吹けよ嵐
(ドガァァァァァァン!!!!!!!!!)
「コタロウ選手の大技が炸裂しましたぁ!正に天からの制裁、多数の巨大な雷が一辺に落ちたかと錯覚するほどです!」
ちょっとちょっと、司会の人!「天からの制裁」はないんじゃないの。俺、勇者なんだけど?何も悪いことしてないから!……いてて……!とっさに技を繰り出し、ある程度相殺できたものの、肌が露出している部分はちょっとヒリヒリする。軽く火傷をしてしまったみたいだ。
「フム、あの場面で大技を繰り出し、相殺するとは!我が最大の秘技を防がれるとは口惜しいものよ。」
大技?俺、そんなことしたっけ?雷の魔力を削ぐため、霽月八刃を繰り出そうとしたぐらいの事しか憶えていない。直前まではハッキリしすぎていて、時間が遅くなったような錯覚があったけど……、
(俺が力貸してやったんだよ。)
俺の心に誰かが語りかけてきた。ぶっきらぼうでふてぶてしい、あの声。
(もしかして、ムーザか?)
(へっ、俺以外に誰がいるってんだ?あまりにもおいしいシチュエーションだったんで、ついつい手が出ちまったわ!)
つい、って!……まあ、文句は言えない。助けられたのは事実だ。手を出してくれてなかったら、負けていただろう。
「剛撃重斬波……。先程のお主が繰り出した技はあの剣豪勇者のものであるな?」
(バレてるっすよ、先輩!)
(たりめーだ!アイツが気が付かないはずがねえ。散々喰らった技を頭で憶えてなくとも、体が忘れるはずがねえ。)
「返答がないが、正解であると拙者は解釈する。見間違えるはずがない。それに拙者のあの技は剣豪勇者の技に対抗するために編み出したものだ。……それが相殺されようとは、拙者の精進が及ばなかったということか。」
(違うって言ってやれ。実質、俺様だけの力で技を出していたら、負けてただろうよ。お前さんの技が組み合わさったから、何とか相殺できただけだぜ。)
実質、合わせ技…ツープラトンだったということか?俺の無意識的な攻撃も合わさっていたのか。
「ムーザが言ってるぜ。“俺の負け”だって。さっきのは実質俺ら勇者二人分の技だったみたいだ。だから、引き分けみたいになった。」
でも俺はちょっと怪我してるから、こっちが分が悪いのは明確だと思う。アイツはそれに気付いているはずなのに……。
「あの男が負けを認めていると?だが、拙者はそうは思っておらぬ。勇者に勝たねば達成したとは言えぬのだ。」
(相変わらずの石頭野郎め!)
全くだ。ストイック過ぎるな、アイツは。あくまで完全に決着がつくまで試合は続行続けるようだ。俺も止める気はないけど。
(俺が手を貸せるのは、これっきりだ。これ以上やるとお前がぶっ倒れる羽目になる。後はお前だけでやっちまいな。)
(ありがとう。恩に着るぜ。)
(それともう一つ。あの爺さん良い事言うよな。俺も生きてりゃ酒を共に酌み交わせただろう。あの爺さんの“一言”を忘れんなよ。それが勝利への近道だ。)
近道……果てしなく遠いんだけど?すぐ隣にあったとしても、断崖絶壁の上だったり、底が見えない崖下にあるようなもんだ。そこにあるのはわかっていてもたどり着けない。どうすりゃいいんだ?




