生きるための選択
「どうしてだよ、エルちゃん……。」
顔の半分に大きな腫れができ、痛々しい姿になってしまった彼女から目が離せなかった。というより、それ以外、何も目に入らなかった。
「なんでこんな無茶を……。」
現在治療を行っているメイちゃんの話によると、見た目は顔にしか現れていないが、体のダメージはもっと深刻であるらしい。アクセレイションを過度に使用しすぎたため、全身の筋肉がズタズタになっているらしい。このままでは一生自分の力で立って歩くことも出来なくなるとのことだった……。
「私の責任だ……。」
彼女のパートナーだったヘイフゥ…いや、レンファさんは謝罪の言葉を俺とエルちゃんにかける。あの狐面の正体が彼女だったのは衝撃的だったが、今はそんなことを気にしている状況ではなかった。
「悔しいよ。……レンファさんじゃなかったら、狐面のまんまだったら、責める事が出来たのに……。」
「ごめんなさい。私が良かれと思って行った事が完全に裏目に出てしまった。あなたたち二人を傷付けたのは事実だわ。あなたは遠慮しなくてもいい。私を責めなさい。」
レンファさんは俺に責めろと言う。でも、出来ない。そんなこと出来るはずがない。狐面だったときは他人行儀、もしくは恋敵として見れたけど、レンファさんは俺にとっては家族に等しい存在だ。血の繋がった家族のいない俺にとって、姉のような存在だったし、彼女自身も似たような立場だったのでなおさらだった。
「……ずるいよ、レンファさん。自分を悪者にしちゃえば、なんとかなるなんて思ってるんだろうけど、違うと思う。この娘をこんな目にあわせたのは俺の責任だ。俺がちゃんと自分のことに向き合わなかったせいで、こんなことが起きた。俺と出会わなきゃ、こんな目にあわなかったはずなんだ。」
「……。」
俺のせいだろう。俺が宗家に殺される前提があったから、それを阻止しようとした彼女は死に物狂いで戦った。最初から俺が宗家に首を差し出していれば、こんなことにならなかったはずだ。
「馬鹿者! そなたがエル坊に出会わなかったら、どうなっていたと思うんじゃ! ドラゴンズ・ヘブンに連れ戻され、再び人体実験を繰り返される身になっておったじゃろうな。下手をすれば魔族、魔王に成り果てておったかもしれん。」
サヨちゃんの言うとおりかもしれない。そう考えるとどちらに転んでも不幸な目にあってしまうってことだ。それなら……、
「俺なんていない方が良かったんじゃないか?いてもいなくても、彼女は不幸になっていた。そうなることは避けられなかったんだ。」
「だから、違うと言っておろうが! エル坊だけではないぞ。ここにおる全ての者が多かれ少なかれ、そなたの影響をうけておる。もちろん、妾自身も含めてじゃ。そなた無しで今の妾達はどうなっていたかわからん。死んでおった者もおるじゃろうな。それを否定するのは妾が許さん!」
俺がいなかったら? そんなことを考えたことはなかった。最初から考えると、ヴァル・ムングを倒せてなかったら、サヨちゃんやファル、ジュリアは殺されていたかもしれない。エド達に関しても、エルちゃんの暴走を止めていなかったら、みんな死んでいた。そして、その後も侍やミヤコもどうなっていたかわからない。タニシ? アイツは死んではいなかっただろうけど、唯一、俺と関わってから不幸になったといえるかもしれない。その辺は本人がどう思ってるかわからないけど。
「でもやっぱり、エルちゃんのことは納得できないや……。」
「結果だけで見れば、不幸になったかもしれん。でも、本人の意志で選んだ未来じゃ。失敗には終わったが、後悔しているとは思えん。受動的か主体的かでは大きく違う。此奴は確実にそなたと出会って成長しておる。そなたとの出会いで変わったのじゃ。」
「成長? 俺と関わったから?」
だとしたら、俺だけ成長してないんじゃないか? いつまでも弱いままだ。乗り越えられていない。
「そなたに提案がある。」
「提案って何?」
「そなたはこの場から逃げるのじゃ。理不尽な“処刑”など受ける必要はない。こうなった以上、エル坊のためにもそなたは生きるんじゃ!」




