八相殺し
「……ゃ様! 大丈夫ですか? 声は聞こえますか?」
意識が戻った。戻った瞬間、司会の人の声が間近で聞こえたので驚いた。司会の人が起こしに来ないといけないくらい、長時間、意識が落ちていたんだろうか?
「試合は続行しますか? 現時点であなたは八本取られています。このまま続けると確実に命の危険があります。棄権することも視野に入れてください。」
司会の人は真剣に心配してくれているようだ。大会運営の関係上、死者を出すわけにいかないというのもあるだろう。無様な姿を見せてしまった結果がこれだ。情けないにも程があるな。
「……続けます。」
「どうか無理をなさらない範囲でお願いします。」
続行は受け入れてくれたようだが、無理をしていることに釘を刺されてしまった。とはいえ、棄権したところで俺の運命が変わるとは思えない。結局は宗家に殺されるだろう。
「フン、立場がわかっておるではないか。貴様に退路はない。逃げて生き延びる選択肢は元よりないのだ。」
宗家も逃がすつもりなんてない。周りが止めても、一瞬で息の根を止めに来るだろう。ルールがどうとか、法律がどうとか、宗家には関係ないからだ。
「ここまで私は一撃ごとに殺すつもりで試合を進めた。貴様は対処すら出来ず、為す術なく八度も倒れた。そこでだ、貴様に攻撃の機会をやろう。」
攻撃の機会をくれる? これまでも攻撃はしたが、全て受け流され、反撃を喰らった。機会がもらえるというのなら、今の俺が繰り出せる最高の技で立ち向かいたい。当たりさえすれば、倒せるということを証明したい。
「じゃあ、行かせてもらう。」
俺は構えをとる。相変わらず宗家は構えをとらない。でも気にしない。俺と宗家の間には絶望的な実力差があるのはわかっている。俺の今までの全てがどれだけ通じるか試してみたい。
「……シャイニング・イレイザー!」
まずはこれだ。俺が勇者になって以来、一番お世話になってきた技だ。額冠を外しているとはいえ、体に染みついている技だ。梁山泊の技とは系統が違うので、単純に対処できないはずだ!
「フ、闘気の技か。……ならば!」
何か対処をしようとしている。でも、俺は梁山泊の技でそのようなものがあるのは知らない。
「一0八計が一つ、制天拍日…カアァッ!!」
宗家は胸の前で両手の平を気合いと共に打ち合わせた。その行為でシャイニング・イレイザーが打ち消されてしまった。宗家は何事もなかったかのように、平然としている。
「霽月八刃!」
シャイニング・イレイザーが打ち消されても構わない。効かないのは想定内だ。それを囮に他の技で攻撃する!
「五覇奥義、終想烈実!」
俺の八刃に宗家は手刀で対抗してきた。技と技がぶつかり合い、剣から硬い物にぶつかったような感触が伝わってくる。八刃を使ったとき特有の物を斬った手応えが感じられなかった。技が相殺されてしまったのだろうか? でも、まだ諦めるのは早い。次々仕掛ける!
「絶空八刃!」
「むぅん!!」
再び手刀をぶつけられ、相殺されてしまった。どういう原理かは知らないが、無効化されている。
「無明……八刃!」
今の俺が出せる最高の技だ! この技なら防御や相殺関係無しに当てることが出来るはず!
「五覇奥義、白日捷綻!」
今度は手刀ではなく、振り下ろす前の剣を両手で挟み込むようにして止めた。白羽取りというヤツに似ている。
「五覇奥義、終想烈実、別名、八相殺し。八相撃を相殺するための技だ。通常は同じ技を繰り出せば相殺は出来る。この技は最低限の労力で相殺するために編み出した技だ。」
八刃そのものを相殺する技が存在していたなんて……。今まで同門の相手とは戦ったことがなかったから、こんな事態は想定してなかった。
「そして、白日捷綻、これは至高の防御法だ。どのような技であろうと、叩き伏せる。来た技は全て跳ね返すのが私の信条だ。」
技を振るう前に止められたのは俺にもわかった。さすがに宗家も無明八刃に脅威を感じたのかもしれない。どうにかして当てることが出来れば、勝てる可能性があるんだ!
「貴様の技が通じぬ事が良くわかったであろう。貴様の力ではどうすることも出来んのだ。これから更なる絶望を味あわせてやろう!」
宗家が異様な殺気を放ち始めた。まだ何か切り札があるんだろうか? 今まででの技でも俺を十分倒しきれるはずなのに……。
「貴様は身も心も完全に破壊し尽くしてから仕留める。よって……“獄門九所封じ”を解禁する!」




