激突!槍覇VS拳覇!!
「朧月彗扇!」
果敢に攻める。相手を殺す気で戦わねば、負ける。文字通り死力を尽くし、命尽きるまで戦い続けなくてはならない。
「私にこんな子供騙しの技が効くと思っているのか?」
もちろん効くとは思っていない。本気の戦闘用の技として、応用を利かせている。朧月彗扇はフェイントを効かせる技だが、これを多重に仕込んで、更なる幻惑効果を導き出す。嘘か誠か、攻撃の嵐の中で相手は彷徨い続ける事となる!
「多重朧月……といったところか。だが、私にどれだけ通用するかな?」
宗家は涼しい顔で、私の攻撃を凌いでいる。まるで私が幻惑にかけられているかのような錯覚に陥る。いや、違う! まさか……これは一0八計、鏡面類繕! 私が仕掛けたつもりが逆に私自身が幻惑にかけられている!
「気付いたようだな。大抵の者は術中にかけられていることにも気付かず、敗北する。さすがに五覇の称号を持つ者ならば、気付いて貰わねば困る。」
私が攻撃を中断したところで、宗家が必殺の突きを叩き込んできた。その前に槍で防いだものの、その攻撃の重さに冷や汗が出た。攻撃を中断していなければ、この一撃で私は沈んでいただろう。
「どうした? 貴様の実力はそんなものでは無いであろう? 私に拳覇の技を出させて見せろ。出来ぬとは言わせぬぞ。」
まだ本気にはなれないということか。私自身、本気を出していない訳ではないのだが……。実力差がこれ程のものとは。久しく味わっていなかった感覚だ。弟子入りしたての頃、師範を相手に稽古をつけているかのような感覚だ。圧倒的な力量の差を感じずにはいられない。
「絶影百歩!!」
五覇奥義の速さで対抗するしかない。私は速さに関しては自信がある。宗家以外の他の五覇たちもそれは認めていた。自分の持ち味を最大に生かしながら、着実に攻めていく。
「さすが速度は五覇随一と言われるだけのことはあるな。やれば出来るではないか。初めからその力を使うべきだったのだ。」
私の速さを褒め称えつつも、全力の速さの攻撃をものともしていない。先程よりは余裕を持ってはいないようだが、それでも攻撃が掠ることすらなかった。
「私も礼儀として、五覇奥義で対抗せねばならぬな。」
宗家が言う矢先に、異変が起こり始めた。宗家が正面で槍を受け流している最中、私の側面から攻撃の気配を感じ、とっさに避ける。そして、避けた先でもすぐさま攻撃を加えられた。違和感を感じた私は回避を行いつつ、宗家との間合いを空けて状況を確認することにした。
「おおおおーっと、どういうことでしょう? パイロン選手が何人もいます。4人、5人、6人、いや、8人もいます! これは夢なのでしょうか? 幻術なのでしょうか? さっぱりわかりません。」
違う。魔法ではない。この技は闘気を操ることにより、蜃気楼のような現象を発生させ、相手を幻惑する技だ!
「五覇奥義……離伯月影!?」
「その通り。この技を実際に見た者はごくわずかしかおらぬ。貴様に加え、戟覇、貴様の義父だけだ。」
「私の義父……だと?」
「気付いておらぬとでも思っているのか?貴様の素顔を見たことはなくとも、正体についておおよその推測は出来ている。」
「戯れ言を!」
宗家は高らかに笑う。まさか……私の正体に気付いていたとは……。




