていた。椅子に座ったまま……多分、私の体の治療をしてくれていたんだと思う。私の体は闇の力が強くなってきているから、治療の魔法が効きにくい。だから、付きっ切りで看病して疲れてしまったんだろう。自分が無茶をしたせいで、彼女にも迷惑がかかってしまった。
「ううっ……!?」
体を動かしてみた。その結果、激痛が走る。やっぱり動かせない。動かそうとしても痛みがあるだけで、力が入らなかった。やっぱり、体中の筋肉がズタズタになってしまったんだろう。まともに動かせるのは、首回りだけ。視線を動かせるくらいの事しか出来ない。
「あれから何日たったの?」
答えてくれる人はこの場にいない。メイちゃんがいるけど、それだけのために起こすわけにはいかない。何か……手掛かりは?
(…… !!!!!! ……)
耳を澄ますと、何か大勢の人の声が聞こえる。歓声? というと違和感があった。何かそれ以外の声……何かに恐れる、何かに戸惑うかのような感じにも聞こえる。外で異常な出来事が起きているのかもしれない。
「……彼が……戦っている!?」
そうだ。あり得るとしたら、そうに違いなかった。今行われているのは決勝戦。多分そう。だとしたら……だとしたら……?
「……行かなきゃ!」
どこへ? どうやって? 考えている暇はなかった。体は動かせないけれど、自分に出来ることは何を使ってでも行かなきゃいけない!
「……リザレクション!」
この前、サヨさんに教えてもらったことがある。闇の力で自己再生を行うことが出来ると。まだ試したことはないけれど、魔力が万全な今、試してみる価値はある。それが再生能力リザレクション。わずかでも、少しだけでも体を動かすことが出来れば、彼の元へ行くことが出来る。
「……でも、急がないと……。」
彼が待っている。彼は戦っている。早く行かないと……負けてしまうかもしれない。私は恐怖を感じた。体がまともに動かせなくても、速く駆けつけないといけない。
「……は、早く……。」
わずかに動かせるようになった。寝返りをうつくらいのことは出来そう。このままベッドから出ないと……、
「……痛ぁっ!?」
ベッドから滑り落ち、体に激痛が走る。でもそんなことにはかまってられない。立って歩けなくても……這ってでも行くんだ!
「……く、ううっ、ああっ!?」
どうにかして、ドアの所まで這っていき、よろよろとドアにもたれかかるようにして、ドアノブをどうにかして開けた。外側に開いた勢いで、また転倒してしまう。
「……い、痛い……。」
痛みと自分の無力さのせいで涙が止まらなかった。それでも這って進む。視界がぼやけていても、気配で闘技場の方向がわかる。それだけで十分だった。




